4—7 ヘルメット
【前回のあらすじ】
運悪く柳本の知り合いに真由との恋人つなぎを写真を撮られてしまったリユ。写真が拡散されたら傷つくのは真由なので、柳本を説得するため、真由の小説のシミュレーションだったとのストーリーを考えたリユは、気まずいながらも真由に連絡して、秘密にしていた小説執筆を柳本に話すことについて了解を得る。
とりあえず美那に報告しようと思って、部屋のドアをノックする。
「美那、いいか?」
「うん。どうぞ」
ドアを開けると、立ち上がった美那が少し恥ずかしそうに俺の方に左手を差し出す。
俺が手を取ると、美那はぎゅっと握って自分の方に引き寄せる。
そして、どちらともなく、軽いキス。
昨日までは指折り数えられたキスの回数は、今日
とりあえずベッドに腰を
「どうだった?」
「香田さんは納得してくれた」
「よかったじゃん。あとはヤナギをそれで説得できるかどうか、か」
「だな」
柳本とはこれから電話で話そうかと思ったけど、明日にでも面と向かって言った方がいいような気がしてきた。さっきの香田さんの時も、最初向こうがどんな感じか
「いまふと思ったんだけど、明日、あいつに会って話した方がいいかな?」
「そうだね。電話だと、相手の感じとかわかりにくいもんね」
「だよな。じゃ、とりあえず電話で、明日会って話そう、って言ってみる」
「うん、それがいいかも」
「あ、バスケのことはどうする? それと俺たちのこと」
「あー、そうだね……この間、わたしたち、3x3のことで嘘ついちゃったしね。ていうか、ヤナギにお前ら付き合ってんじゃねえの、みたいなこと言われちゃってたし、どう思うかな?」
「あれ、いつだったっけ? 確かバイトから帰ってきた次の日だよな。まだ2週間も経ってないじゃん」
「でも、ヤナギは、やっぱありえないか、的な言い方だったよね」
「うん。まああいつは最近の俺たちの関係を知らなかったしな。なんとなくだけど、あいつは味方につけておきたい気がする。ま、数少ない俺の友だちでもあるし」
「そうだね。じゃあ、明日、わたしも一緒に行こうか?」
「マジで?」
「うん。明日からは学校の一斉休業日で1週間は練習もないし」
「あ、そうか」
「だからリユとずっと一緒にいられる……」
「え、あ、マジ? じゃあ、デート行こうぜ!」
「ほんと⁈」
美那がキラキラしたマジで嬉しそうな顔を見せる。
「ほんと。てか、俺が美那とデートしたいの!」
そういや、3on3のプロバスケの試合に行く時、デートでもいいよ、みたいな言い方をしてたけど、俺は美那にからかわれているのだと思っていた。そうじゃなかったんだな……。でもまあ結果的には
「……うん」
美那が俺の腰に腕を回して、頭を肩に預けてくる。さらさらの髪が
「あ、柳本」
「あ、そうだった」
柳本にその場で電話をかける。美那にも聞こえるようにスピーカーにする。
着信音が聞こえて3秒も経たずにヤツは電話に出た。
——森本! お前、なんだよ、あれ!
「いや、マジで驚いた」
——いや、びっくりしたのはこっちだし! ありえないだろ、お前、香田さんと付き合うとか。
「あ、いや、その件なんだけどさ、明日会って直接話したいんだけど」
——直接? なんで? あ、口止めとか?
「さすがにお前もまだ
——言えねえよ。何かの間違いとしか思えねえし。だから、とりあえず先輩にも
「うん。助かる」
——お前、マジ、殺されるよ。どれだけのやつが香田さんを狙ってると思ってんだよ。もしかして、この間の前期末試験が良かったからか? それに幼馴染とはいえ山下とも
「明日、何時ならいい?」
——え、ああ、朝早くなけりゃ、何時でもいいけど。
「じゃ、11時とか? お前、ブルーラインだよな。上大岡とかでいい?」
——ああ。昼飯ぐらい
「ああ、わかった。なんならドリンクも付ける」
——よし。じゃあ、明日な。
「おお」
「ヤナギ、わりとあっさり納得してくれたね」
「なんか、相当の衝撃だったみたいだな。けど、先輩の方にも口止めしてくれてるとはチョー助かった。あいつ、軽いところは軽いけど、まあ押さえるべきところは押さえるよな。俺の小説のことも口を滑らしたけど、最後までは言わなかったんだろ?」
「うん。結構
「
「あれは冗談。色仕掛けしたのはリユに対してだけ」
「マジか。あれはちょっと
「うん、動揺したの、わかった。へへ」
「ちぇ」
「リユになら見られてもよかったし」
「え、じゃあやっぱりこの間の洗面所の時も?」
「そうだよ。まあ予期してなかったからちょっと恥ずかしかったし、ビックリしたけど」
「そうなのか。いや、いろいろ思い起こしてたら、もしかしたらそうだったのか? とは思ったけど」
「うん」
照れた顔の美那にキス。
香田さんの件もひとまず落ち着いたし、なんかまただんだんとディープなやつになっていく……。
と、スマホが震える。
キスを中断して、スマホを見る。
かーちゃんからだ。
——>今から帰るけど、いい? 家に着くのは11時過ぎ。
いい? って……。
「かーちゃんから」
美那に画面を見せる。
「うゎー、メチャ気を
「でもまあ、タイミングが悪いとお互いあれだしな」
「……うん」
かーちゃんが帰るまであと30分くらいあるけど、さすがにもう一回は無理だろうなぁ。
「ねぇ、いまエッチなこと考えてた?」
「え? ……ああ、まあ」
「実はわたしもそんな気分だったけど」
「そうなの?」
「うん」
「女子もそうなるんだ?」
「うん。人によって違うかもしれないけど」
「でも、今晩、泊まっていくしな」
「え、でもそれはさすがに……」
「だよな……」
なんか、お互い、気持ちをどこに落ち着けていいかわかんない感じだ。
「あ!」
突然、美那が声を上げる。
「どうした?」
美那は答えずに立ち上がると、クローゼットを開ける。下着とか入れてあるとか言っていた、あのクローゼットを。
俺は思わず顔を
「ねえ、見て、これ」
え、まさか、美那、エッチな下着とか?
恐る恐る美那の方を向く。いや、ちょっと期待も混じってるけど。
って、なぜか美那は俺のヘルメットを持っている。
「え?」
「よかったぁー、リユが買っちゃわなくて」
「え? それ俺のじゃないの?」
「違うよ。お
「マジか。高かっただろ」
「うん。こんなにするとは思わなかった。ごめん、リユに無理させるところだった」
「え、ああ、うん、いいけど。まあちょっと悩んだ」
「ありがと。でもこれで免許を取って一年になったらタンデムできるでしょ?」
「うん。まだしばらくはタンデムで
「うん!」
美那は幸せを噛みしめるような顔で、大切そうにヘルメットを抱えて、ベッドに座る俺の横にゆっくりと腰を下ろした。
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