生え

指先にぷつり、と小気味よく、五分の魂が抜けていく感触がした。そうして私は猫になれた。

猫はまあゃ、と一つ鳴いててっしと猫タワーに登る。私のことは奴隷のように考えているに違いない。違いないなんて断言しても私の勝手な空想に過ぎないが猫はセリフを吐かないからここではこれが事実だ。

猫は毎晩私の枕元に虫けらたちの空っぽな外殻を招き入れてくれる。夜には元気よく動き回っていたであろうそれは、もちろん彼・猫がその中身を奪い、いや解き放ち、そうしているのだ。どういうつもりかはわからないが私のことは奴隷のように考えている彼猫だから駄賃か何かのつもりだろう。いや実際のところわからないからもちろん後で「猫 虫 死骸 持ってくる なぜ」で検索かける。猫はなおぉと鳴く。

羨ましい。命を奪ってもここまで愛らしくいられるのだ。私は無邪気に命を奪う心持ちを失っているから猫のようには生きられない。今、私が虫を殺しても、どこかわざとらしくなってしまうのだ。殺したいから殺す、本能のままに従い、いや殺したいなんて考えていない、ぷ〜ん動くものをはっしと掴みそれが少し動かなくなる、口元に運んでみる。それだけだろう。なんと純粋なことか。ぷ〜ん。ぷんぷん

っと先ほどから小蝿が飛んでいる。頭上を飛ばれては気が滅入る。そう生きているだけで気が滅入られるのも気が滅入るだろうがどうにか私はこの邪な心を以て小蝿を始末しようと思う。手にその辺のコピー用紙を丸めて持ってブンブンと振ってみるがすかすかとどこかへいく小蝿。うざったい。この心はずんずん猫から遠ざかっていく。邪な考えが身を占めていく。

ぴた、と親指の上に小蝿が止まって、はて、と私が小首を傾げるうちに、その小蝿は飛ぶ気配もなく、私が人差し指をその上にかぶせても飛ばず、なぜか無抵抗に、その身からぷつりと音を立てた。

この魂を逃した意味を考える。死骸を口元に運び、一気に飲み込んでみる。じょら、と舌が舞う。必要がないことをした。私は猫になれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る