4—5 驚愕(きょーがく)のメッセージ

【前回のあらすじ】

 母親の加奈江が出掛けてしまい、再びふたりきりになったリユと美那。美那がシャワーを浴びている間にリユは避妊具を着ける練習をする。シャワーに行こうとするリユに加奈江から「するならちゃんと着けるように」とのメッセージが入る。母親の公認を得て、リユの心は落ち着く。そして、ふたりは遂に結ばれる。




 壁を背に裸のままベッドに並んで座った。

 タオルケットで身体からだを隠してる美那の肩に腕を回して、抱き寄せる。いつもよりしっとりしている美那の肌の感触が心地いい。

 おまけに美那はすっかりリラックスして、俺の肩に頭を預けてきている。

 髪の香りがまた、たまらん!

 あー、世の中にこれ以上の幸せはあるのだろうか?

 ほんと、マジ、俺、美那のことが好きだ。ありえんくらい、好きだ。

 正直に言って、俺は高校の間はエッチできるなんて思ってなかったし、それどころか彼女ができるとさえ思っていなかった。

 それが、相手が美那で両方かなっちまうなんて、もう奇跡以外のなにものでもないっ!

 そしてこの距離感。

 ゼロzero

 美那の顔をのぞき込む。

 視線が合うと、美那は満ち足りたような笑顔を俺に向ける。

 俺は思わず、口づけをする。

 深からず、浅からずのキスが続く。

 で、延々とキスをしていたら、俺の腹が鳴った。

 そういや、昼はいまいちパワー感のない美術館のお洒落しゃれランチだったな……。

「そういえば、夕飯まだだったね」

 美那が笑う。

「ああ。いま、何時だ?」

 仕方なく立ち上がって机の上のスマホを手にする。

 20時半を過ぎている。美那に画面を向ける。

「どうしようか? 一緒につくる?」

「いや、さすがにちょっと疲れた。食べに行く?」

「じゃあ、ピザでも取る?」

「お、いいね。ピザ、食いてえ」

「じゃ、そうしよ。近いからすぐ来るし」

 俺ん家じゃ、たまにしかピザは取らないけど、混んでない時間だと、確かに頼んでから15分くらいで来ることもある。ただ、今は土曜の夜だからもうちょっとはかかるだろうけど。

 美那は割とシンプルなのがいいと言うので、マルゲリータとデラックスのハーフ・アンド・ハーフで。

 ちょっと贅沢ぜいたくだけど、今日は特別だ。

 服を着たいけど俺がいたら恥ずかしいと美那が可愛いことを言うので、俺はTシャツと短パンを着て、先に下に降りる。

 冷蔵庫を見たらトマトとレタスとドレッシングの残りがあったので、速攻でサラダを作る。

「え、もしかして、サラダ、作ってくれてるの?」

 ピンクのTシャツと白のショートパンツ姿の美那が台所にやってきた。

「ああ、うん」

「ああ、やばい。リユ、最高!」

 そういって、美那が後ろからキュッと抱きついてくる。

 え、ちょっとそれやばいし。可愛すぎるし。今はノーブラじゃないっぽいけど、十分気持ちよすぎるし……。

 10秒くらいそうしたら美那は満足したらしく、布巾フキンを洗ってテーブルを拭きに行った。手馴てなれたものだ。

 サラダを食べながら待っていると、今日は25分ほどでピザがやってきた!

 美那とはほんとに話が切れない。いくらでも話題があるというか、なんなんだろうな、これ。

 で、タンデムの話になった。

「この間、バイク用品の店に行って、タンデムのときのお前のヘルメットどうしようかと思って見てたらさ、実は店員のお姉さんが自分のをこっそり貸してあげようか? って言ってくれてさ」

「やっぱ、リユ、年上の女性にモテるじゃん」

「え? それとはちょっと違うんじゃ……」

「でも、気に入らないとそんなこと言ってくれないよね?」

「いや、まあ、俺はヘルメットを大事にしてそうだしって、そういう感じだけど」

「それはまあいいんだけど。彼氏が全然モテないよりいいし」

「え、お前、平気なの?」

「平気じゃないけど……でも、リユだから」

「え、なに、それ?」

「だって、リユがわたしのこと、どれだけ好きでいてくれているのか、よくわかったもん」

「あ、うん。それはマジ、そう。てか、お前も俺のこと、どんだけ好きでいてくれたのかと思って、すげー反省した」

「うん。マジでリユ、鈍感すぎて、どうしたらいいかわかんなかった」

「やっぱ、そうなのか? 有里子さんにも鈍感じゃない? って言われた」

「だろうね……でも、よかった」

 美那が恥ずかしそうに微笑む。

「うん。あ、そういや、お前とのこと、有里子さんに報告しなきゃ」

「そうだ、ナオにも」

「お前もナオさんに相談したりしてたの?」

「してないけど、なんとなく応援してくれる気配を感じてた」

「そうなのか。俺にもなんか色々言ってきて、そん時は意味わかんなかったけど、お前とのこと考えに考えてたら、早く気づいてあげて、っていうことだったんだとわかってきた。たぶんだけど」

「へえ、そうなんだ。ナオさんってむちゃ鋭いところ、あるよね」

「あるある。本人も自分は恋愛予知能力者みたいなこと、言ってた」

「そうなんだ。え? いつそんな話ししたの?」

「この間の練習試合の時。最初の試合の時、お前とオツさんが仕事してて、ふたりで上から見てた時だったかな」

「へえ。じゃあ、やっぱりナオにも報告して、感謝しなきゃ」

「だな。あ、感謝と言えば、かーちゃんが、オツとナオさんにお世話になってるだろうから、ウチに呼べば、って言ってた。サスケコートに来た時とか。園子さんも誘って」

「あ、うん。そうだね。だけどお母さんはどうかわかんないかも。ほら、実家での話次第で」

「ああ、それか。でも、俺はお前を絶対に離さないからな」

「あ、うん……」

 なんか、美那のやつ、めちゃ嬉しそうな顔でチョー照れてるし。

 美那って、ツンデレ系だな、完全に。

 ツンデレといえば、俺たち学校ではどんな感じでいたらいいんだろうな?

 休み明けとかいきなりいちゃついてたら、違和感のかたまりだろうしな。それに香田さんのこともあるしな。

「なあ、休み明け、学校が始まったら、どうする? どんな感じで行く、俺たち?」

「ああ、それね。どうしようか。真由ちゃんとは、どんな感じだったの? あ、言えなかったら、別にいいけど……」

「あ、まあ、なんとなくだけど、俺と付き合ってもいいっぽい感じだったのかな? でも話の中で、俺がお前のことを好きだっていうのを察したらしくて、スッゲー曖昧あいまいだけど、俺が香田さんをっちゃった感じ?」

「ふぅーん。じゃあ、やっぱ、わたしとリユが仲良さそうにしてたら、ヤダよね?」

「だろうな」

「でも、あれだよね、木村主将との練習もあるしね……」

「あー、そうかっ! それだけでも、絶対に周りの注目を集めるよな?」

「それは間違いないよね。でも、だからといって、ヤメるわけにもいかないよね?」

「だよな。あ、でも最近、お前とチームを組んで3x3をやってるって話はした。だからそこはショックは少ないかな」

「そうか。それを聞いて、ちょっと安心した。ま、まだ時間はあるし、また考えよ?」

「そうだな」

 俺のスマホが震える。

「かーちゃんかな?」と言いながら、俺は画面を見る。

 げ、柳本からのメッセージ。珍しー。

 ん? 俺は通知に見えたメッセージの一部を見て、驚いた。

——>お前もしかして香田さんと付き合ってる?

 な、な、なんで?

「え、どうかした?」

 美那が怪訝な顔で見る。

 スマホのメッセージ・アプリを開く。

 なんとそこには、俺と香田さんが恋人繋こいびとつなぎで歩く姿が、ぼんやりとだけど写っている……。

「こ、これ……」

 俺は美那に画面を見せる。

 え、これ、美那に見せちゃっていいの? いやでも、もう見せちゃったし。

 美那は微妙な表情をしている。

「これは、その、香田さんが最後のお願い的な感じで頼んできたから、しただけで……」

 うわー、自分で言ってて、チョー言い訳くせえ。でもまあ、ほんとのことなんだけど。

「そうなんだ……」

「いや、ほんと」

「うん。わかった。大丈夫。リユの気持ちはわかってるし、リユがそういう男じゃないのも知ってる。ちょっと嫉妬するけど」

「ごめん」

「それより、なんで、ヤナギが?」

「いや、わかんねえよ。偶然居合いあわせたとか、アリ?」

「あ、その先が、来たよ」

——>俺が隠れ美術部員なの知ってるだろ? 去年卒業した先輩がお前たちをたまたま見かけたんだと。お前のことは知らなかったけど、香田さんは有名だからな。どういうことだよ。

「マジか……」

「ヤナギ、どういうつもり? 別にこれでリユをおどすとかじゃないよね?」

「それはないと思うけど、このままだと拡散しかねないよな?」

「うん。一番困るのは、真由ちゃんだよね?」

「そうだな。どうしようか?」

「とりあえず、真由ちゃんと相談したら?」

「いいのか?」

 俺はちょっと恐る恐る美那を見る。

 でも美那は余裕の笑顔。

「うん。わたしはリユの優しさを誰よりも知ってるから」

 美那ぁぁー!

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