逃避にコンビニ

っだーーーー仕方がない。割り切るしかないんだ。


彼は立ち上がった。止むを得ず立ち上がった。立ち上がりたくなかったが立ち上がった。ひとつ伸びをし、テーブルの上を見やり、そこにあったパンのカラ袋をひっくり返して成分表を見た。

原材料名、つぶあん、小麦粉、ショートニング、砂糖、卵、牛乳、あんこ、ケシの実、消しゴムのみ、机、上、あり、他に、できる、ことは、生クリーム、ぐる、ぐると部屋の中を回りパッケージをつぶさに読み、つぶあん、小麦粉、その胃の、彼の胃の既に中にある焦燥をコインランドリーのように乾いた空気に混ぜてただ動き回る回る、回る回る、回る。


っだーーーーー仕方ない、成分表なんか見ていてもどうにもならない。彼はぐしゃり、パンの袋をゴミ箱に叩き入れ、どっかり、ベッドに座る。天井を見る。


そういや牛乳が賞味期限切れそうだったな。チクタクチクタク。ココアでも淹れるか。チクタクチクタク。電子レンジで温めると必ず溢れるんだよね。チクタクチクタク。食べたら腹ごなしに散歩行くか。チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクってうるさいな時計見ると10時、あーーー向き合わねばならん。逃避、逃避です、パンもココアも牛乳も電子レンジも散歩もベッドもトイレに行きたいのも逃避逃避、頭皮にベッド薄皮あんぱん。


っだーーーーー。っだーーーーーーーー。よし。やる。俺はやる。彼は立ち上がった。ひとつ伸びをし、体を左右にひねった。さらにつま先に向けて上体を倒し、次に天井に向けて上体を反らした。最後に大きく息を吸い、吐いた。

そして手を上げ、グググと力を込めて関節をいじめる、もう一度上体を左右に捻り、ながら部屋の中をぐるりと一周し、ベッドに戻りどっかり。


あんぱんあんま美味くなかったな。半端なあんぱん。腹減ってきたしもうちょい美味そうなの買いに行くか。コンビニコンビニ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る