第6話 ループする悪役令嬢は消えてなくなりたい



 リーンは何度もループした。


 しかし、その人生全てが彼女を悪役令嬢として断罪し、処刑するものであった。

 何故、自分はそんな人生を送っているのか……何故ループしているのか? 何故悪役令嬢と呼ばれるのか?


 リーンには何1つ分からなかった。

 どんなに良い行いをしても、何故か決まって最後は断罪なのだ……


「もう……死のう」


「うわーーーー!!! 早まるなーーー!!!!」



 かくして、悪役令嬢リーンと、通りすがってしまった騎士団長ジェド・クランバルの……絶対死にたい女vs何だか分からないが止めなくちゃいけない男の戦いが始まった。



  ―――――――――――――――――――



 もう何回目の紹介かと思いますが聞いてください。

 毎度お馴染み、公爵家子息、騎士団長、ソードマスター(new!)……こと、ジェド・クランバルは悪役令嬢呼び寄せ体質である。


 とにかく悪役令嬢によくエンカウントする。

 悪役令嬢と言ってもその生い立ちは様々で、前世でプレイしたゲームの世界だったり、未来から巻き戻ってきたり、あとシンプルに目の前でいきなり断罪される悪役令嬢もいた。


 先日は暴走した悪役令嬢に追いかけ回されたのだが、一部始終を見ていた市民からは『何か凄い武器に素手で立ち向かう漆黒の侍』と呼ばれていた。いや、素手で立ち向かったのは陛下であって俺じゃないんですが。


 とにかくよう悪役令嬢に絡まれる。

 最近では、変な絡み方をしてくる令嬢は大体断罪の未来を抱えた悪役令嬢なので察しが早くなった。慣れって怖い。

 本当は全力でスルーしたい所なのだが、悪役令嬢の未来はろくな事にならないのでそう簡単に見過ごす事も出来ない。

 皇室を愛慾にまみれさせようとした小説の悪役令嬢もいたので、悪役令嬢のせいで下手したら戦争起こる事もあるかもしれない。てか誰だよそんな小説書いたの……


 そして、今日も今日とて悪役令嬢に遭遇した。

 休暇だったので森に狩りに出かけた所、いきなり大樹にロープをくくりつけてその輪っかに首を通そうとしていた女性が居たので全力で止めた。

 えっ、何これ、先日のいきなり襲ってきた奴といい、最近登場の仕方攻めすぎてない??


「お願いです!!! 放っておいてください!! 死なせてください!!」


「いや、無理、絶対無理だから!! 見ちゃったからには止めないとダメでしょ!! あと君がロープ吊った木ね、聖樹だから! 生命の樹だからね!! 絶対止めて!」


 生命の樹……この森の動物達の生きる源とされている。血に染まりし聖樹って、何か響きは闇深くてカッコ良さそうでも本当に洒落にならないのでお願いだからやめてほしい。


「どうせ私なんて悪役令嬢として断罪処刑される未来しかないんです!! この未来を終わらせるには、もう自ら死ぬしかないんです!!」


「いや1回落ち着いて!!! 話だけでも聞かせて!! お願い!!!」


 ハァ……ハァ……ハァ……


 聖樹の下で全力を使い果たしてへたり込む。良かった、とりあえずは止められたみたいだ。

 あと生命の樹だからめっちゃ疲れが癒えてくる……まずい、早く話を聞かないと悪役令嬢も元気になってしまう……


「それで……ハァ……ハァ……君は……ハァ……どういった理由で……ハァ……こんな事……」


「ハァ……ハァ……ハァ……私は……ハァ……リーン……ドズル家侯爵令嬢……ハァ……あの、一旦何か……飲み物もらえません……? ハァ……」


 いかん、全力で止めすぎた。

 飲み物なんて持ってないよ……と思ったが、チョロチョロと音がする方へ振り向くと、聖樹から湧水が出ていた。ちゃんと飲めるヤツ。

 そうだよね、聖樹側もここで死ぬのは勘弁してほしいもんね。


 水を飲んで落ち着いた悪役令嬢リーンは続きを話し始めた。


「私、何度も未来を見ているのです。決まって未来は同じ……悪役令嬢として断罪。そのまま処刑される所で闇に落ち、再び目が覚めた時にはまたこの歳に戻って来ているんです。もうかれこれ20回目になります」


 20回かぁ……多いなぁ。


「色々試しました。結婚相手を変えたり、教会に入ったり、家を継いで1人で生きていけるように傾いた伯爵家を立て直したり……でもダメでした。結婚相手を変えてもその誰もに離縁され、教会に入れば聖女が現れて聖女に成り代わろうとする悪女だと難癖つけられ、1人で生きようとしても汚職の罪を着せられ……最後は決まって処刑台なのです」


 何それ怖っ。こんな運命が強力な悪役令嬢いる……? あと何度も言いますが、うちの国処刑台とか無いから。未来どうなってんの?


「訳も分からず途方に暮れて何回目かのループを繰り返した時、聖女が教えてくれたんです。『この世界は、私がプレイしている乙女ゲーム【ブラッディ〜聖女の復讐】の世界なのよ。貴方がいくら頑張っても、このゲームは貴方にまつわる攻略対象者を落としながら貴方を断罪する物語。どんなに頑張ったってダメなのよ?』と。その時私は理解しました。私は、彼女に断罪される為だけに存在しているのだと……だから……死なせてええええ!!!!!」


 リーンが突然ナイフを取り出して自決しようとしたので慌てて止めに入った。いや、いきなり再開するの止めて!


「止めないで!! あの女が来る前に死なせて!! あの女に断罪される前に死ぬしか! このループを終わらせる方法は無いの!!!」


「いや! そんな事ないから!! まだ聖女来てないんでしょ???!! まだ時間あるから!!!」


「もうすぐ来ちゃうの!! あの聖石で呼び寄せられちゃうの!!!!」


「案内して!! そこに!! 1回行ってみよう!!!」



 ハァ……ハァ……ハァ……


 リーンの自決を止めていたら聖樹のツタも手伝ってくれた。何か鳥とかシカとか熊とかも手伝って止めてくれる。いや、そうだよね、みんな嫌だよねここで死なれるの……生命の樹だもんね。

 動物達も心底疲れていた。悪役令嬢の全力の自決、凄すぎて正直止めきれない。

 1回、止めてる間にリーンの手首にナイフがかすって血が噴き出した時はオワタと思いましたが、すんごい勢いで白い光が集まって秒で回復した。聖樹が全力で止めている。すごい

 このままでは森の皆さんにも迷惑がかかるので、その聖石の所に急いで移動しようと思い振り向くと既にでかい鳥がスタンバイしてくれていた。森の皆さんが全力でサポートしてくれている。すごい

 その鳥に乗って移動したが、めちゃくちゃ早かった。鳥も全力である。

 途中も飛び降りようと暴れるリーンが危ないので、聖石まで大人しく眠って貰うよう首トンして気絶させた。最初からこうしておけば良かった……



 異世界から主人公である聖女を呼び寄せる聖石は、リーンが何回目かの人生で入った事のあるという教会にあった。

 聖石の下には魔法陣があり、めっちゃ光っていて今にも何か呼び寄せそうな雰囲気である。


「えーっと……すみません。実は、この聖石を――」


「ジェド様。ご説明頂かなくても大丈夫です。この聖石から聖女が出てきて、リーン様に復讐するのでしょう?」


「えっ」


「えっ、神官様……なぜ知って……?」


「いや、リーン様が気付いてないだけで我々も20回ループしてますし」


「えっ」


 驚愕の事実である。いや、悪役令嬢が記憶を持っている位だから教会の皆さんもあってもおかしくないのか……?


「リーン様の行動により、聖女様のお相手ですとか、未来とかは微妙に変わって行きますが……我々ほら、聖石の所にいるので毎回関わってますし。リーン様が教会に入ったループの時は正直、勘弁してほしいと一同思いました。ですが、貴方の真剣に頑張る姿は我々の心を撃ち抜きました……一緒にこのループから脱出しましょう」


「神官様……」


 おっ、これは思わぬ展開に! もうこれ聖石壊せば万事解決じゃん! おつかれー!



「では……聖石を」


「分かりました。ハァアアアア!!!」


 俺は全身に全力を込めて剣を振り下ろした。


 ――ガンッッッッ!!!!


 教会に物凄い固い音が響き渡る……


「かっ……固った!!」


 えっ、この剣オリハルコンですが??? 伝説の金属ですけど??? えっ、何で割れないの?? 今、完全に割れる流れだったよね……?


「やはり、運命の聖石はそう簡単に割れませんか……」


「そんな……もういっそ……私の頭を聖石に打ち付けて……死のう」


「あーー止めて!! 分かった!!! 分かったから! 1人だけ割れる人を知ってるから!!」


 俺は観念して教会にある通信魔道具を借りた。この人だけには頼りたくなかったが、他に方法はなかった。



「これ、割ればいいんだね。ウーン……確かにめっちゃ固いね」


 コンコンと何回か軽く叩いた後、気合いを入れて手刀を振り下ろした。素手ェ。


「ソイ!!!」


 バコオン!! といい音を立てて聖石は割れた。魔法陣も消え、これでもう件の聖女が来ることもないだろう。


「ありがとうございます!! ありがとうございます!! 陛下!!」


 この国最強の出来る男、皇帝ルーカス陛下は

 仕事でも武力でもアッサリ解決するのであった。

 さす帝。


 どうやったらそうなれるの? ねえ、教えて……

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