1—11 チーム結成!

 JRに乗って新横浜で降りる。そこから少し歩いてスタバに入る。待ち合わせの4時までにはまだ20分ほどある。美那はまたなんとかフラペチーノだ。俺はアイスコーヒーのショート。

「おまえ、スタバ好きな」

「そう?」

 4人席で俺の横に座った美那が、スタバに着いたとメンバーにSMSを送る。

「その先輩ってどんな人なんだ?」

「高校の時で身長は180を超えてた。ポジションはセンター」

「といわれても、よくわかんねえけど。スラムダンクの赤木キャプテンのポジション?」

「そう。わたしはポイントガード。スラムダンクだと宮城リョータ」

「すばしっこく動くタイプだろ?」

「わたしの場合、わりと直線的だけどね。あと司令塔的な役割もね」

「へえ。まあ、おまえは頭の回転早いし、決断力もあるからな」

「あ、きた」と言って、美那が立ち上がる。

 店に入ってきたのは、長身の、短髪も爽やかな好青年。一見スリムに見えるが、肩なんかはがっちりしている。もうひとりはなんと女性で、こちらも長身。俺と同じ175くらいはありそう。

「よう、山下、久しぶり。突然、連絡をもらってビックリしたよ」

「すみません、急にお願いしちゃって。あ、これが森本リユです」

 これ扱い? ってと思ったが、そこはスルーして挨拶をする。

「モリモト、リユです。初めまして。よろしくお願いします」

 俺は〝ウ〟を強調して言う。

「おお、リユ君な。俺は花村はなむら航太こうた。よろしく。山下から聞いたよ。バスケのセンスあるらしいじゃん」

「いや、それほどでも……」

 結局、〝ウ〟はスルーか。

「こっちは、藤吉ふじよし菜穂子なおこ。バスケサークルの後輩。俺は大学2年で彼女は1年。彼女もバスケは始めたばかり」

「藤吉です。よろしくお願いします」

 美那と俺も挨拶を返す。

「とりあえず、なんか買ってくるわ」と花村さんが言って、藤吉さんとカウンターに向かった。

「もうひとりは女性なんだ」

「大会にもよるけど、今度の大会は、女性だとポイントが2倍になるの」

「へえ、そうなんだ。背も高くてジャンプ力もあるなら、俺の出番は少なそうだな」

「そうはいかないよ、リユ君」

 美那が花村さんの口調を真似て言う。

「君はチームで重要な役割を担うようになるだろう」

「おい、変な言い方やめろよ」

「オツさん、カッコいいよね」

「なんだ? おつさんって」

「話し方がおっさんくさいから、オツって渾名あだながついたらしい」

「ま、なんとなくわかる」

「でもそう呼ぶと、怒る、らしい。でもゲーム中はわたしはそれで呼ぶ。〝ハナムラさーん〟とか〝せんぱーい〟とか悠長に声をかけてる時間ないから」

 花村さんたちが飲み物を片手に戻ってきた。

「山下とは今年の春季大会の会場で会って以来、今日が3度目か」

 花村さんが美那の前に座りながら言う。藤吉さんが俺の前だ。うわー、けっこうキレイな人じゃん。大学生ともなると大人っぽいなぁ。バレーボールの美形選手とか、紹介されたこともあるかもな。

「残念だったな。もう少しで初めて支部予選を突破できそうだったのに」

「でもやっぱり実力不足ですよ。自分もですけど、もっと底上げしないと」

「それで3x3か。プレーの幅を広げるのにいいかもな。それで俺もこの話に乗ったわけだが」

 うん、声も太くて落ち着いているし、確かにおっさんぽい。

「リユ君もバスケは経験ないんですよね?」と藤吉さん。

「ああ、はい。体育の授業とかくらいで」

「じゃあ、初心者同士、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ」

「こいつは、わたしが1週間前くらいからしごき始めてますから、大会までにはなんとかします」

 と、美那は言いながら、俺を見てうなずく。期待しているのか、していないのか……。

「おう、頼んだぞ」と、花村さんは太い声で言って、俺を見る。

 過剰な期待しないでください。

「菜穂子、いや藤吉もこれからバッチリ鍛えていくから安心してくれ」

 もしやこのふたり、付き合ってるのか?

「先輩、付き合ってるのバレてるんですから、隠さなくていいですよ」と、美那がツッコミを入れる。「春の大会も一緒に来て、木村先輩とかにはやし立てられてたの、見てましたから」

 続いて笑顔の藤吉さんが口を開く。

「新入生歓迎コンパの帰りにいきなりデートに誘われて、よくわからないまま、大学生ってそういうものかなとOKして、最初のデートで交際を申し込まれて、でも素敵だったので付き合うことにしました。美那ちゃんたちの大会の応援が2回目のデートです」

「おい、菜穂子、そんなこと言わんでいいから」

 藤吉さんはちょっと笑って、ぺろっと舌を出した。

「うわー先輩、手がはやーい」

「うるさい」

 なんか、いい雰囲気だ。これなら楽しくやれそう。

「そういう、おまえたちだって付き合ってんだろう?」

「いえ、断じて付き合ってません」

 美那が言い切る。

「そうなのか、リユ君?」

「ええ。ただの幼馴染で」

「こいつは、しっとり黒髪のお嬢様タイプが好みなんです」

 と、美那がまた余計なことを言う。

「へえ。付き合ってんの? そのお嬢様タイプと」

「いえ……」

 と、言おうとしたら美那がさえぎる。

「片思いで、デートに誘うことも、こくることもできないんだよねぇ?」

「うるさい。片思いとも違うし……」

「まあまあ。仲がいいことだけは確かだな」

 花村さんがおっさんくさい結論を出す。

「そうなんです。今日もお揃いのバッシュ買ったし。兄弟みたいな?」

 兄弟か。この場合、姉弟? まあそういうのが一番近いんだろうな。

「お、それか。どこの?」

「ナイキです」と美那が答える。

「いいな、お揃い」と藤吉さん。

「え、なに、おまえもお揃いがいいのか?」

 愛らしく頷く藤吉さんに花村さんが頬を赤らめる。

「じゃあ、今度、一緒に買いに行くか」

「はい」と答えて、藤吉さんが恥ずかしそうに花村さんを見上げる。

 4月から付き合い始めたのに、もうこんな感じなのか! まるで新婚さんじゃないか。勉強になるな。

「先輩、おのろけはそのくらいでいいですから、チーム名はどうします?」

「おお、それな。おまえが首謀者なんだから、まず、おまえの案は?」

「いろいろ考えたんですけど、ゼット・フォーとかどうかなって。語感的にはズィー・フォーでもいいですけど」

「ゼット・フォーか。どういう意味だ?」

「アルファベットのZには、究極のという意味もあるし、最低みたいな意味もありますよね。それと数学でいう3次元目のZ軸とか第三の未知数とか。わたしたちみたいなごちゃまぜの、こいつみたいなヘボいプレイヤーもいれば、先輩みたいなすごいプレイヤーもいるし――菜穂子さんはバレーでは名の知れた人なのですごいほうです――、背の高さもバスケではよくあるけどばらばらだし。あと付けですけど、わたしたちの世代はZ世代と呼ばれてるみたいですし。フォーは単純に4人構成のチームだから。あ、あとゼットは、こいつが最近買ったバイクの名前の一部、だよね?」

「ヘボいなりに上手くなってるけどな。ああ、車名はゼット・ニヒャクゴジュウ!」

 俺はちょっと腹を立てたように言った。美那なりに気を遣って、俺を引き立ててくれているのはわかるけど。だけど、クソ、そのうちヘボとか言えなくなってやるからな。

 それと、さすがにペンネームのことは持ち出さなかったな。それともバイクの名前と言いつつ、あえてそれに引っ掛けているのか?

「へえ、高2でバイク買ったんだ。すごいじゃないか」

「ええ、まあ」

「いいんじゃないか、それで? 菜穂子はどう思う?」

「うん。なんか強そうでいいと思う。ハリウッド映画のタイトルでありそう」

「リユ君は?」と、花村さん。

「僕はまあなんでも。足を引っ張らないようにがんばります」

「俺は君にけっこう期待してるんだけどな。なんかトリッキーな動きをするらしいじゃないか」

「僕はよくわかんないですけど」

「そうなんですよ。期待してもらっていいです。こいつは磨けば光る玉ですから」

 おい美那、無駄に期待のハードル上げるなよ。

「よし、じゃあ、ゼット・フォーで決定だな。スペルはどうする」

「普通にアルファベットで、Z―Fourで」

 美那がスマホの画面を花村さんたちに見せる。そのあと、俺のほうに向ける。なんとロゴをデザインまでしてある。しかも、俺のカワサキの緑に近い背景だ。

「おー、かっこいいじゃないか」と花村さん。

「うん、すてき」と菜穂子さん。

「どう?」と美那が俺に聞く。

「ああ」と、俺は素っ気なく答える。まあ、ちょっとうれしいけど。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」と、美那が花村さんを見る。

「そうだな。近くの駐車場に車を停めてるから」と花村さん。

 さすが、大学生。車か!

 コインパーキングに停めてあった花村さんの車は、ニッサン・エクストレイル。

 いよいよ、3x3バスケチーム・Z―Fourの出発だ。

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