さそり座の針~その6

その二週間後、葛城静華は学校を去った。

表向きは体調不良の為となっていたが、昨日の事が彼女に決心させたものと美乃は踏んでいた。

勿論、事の真相を知っているのは美乃と凪と葛城本人だけだ。


「滝宮くん、わざとでしょ!」


放課後、誰もいなくなった教室で美乃は凪に詰め寄った。

窓外から向き直った凪が不思議そうに首を傾げる。

「とぼけても駄目!あなたでしょ、私の机に蛙を入れたの。そして使

「はぁ」

いつものどっちつかずの生返事が返ってくる。

美乃は構わず続けた。

「いいわ、答えたくないならそれでも……でも一つだけ教えて。騒ぎがあった時皆がガチャ玉を見ていたのに、あなただけ辺りを見回してたわね。それもすごい目で……あれは何を見てたの?」

それだけはどうしても知りたかった。

このままでは夜も眠れない。

凪は暫し彼女の顔を見つめた後、鞄からまた例の軍手を取り出した。


「これ……


凪のその台詞を聞いて美乃は言葉を失った。

少年が何を言っているかがすぐに理解出来たからだ。


それじゃ何!?


こいつは使というの!?


美乃ですら凪のヒントでやっと思いついたものを、この少年はというのか……


なんなの、こいつは……!?


たまたま偶然?


それとも唯一の特技か何か?


いずれにしても、ずば抜けた洞察力と言わざるを得ない。


腑抜けた振りはしているが、なのではないか。


美乃の少年を見る目が一気に変わった。


「あなた……?」


美乃の猜疑さいぎに満ちた視線に首を傾げて返す凪。

全く答える気の無いその態度ににわかに腹が立ってきた。


「そう、分かった!分かったわよ……でもいいこと。いつか絶対にあなたの正体を暴いてやるから。覚悟してなさい、ナギ!」

気付くと美乃は少年の名を呼び捨てにしていた。


勉学では決して味わえない高揚感が全身を貫く。

認めたくはないが、何かから解放されたような爽快感があった。

後から振り返ると、この時が彼女が凪をパートナーとして認めた瞬間だった。

美乃の怒声を浴びながら凪は子供のような笑みを浮かべた。


「いいお顔です……美乃さん」


凪も初めて美乃を名前で呼んだ。


その真っ直ぐな眼差しに、美乃の顔は夕日よりも赤く染まった。

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