第2話 思わぬ展開
次の日の朝、学校へ行く支度をしている時ふと小説が目に入った。
もう読まないだろう。
折角なので智香にあげようと適当に鞄にしまい学校へ向かうことにした。
教室に着き、自分の席へ向かう前に智香の席へ本を置きに行った。
「智香。これやる。」
「え、小説?私にくれるの?なんで?」
予想通りの反応だ。
「転生する小説が流行ってるって言うから買ってみたんだが、全く合わなかった。だからやるよ。こんなのが流行ってるんだな。」
と言葉を返す。
「流行りに乗らない俺かっこいい的な?」
小馬鹿にしたような顔で智香が言った。
「そんなんじゃない。そんなこと言うなら他のやつにやるから返せ。」
「嘘嘘!読んでみるから頂戴。ありがとね!」
そう言って智香は本を自分の鞄にしまった。
まあ他のやつにあげると言っても俺には友達がいないから結局智香にあげるしかない。
そう考えながら自分の席へと向かった。
退屈な授業が終わり休み時間になると、友達と話に行く者と自分の席に留まる者と分かれた。
昨日一通り交流が終わり、少し落ち着いたのだろう。
そういえば、と智香の方を見ると今朝あげた小説を読んでいた。
いらないからあげたものだったが、読んでくれていると妙に嬉しい。
そんなことを考えていると智香に話しかける者がいた。
昨日俺と同様に1人で小説を読んでいたやつだった。
名前は確か、
「智香さん、その小説読んでるの!?私と一緒だ!面白いよね!」
と目をキラキラさせながら話しかけている。
まだ読み始めたばかりの智香はその熱量についていけていない。
「そ、そうなんだ。まだ読み始めたばかりだからあんまりわかんないんだけど、もう少し読んだらまた話そっか!」
コミュ力が高いからなのか智香は普通に言葉を返す。
だが話しかけたやつは熱量を抑えられないのか話しかけ続けた。
「そうなんだ!でもこのラノベは素晴らしくて、主人公が転生して特別な能力を持つんだけど、その能力っていうのが、」
「おい。その辺にしとけ。」
思わず声をかけてしまった。
「その本は今日俺があげたばっかであんまり読めてないんだよ。話したい気持ちはわかるけどネタバレはするなよ。」
少し強く言いすぎたか、と思っていると、何も言わずにすぐにそいつは離れていった。
離れる際にはすごく怖い目で見られた気がした。
少し悪かったかなと思ったが間違ったことは言っていない。
「ありがとう。助かったよ。」
と少し小声気味に智香が声をかけてきた。
その声に手だけで応えて、俺はいつも読んでいる分厚い小説を取り出し読み始める。
この時、後ろの席で高木早紀が俺のことを睨んでいるとは知る由もなかった。
---
次の休み時間にも智香はあげた小説を読んでいた。
その時にも智香と仲の良い数人が話をかけていた。
友達が多いのも考えものだなと思いながらも、少し羨ましい気持ちで耳を傾けて聞いていた。
「智香、何読んでるの?本読んでるなんて珍しいじゃん!」
「なんか最近人気の小説なんだって。貰ったから読んでるけど面白いよ!」
と友達からの問いかけにすぐに返事を返す。
「あー!最近流行りの転生する小説ね!私も別の小説読んでるけど面白いよね!」
こちらの友達も目をキラキラさせながら力説している。
俺とは絶対に合わないな、と思った。
智香にその本をあげた張本人がこんなこというのもなんだが、こういうやつが読書が趣味とか言ってると反吐が出る。
だったら漫画でも読んでた方がマシだ。
その友達は続ける。
「転生して特別な能力持ちたいわー。そんで楽して生きたい!私も転生できないかなー。」
とふざけたことを言っている。
何が転生だ。
まともな小説読めないのか、そんな本読んでるから変な妄想を始めるんだ、と憤りを感じる。
勝手に聞いていて理不尽だな、と自分自身思ったが、苛つく気持ちを抑えられなかった。
俺は会話を耳に入れないように自分の小説を広げ、読むことに集中することにした。
---
学校が終わり、すぐ帰宅しようと駐輪場へと向かった。
駐輪場に着くと自分の自転車の下で人がしゃがみ込んでいた。
どうしたのだろうと近付くと、そのしゃがみ込んでいるのが高木早紀だとわかった。
「何しているんだ?」
と話しかけると高木早紀は少しビクッとしたが、すぐに冷静になったのかゆっくりと立ち上がった。
「あ、圭太くん。もう帰るんだね。えっと、自転車の鍵が圭太くんの自転車の下に落ちちゃって拾ってたの。ごめんね!」
教室の時の態度と打って変わって柔らかい言葉で話す高木早紀。
「そうだったのか。もう拾えたのか?」
と聞くとこくんと頷き、じゃあねと言って自分の自転車のもとへ向かっていった。
俺は少し不思議に思ったが、あまり気にせず自転車に乗り自分の家へと向かった。
帰り道の途中、やっぱり新しい小説を買っておこうと本屋へ向かうことにした。
途中で方向転換したためかいつも通らない道を通ることになった。
本屋は大通りにあるため、どこの小道へ曲がっても突き当たるだろうと適当な道を通った。
その道は少し下り坂となっており、あまり自転車をこがなくても簡単に前へ進んだ。
これは正解の道を選んだなと思いながら、早く本屋に行きたいとペダルを強く踏み、ウキウキしながら大通りへと急いで向かった。
あと少しで大通りに突き当たるため、スピードを落とそうとブレーキを握った。
だが、どんなに強く握ってもブレーキが掛からない。
足で止めようにも全くスピードが緩くなることもなく、焦っていると既に目の前は大通りだった。
そのまま俺は道路へと突っ込んでいった。
当然のように車は走っている。
横を見ると目の前には車がきており、自転車ごと俺を吹き飛ばす。
何m飛ばされたのだろう。
俺は薄れゆく意識の中、自転車を見るとブレーキの線が切られていたことに気付いた。
高木のやつか、と考えている内に俺は意識を失い、そのまま命を落とした。
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