完全犯罪には程遠かった。あまりにも証拠が残りすぎていた。凶器は鈍器、それもハンマー、DIYに使うような木工・釘打ち用のハンマーだ。これはハンマーというか金槌か?トンカチか?私にはその区別がわからないが、明らかにそれは被害者の頭をカチ割り中身の思考を床にばら撒いている。

被害者。ああ俺だ。俺はうまくやったと思うよ。多分誰にも見られていないはずだ。俺は完全犯罪者になれるよ。大丈夫。

滴り落ちる鉄分と酸素は空気を重く生臭く揺らした。俺を殺した彼もきっとそのように揺らいでいた。

彼が俺を殺す前に、俺は彼をバーに誘った。カウンター席で嗜む酒にこっそりと薬を盛った。いや、毒だ。遅効性の。彼が気づかずにそれを飲むのを見届けた。数時間後に彼は死ぬ。

その死の前に俺は殺された。俺の思考は筒抜けだったようだ。俺は俺の頭蓋から脳みそが溢れているのにも気づかないままに、死んだ。

いや、俺を殺した彼は死ぬ。それは多分俺がやったってことにゃならない。酒で血圧が上がって、あいつの生活習慣のせいでできた血栓が剥がれ、大事なとこに詰まり、死ぬ。それだけだ。

でも……俺はまさか、な。殺されるなんて。あいつの脳みそは見えないままだった。俺は全部透けていたってのにな。

俺は未熟だ。未熟のまま死んでいく。誰のどんな思惑にも逡巡にも気づかないまま。

ああ!愚かだ。

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