ドブへ

今日は仏滅に違いない、そう思って調べたら先勝だった。先勝とは訴訟に良いらしい日である。急いで訴訟をしなくてはいけない。

さて訴えるものはいずこと辺りを見回すがパンクズ、糸くず、ボンドくずなどのくずどもしかおらず、張り合いがないのを良いことに私はベッドに寝っ転がった。補足するとボンドくずとは手にボンドがついて乾いた後に剥がしたくずである。これを聞き、ははあこの文章の筆者であるきみは工作をしていたのだろうと邪な推理をする者もあろうが、違う。私は趣味として工作をするでも裁縫をするでもなくボンドを手のひらに塗って乾くのを待ち、これを剥がす。そして剥がし終われば、その辺に放り、待つ。待つからといって何もない。ただ干からびたボンドが私の手相を反転させるのみである。これが良く、どう良いかというと、ボンドを手に塗っている間はべたべたとするため何にも触れず何もできない。すなわち何もしなくてようござんす。嬉しい。

実家ではこんなボンドの無駄遣いをすれば怒号とみかんが飛んできた。帰郷ができない今をありがたく思う。食べ物だけは粗末にしてはいけない。私は食べ物だけは粗末にしない。しかし、粗末にしたい時間はあるのだ、今この時がそうなのだ。

私はベッドから起き上がって机の上のボンド容器を引っ掴み、蓋を開け手のひらにまたボンドを絞り出した。例えばバナナが安売りされていたら買わなければならない気がしてしまうような気質だから、ボンドは私の味方なのだ。にゅるり、と無気力が生命線を覆う。何もしなくてよく、何もしたくない。幸福だ。

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