第4話 悪役令嬢は断罪される



 ヒルデロッテは激怒した。

 必ず、あの女の悪行を暴かねばならぬと決意した。

 ヒルデロッテにはこの物語が何なのかわからぬ。だが、一つ分かってるのは……


 ヒルデロッテは、悪役令嬢である。


 漆黒の騎士団長、ジェド・クランバルは困惑した。

 何が何だか分からないが、何故か裸で友のために走る男のイメージが頭を過ぎった。何これ……?



 ―――――――――――――――――――



 その事件は招待されたパーティー内で突然起こった。宴もたけなわの頃合いだ。1番盛り上がってる所を見計らったかのようなタイミングはやめてほしい。

 突然の婚約破棄、突然の断罪、んでもって突然の別人との婚約……

 あー、もう皆まで言わなくても分かります分かります。悪役令嬢の断罪シーンですな。

 自分、またやっちまいましたね。いや、俺は何もしてないけど。

 まぁ、貴族と言えばパーティー。パーティーといえば麗しい令嬢。

 こんなに沢山居るんだから、悪役令嬢1人くらい混ざってたっておかしくありませんがね。何でこんなに毎回いるの……

 異国のめっちゃ嫌われてる虫にまつわる言い伝えで、1匹見つけたら100匹はいるとかいう言葉があるらしいが、それに似ている気がする。ちなみにその虫は、名前を言うのも躊躇うくらい嫌われており、頭文字を取ってGと呼ばれているとか。


 話が大分脱線したので戻しますが。

 平手打ちされて怪談下で崩れているのが、悪役令嬢のヒルデロッテであり、階段上にいてめっちゃ怒りながら婚約破棄宣言と婚約宣言を同時に叫ぶ器用なやつが招待してきた知人である。

 あんなヤツと知人とか思われたくない。その知人が抱きしめてるのが恐らく新たに婚約する女性らしいけど……

 ――えっ、顔こっわ!!

 笑ってる、ほくそ笑んでるよ! ねえ、邪悪な笑み浮かべてますが! 企んだよね?! 何か企んで悪役令嬢さんを陥れましたよね!!?


「ヒルデロッテ……貴様は俺の大事なモニカに陰湿な虐めや無視、無礼、数々の悪逆非道を働いた」


 その内容は悪逆非道……って程かな? それよりモニカの事『大事な』とか言っているけど、あんた婚約者目の前にいるんじゃ……


「よって、貴様との婚約を破棄する!! そして、真実の愛に目覚めたこの俺はモニカと婚約する! そもそも貴様との婚約は乗り気では無かったのだ。我が一族の為、貴様の財力と伯爵位が欲しかっただけの事」


 いや後半本音出ちゃってますから。てか普通こういう場合、破棄する方は位か金かどっちか持ってるもんじゃないの? お前、位も低いし金も無いとか、つまるところ何も無いじゃねえか。

 それよりもモニカの顔ーー! ねえ、そっち見て、お前が抱きしめてる人顔凄いよ? 悪役令嬢より悪役の顔してるよーー!! ねえ、見てよ!


「愛して……いたのに……」


 悪役令嬢ヒルデロッテさん泣き始めましたが……爵位も財力もあって、ここまでされても愛とか言っちゃう令嬢ってもう悪役令嬢じゃなくない?

 それより、今気づいたんだけど、平手打ちされたの階段上だよなぁ。転げ落ちましたよね? 悪役令嬢ヒルデロッテ……案外頑丈なんじゃ。

 ヒルデロッテを階段下に平手打ちで落としときながら更に断罪する方もとんでもない強者だし。……そんな細かい所を気にしてるの俺だけかなぁ。


 ま、今回の悪役令嬢は事前に巻き込んでくるパターンじゃないし、ヒルデロッテもそんなヤツやめて正解だよね。他にいい物件は星の数ほどいるし。よし、話も終わったみたいだし帰――


「ならば……私はジェド様と結婚します!」


 えーーーーー?! 流れるように俺を巻き込んできたーー!!

 何で? えっ? 今の流れに俺、関係してました???

 いや、まぁ確かに我、公爵家そのうち継ぎますし、騎士団長ですし、イケメンですし――いい物件ここにいたわー!

 ガッチリ腕を掴まれて帰れない。悪役令嬢、力つよ……


「貴様……やはり他の男と通じていたか……何処まで非道なんだ……」


 などと言うとりますが、いや非道はどう考えてもお前の方だろ。というか通じるも何も初対面ですけど。


「即刻この女を処刑しろ!!」


 いやいや、だからうちの国に処刑とかいうシステム無いから……不貞行為はせいぜい慰謝料めっちゃ取られるとかです。


「やっと……本性を表しましたね……」


 興奮する男の言葉を遮る声。そう言いながら階段上の、更に上の窓から現れたのは執事のような格好をしたイケメンであった。……あの、どちら様でしょうか?


「ヒルデロッテ様に頼まれ調べ上げた、貴方の不貞行為、モニカ嬢の数々のヒルデロッテ様を貶める工作。その全ては最初からこちらに揃っていました」


 イケメン執事は報告書を懐から出した。いや、揃ってるなら最初からそれ出せよ。


「だが、ヒルデロッテ様の恨みはそれだけでは収まらなかった……そう、公の場で伯爵家令嬢を貶める婚約破棄、不貞行為、数々の罪とお2人の悪役っぷりを明かし、社会的に完膚なきまでに抹殺する事としたのです!!」


 ああ〜、なるほど。えっ、何それ復讐ものの小説か何か? 執念が怖いわ。


「そんな……馬鹿な……」


「モニカさん……改めて、ざまぁ。と、言わせていただきますわ」


 そう微笑みながらヒルデロッテは婚約誓約書をビリビリにした。こえーー。

 モニカ怖いとか思ってたけど……やっぱヒルデロッテ、お前がナンバーワンだ! まごう事なき悪役令嬢ですわ。


 会場の空気に呑まれ、思わず拍手をしているとヒルデロッテが歩いてきた。


「という訳でしたの、ジェド様。ありがとうございます。貴方さえ良ければ婚約しましょうか?」


「……それは勘弁してください」



 パーティーに参加するとロクなことが無いのでそれ以来、招待は断る事にした。早く帰らせて……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る