片想いの肖像~その2

「あんた何か分かったんでしょ。教えなさい」


紀里香が去った教室で美乃は凪に詰め寄った。

少年は不思議そうに小首を傾げた。

「ごまかしても駄目よ。あんたがあんな目をする時は絶対何かに気づいた時なんだから!」

「美乃さん、よく見てるんです……ね」

だから何で語尾だけ遅れるのよ!

心中でツッコミながら、美乃は顔を真っ赤にした。

「ば、ばか言ってんじゃないわよ!な、何であんたなんか……」

「とりあえず行ってみましょう」

言い訳を並べ立てる美乃を残して、凪はフワフワと戸口に向かった。

「あ、ちょっと……待ちなさい!」

我に帰った美乃は怒声を浴びせながら後を追った。


B棟にあるのは理科実験室、調理実習室のみで建物はさほど大きくない。

そのため授業の無い日は完全な無人エリアとなる。

恐らく盗撮魔はこのことを知った上で紀里香を呼び出したのだろう。

つまり犯人は授業の時間割を知っている者という事になる。

紀里香の言ったようにそれが山広智也だとすれば、犯人である条件はクリアしている訳だ。


凪と美乃はその校舎裏に立っていた。

「あの辺りからのぞいてたのね」

そう言いながら美乃は校舎のかどまで歩いた。

「で、一体何を見つけたの?」

金魚のフンのように付き従う凪を睨みつけて言った。

「はぁ」

凪が眠そうに答える。

「…………」

美乃は続きの言葉を待った。

「はぁ」

「…………」

「はぁ」

「…………」

「は……」

「いや、それはいいからその次!」

「あ」

「誰が『は』の次を言えと言った!あんた遊んでるでしょ!」

胸ぐらを掴もうとする美乃の手をくぐり、凪はくるりと背を向けた。

空振りでよろける少女を尻目に突然駆け出す。


フヌケ大王の必殺技『蒟蒻こんにゃく走り』が炸裂した。

くねくねと無駄に揺れながらもやたらと速い。

「あ、こら!待てこの野郎っ!」

少年と接するようになってから日増しに過激度の増す美乃の罵声ばせいが響いた。

走力の拮抗きっこうした二人の鬼ごっこは校舎の表側を通過し、先程美乃らがいた場所の丁度反対側の角まで続いた。

その間ほんの数秒。

小さい校舎だったのが幸いした。

「……ま、全く何考えてんのよ、あ、あんた!」

肩で息をしながら美乃は凪の制服を掴んで揺すった。

凪はそこから校舎裏を覗き込むと意味不明の笑みを浮かべ頷いた。


「とりあえず行ってみましょう」

意外な程息の切れていない凪がニコニコしながら言った。

「えっ、何……また!?」

まだ呼吸の整わない美乃は凪の服を掴んだまま引きずられるように走った。


勉強のし過ぎで運動不足だな、こりゃ。

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