第3話 転生

目が覚めると木で組まれた天井が見えた。

ここはどこなのだろう。

手足が思うように動かない。

そりゃあんな事故をしたのだから当たり前か、と考えていたが、自分の手を見てみると非常に小さいことに気が付いた。

一体どうなっているんだ。

まるで赤ちゃんのようではないか。

そう考えていると近くで女性の声がした。


「ケータ、起きちゃったの?」


女性の声がする方へ顔を向けるとそこには20代後半くらいの、金髪でお淑やかそうな外国人女性が立っていた。


「あっ、あっ」

声を出そうとしたがうまく声が出せない。

それを見て微笑みながら女性が近づいてきた。


「どうしたの?ママに何か言いたいの?」

と抱っこをしながら尋ねてくる。

言葉を発するのを諦め、抱っこをされながら今の状況を整理してみた。


うん、今俺は完全に赤ちゃんになっている。

しかも記憶がそのまま残っている。

この状況は転生小説で読んだ内容と酷似している。

まさかと思いながらも何故か俺はここが地球とは異なった異世界なのだと確信を持っていた。


まずはこの世界のことを理解しようと、赤ちゃんになりきり、生活してみることにした。

とてつもない偶然により前世と同じくケータという名前らしい。

名前に運命を感じながらも俺はこの母親の腕の中で再度眠りにつくのであった。





月日が経ち、俺は今日で10歳になる。

10歳になるまでこの世界のことを調べてみたが、やはり今俺がいるのは異世界のようだった。

ちなみに俺が住んでいるのはユーラ村という森の中に位置する村だった。

突然ドアの方から父親のヘンリィが声をかけてきた。


「ケータ、起きたか?稽古するぞ」

その手には木刀が握られている。

「また稽古?毎日疲れるよー」

そう返事をしたが強制的に外へ連れ出された。


ヘンリィは元々王国の騎士団長だったらしく、剣の扱いが物凄くうまかった。

前世で剣など握ったことがなかったが、ヘンリィの毎日の稽古のおかげで剣の扱いは慣れていった。

いつも通りヘンリィは「かかってこい」と俺の攻撃を待っている。

どうせなら一泡吹かせようと全力で向かうが簡単にいなされた。


「強くなったがそんなんじゃ王国に通う子達に歯が立たないぞ。お前もあと2年したら王国に通うんだからもっと強くならないとな!」


剣を学ぶのにそこまで乗り気ではなかったが、ここまで言われると腹が立つ。

俺は王国に通う前にヘンリィに絶対勝ってやると意気込んだが、とりあえず今は勝つことができないためその日は稽古を終わりにさせてもらった。


次の日の朝方まだ皆が寝ている時間に、ひっそりと俺は森の中に訪れた。

この辺りはモンスターが出ることは知っていた。

俺はモンスターを相手にして強くなろうと家に置いてあったヘンリィの剣を持ってモンスターを探していた。


森の中に入り30分くらい経ったか、村は木々で見えなくなっていた。

辺りを見渡したら、丁度そこに猪のようなモンスターがいた。

よし、こいつで練習しよう、とタイミングを見計らい剣を取り出し斬りかかろうとした。

しかし猪のようなモンスターはすぐに察知し攻撃はかわされた。

その瞬間逆にこのモンスターの体当たりを脇腹にくらった。

今まで経験したことないような痛みだった。

このままでは勝てない、そう考えた俺は出直そうと村の方へ戻ろうとしたが、モンスターは当然追ってきた。

これではやられると思い、痛む脇腹を抑えながら村とは別方向に走って逃げた。


モンスターが何度も攻撃をしてきたが、何とか必死に攻撃をかわしながら逃げ続けた。

めちゃくちゃに逃げたせいでもう村がどこの方向にあるのかわからない。

もうそろそろ限界だという時に古びた小屋が見えた。

モンスターの攻撃に耐えられるかわからないがあの小屋に逃げ込もうと気力を振り絞り全力で走った。


追いつかれそうになりながらも何とか小屋に入ることができた。

入ったドアのところにガンガンとモンスターは体当たりをしているようだったが、見た目とは裏腹に小屋はびくともしない。

助かったと安堵のため息をついた。


一安心したところで小屋の中を見渡した。

そこには小屋の天井まである高い本棚とその棚にギッシリ本が並べられていた。

一瞬で胸が高まった。

村には本が全くないため、俺は日頃退屈で仕方がなかった。

この世界の基本的な字の読み書きはある程度教わったがまだわからないことが多かった。

ここに置いてある本が読めるか不安だったが本を開き読み始めると、すんなりと読むことができた。

高いところにある本は届かないため手の届くところから順に読むようにした。


まず手に取ったのは『魔法の基本知識』という本だった。

この世界には魔法があるのか、と驚いた。

しかし前世を振り返り、そういえば読んだ転生小説でも魔法を当然のように使ってたなと思い出した。

俺は久しぶりの本ということもあって、時間も忘れ熟読した。


この本の内容としては、魔法の使用方法と構造について書かれていた。

俺は全てを理解するとともに主な点を纏めた。


・魔法を使うには魔力が必要

・魔力はモンスターとの戦闘、その他アイテム等により増加が可能

・魔法は魔法名の発言、動作、思想により発動しその違いによって大小、効果が異なる


魔法を使えるなんて信じられないが、俺は『魔法の基本知識』に記載されていた基本的な魔法を使用してみることにした。








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