4—6 真由への連絡

【前回のあらすじ】

 〝初めて〟を終えてさらに美那をいとおしく思うリユ。ちょっと贅沢して頼んだデリバリーピザを食べながら、タンデム用ヘルメットのことやチームメイト・ナオのことなど、ふたりの話は尽きない。夏休み明けに学校での距離感をどうするかを話していると、なんと柳本ヤナギからリユと真由の恋人つなぎの写真が送られてくる。美那のすすめでリユは真由と相談することにする。




「わたしがいたら、真由ちゃんと話しにくいよね?」

「え、別にそんなことはないけど」

 あ、でも香田さんが小説を書いていることは秘密だったな……。

 というのも、俺が瞬時に思いついた柳本やなぎもとへの説明はこんな感じだからだ。

〝香田さんとは図書室で小説についてたまに会話する仲で——それだけでも柳本は文句を言いそうだが——香田さんが小説中でデートシーンを描写するのにリアリティが欲しくて、そのシミュレーションを俺に頼んだ。もちろん俺は香田さんとデート気分を楽しめたし、役得だったけど、それ以上のことはない。ただまあ少なくとも香田さんから信頼はされている〟

 まあ多少無理があるかもしれないけど、ありえないことじゃないだろう。それに自分も漫画を描いている柳本なら納得しやすい気もする。でも、これだと香田さんが小説を書いていることを柳本に話さなけりゃならなくなるな。

「どうする? わたしは部屋に行ってようか?」と、美那が気をつかってくれる。

 でもこの際だから、香田さんには悪いけど美那には言っておくか。美那なら誰かに言いふらすことはないし。

「あのさ、香田さんからは秘密にしておいてほしいって言われたんだけど……」

「え、なに?」

「お前だから言うけど、実は香田さんも小説書いてるんだ。今日の話の中で初めて知った。しかも偶然俺と同じ投稿サイトで公開しててさ、しかもさらに偶然香田さんがやったユーザー企画に俺が参加してて、それでなんと香田さんから感想をもらってた。お互いペンネームだから気がつかなかったけど」

「え、そうなの? それにちょっと意味がわからないところが……ユーザー企画って何?」

 俺はその周辺のことを美那に説明する。

「真由ちゃんもペンネームで、しかも男子のふりをしてたんだ。それじゃ、普通気づかないよね」

「ああ、全然。でもさ、香田さんの方は、まさかと思いながらも、カワサキZの小説の内容がなんか俺たちに似ているって思ってたんだって。ルーシーもそうだったけど」

「へぇ。確かにあの内容だとそう思うかもね。あ、だけどね、ルーシーの場合、あの時読んだのは実は2度目なの。あの前の晩、練習試合の夜にうちに泊まった時、しおかぜ公園で言っていたカワサキZってリユのことじゃないか、って指摘されちゃった。ほとんどバレてったっぽい。それでその時に一回読んでた。ごめん」

「え、まあ、それはもういいけど。そうなんだ。でも俺も目の前でルーシーに読んでもらって、感想をもらえて嬉しかった」

「うん、それならよかったけど。あ、それよりヤナギの件」

「あ、そうだった。香田さんの小説の話をしたのは、柳本にはこうやって説明しようかと思って……」

 俺はさっき思いついたストーリーを美那に話す。

「どうかな?」と、俺は美那にく。

「確かに説得力はあるね。さすが小説家というか」

「お前、からかってる?」

「違うよ。あの小説だって、内容的な胸キュンとは別に、リユってすごいなって思ったし」

「マジで?」

「うん。バスケもどんどん上手くなっていくし、こんな才能もあるなんて、やっぱリユってスゴイ! って思ってた」

 美那はちょっと照れながら言う。

 うぅ、かわいいっ!

「だけど、ちょっと無理矢理むりやりっぽくね?」

「うーん、むしろ想定外の感じがいいかも」

「そうか。ただ、香田さんから小説を書いてる件を柳本に言う許可をもらわなきゃいけないんだけどな」

「あ、そうか。でも真由ちゃん的にも変に広められるよりはいいんじゃない? それにヤナギだってこっそり漫画描いてるんだし」

「あ、そうすると、香田さんにも柳本が漫画をいてるって話をしなきゃならないか」

「ま、そこはいいんじゃない? 真由ちゃんは口は堅い方だと思うよ」

「うん」

「じゃあ、早い方がいいんじゃない?」

 もうなんだかんだと10時を回っている。

「そうだな」

「わたしはやっぱり自分の部屋に行っておくね」

「え、別にいいよ」

「だけど、ほら電話で姿が見えなくても、真由ちゃんだってわたしに聞かれたくないだろうし」

「ああ、まあ、そうか」

 美那が食事の後片付けをしてから〝自分の部屋〟に行くというので、俺が先に2階の自分の部屋に上がる。


 しかし香田さんに電話するの、別の意味で緊張するな。

 電話をかけると、5秒ほどして香田さんが応答した。


——森本くん?

「うん。どうも」

——あ、うん。どうかした?

「実は、ちょっと困ったことが起こって」

——困ったこと?


 当然のことながら香田さんはちょっと余所余所よそよそしくて、電話で表情も見えないから切り出し方が難しい。


「実はさっき、俺のクラスの奴から、写真付きのメッセージが届いてさ。その写真がなぜか俺と香田さんが手を繋いで歩いているところで……」

——え? なんで?

「去年卒業したそいつの知り合いが撮った写真に写ってたらしいんだ。香田さんは実山みのりやま学院じゃ有名人だから。香田さんが男と恋人つなぎで歩いているのは、卒業生であれ実山の男子にとっては大事件なんだ。それでそいつに連絡してきたらしい。そいつには相手が俺だってわかったらしくて、それで俺に、どういうことだ、って連絡してきた。俺としては割とよく話す奴なんで」

——そうなんだ……。クラスメートってわたしの知ってる人かな?

「柳本って知ってる?」

——あー、うーん、なんとなく。背は森本くんと同じくらいで、ちょっとお調子者っぽい感じの子?

「ああ、うん、そう」

——それで、柳本くんはなんて?

「いや、よくわかんないけど、あいつ的には、なんで俺が香田さんとそんなことになってんだよ、って感じで、勝手に怒ってるっぽいだけなんだけど。でも、あいつ、おしゃべりというか、ゴシップ好きというか、そういうところがあって、変に拡散されたら香田さんがイヤだろうと思って」

——ああ、うん。あ、でも森本くんも困るよね?

「え、ああ、まあ……」

——ふぅ……。


 ああ、なんか、重い溜息ためいき

 これって、俺が美那のことが好きなのに、周りから香田さんと付き合っていると思われたら困るって意味か?

 ちょっと前までだったら、俺的には全然困らなかったのにな。


「それで、こんな話にしたらどうかな、って思って」

——こんな話?

「うん。あ、その前に、柳本は実はこっそり漫画を描いててさ。それと俺が小説を書いてることを知っている数少ない人間のうちのひとりなんだ」

——へぇ、そうなんだ。

「あいつが描いている漫画を俺に渡してきて、感想を聞かせてほしいって流れで、実は自分も小説を書いているって、つい話しちゃったんだけど。まあある意味、創作仲間的な感じはあるな」

——わたしたちもそんな感じかな?

「ああ、うん、そうだね。そうなれたら俺的にはうれしいけど」

——うん。あ、それで?

「まず、俺と香田さんとは図書室で小説についてたまに会話をする関係という設定。これはまあ事実だけど、実は香田さんも小説を書いていて、小説中でデートシーンのリアリティのために、そのシミュレーションを俺に頼んだ——ってことにしたらどうかと思って。俺はあの香田さんとのデート気分を味わえたし、役得だったけど、それ以上のことはない。そして、少なくとも香田さんから信頼はされているみたいだぜ、ってちょっと自慢を入れる感じでどうかな? ただ設定上、香田さんが小説を書いていることを柳本に言わなきゃならなくなるけど」

——あー、そうか。でも、あれだね、さすがカワサキZさん。なんか、リアリティある。

「そう?」

——うん。

「じゃあ、どうする?」

——口止めしたら、柳本くんはほかの人に言わないでくれるかな?

「絶対とは言えないけど、たぶん大丈夫だと思うな。俺の場合もそうだったし」

——そうなんだ。

「それにあいつだって香田さんのことを傷つけたいとは思ってないはずだし」

——うん。じゃあ、それでお願いします。

「わかった。まあ、あいつがそれで納得してくれるかどうかはわかんないけど。でもあいつも漫画を描いてるから、そういうたのみごとをする感じはわかるんじゃないかな?」

——うん、そうだね。ありがとう。わたしのために考えてくれて。

「いや、別に……あ、でも、その設定だと、香田さんがデート経験がないってことになっちゃうな」

——え、それはいいよ。ほんとにし。周りにもそう言ってるし。

「うん。わかった。じゃあ、それで進めるね?」

——はい。お願いします。また、何かあったら、連絡ください。

「うん」

——じゃあ。

「じゃあ」


 ふぅ。よかった。香田さん、納得してくれた。

 次は柳本か……。

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