第3話 女児だって悪役令嬢になる



 フェリシアも思い出した。


 これは、前世で擦り切れる位に読んだオトナ女子♡向け恋愛小説『異世界の花嫁〜愛慾にまみれた皇室』の世界そのものだ……

 そして、主人公である異世界の花嫁の美しさとモテモテ具合への嫉妬のあまり、誘拐未遂や殺人未遂、拷問未遂(どれもこれも寸前でヒーローが救い出す)をしでかし、断罪の上処刑される悪役令嬢・フェリシアの5歳の頃に憑依しているのだと。

 このままデビュタントの日に現れる主人公に会うわけにはいかない。その前に何としてでも国外に逃亡するしかないのだ。


「辺境の……誰も知らない田舎でスローライフを送るの! その為には資金とか人脈とか色々必要よね。この方なら……そう、公爵家の御子息であり皇室騎士団長のジェド・クランバル様ならば!」


「……事情は分かりましたが……」


 お願いだから俺を頼らないでください。



 ―――――――――――――――――――



 公爵家の子息で騎士団長、漆黒で孤高の狼みたいな黒髪クール系イケメンのジェド・クランバルは相変わらず悪役令嬢に絡まれていた。


 今回の悪役令嬢は男爵家の愛娘、天使のような容姿の5歳児、フェリシアである。

 てか、5歳児が愛慾にまみれた~とか言うんじゃありません。と、思ったが……どうも話を聞くと中身はアラフォー女性だとか。何それ怖い。MK5(マジ怖い5歳児)

 流石に幼女の悪役令嬢となんていないだろうと完全に油断してのだが、どうやら10年後から物語が始まる……とかいう長い準備期間のある種類の方も居るらしい。悪役令嬢のパターン凄ない?

 準備期間があるならば何とか無視してやり過ごそうかなと思ったのだが、天使のような容姿の5歳児(中身アラフォー)は人が大勢いる前で大泣きしながら「ジェド様に弄ばれた」と叫ぼうとしたので光の速さで止めた。いや悪どすぎる。まごう事なき悪役令嬢ですがな。

 幼女を光の速さで説得する様子を見た騎士団仲間からは『漆黒の孤高のロリコン』というふたつ名を付けられた。

 おま、漆黒とか孤高のとか入れておけば何でもカッコよくなって許されると思ってない? ぜんぜんリスペクトの欠片も見られないし……あと我、騎士団長ぞ?


 騎士団仲間の騎士団長にするとは思えない弄りに一抹の不安を覚えたが……彼らはそんな人ではなかったはず。どれもこれも元を正せば悪役令嬢が悪い。


「という事なので、私のスローライフの為に結婚してください」


「NOーーー!! いやそれ、ふたつ名の通りになっちゃうからーーー!!!」


「安心してください、私が田舎でスローライフを送れるよう、難癖つけて島流しにすれば良いのです」


「それ、俺1人が損する事にならない?」


 そんなの、ロリコンの上に悪役令息である。世間からは、結婚して数年で女児でなくなり興味が失せた妻を辺境に追いやる極悪ロリコン野郎として汚物のように見られるだろう。漆黒どころの話ではない、闇が深すぎる。


「お願いします! このままではオトナ女子♡向け恋愛小説『異世界の花嫁〜愛慾にまみれた皇室』のような展開が現実となり、私は断罪され、皇室は愛慾にまみれてしまうのです!」


「いや、お願いだからそのタイトルを大きな声で言わないで……不敬がすぎるから。断罪前に捕まるぞ」


 いや、この場合捕まるのは幼女に変なこと言わせてる俺の方だろうか?


「イケメン騎士が女の子とカフェでお茶してるなーと思ったら、ジェドじゃないか。あれ? 今日の相手は悪役令嬢じゃないの?」


「……陛下」


 城下のカフェに普通に現れたのは、この国の皇帝・ルーカス陛下である。本名はめちゃくちゃ長いので割愛する。

 お忍びで来てるのかと思いきやそうでもない。何故ならこの国は平和なのだ。あと、めちゃくちゃ仕事が出来る皇帝なので公務は9時5時、ちゃんとお昼休憩もある。

 そしてこの皇帝、優男に見えてメチャメチャ強い。この国最強は何を隠そうこの皇帝なのだ。騎士団いらんやんけ。

 そのおかげで悪役令嬢に騎士団長が絡まれていて仕事にならなくとも国が回っているのだから世の中上手くできているものだ。


「なるほど…… オトナ女子♡向け恋愛小説『異世界の花嫁〜愛慾にまみれた皇室』か。うちの国一夫一妻制だし、父上が愛妻家すぎて作った法律のおかげか不貞行為にはかなり厳しいからなぁ。愛慾にまみれた皇室は困るな」


「まぁ、そうですよね。陛下、あまりそのタイトルを往来で連呼しない方が……」


「あと私、女性に興味ないから異世界の花嫁が来てもなー」


「えっ」


 初耳の爆弾発言に耳を疑った。悪役令嬢女児も陛下を凝視している。


「……いや、冗談なんだけど」


「マジそういうのやめてください」


 皇帝ジョークこわっ! 全然笑えないわ。

 笑えとか圧力かけてくるようなタイプの皇帝じゃなくて良かった。


「私は、全然、むしろ、大好物です!! デュフフ!!」


 涎を垂らしながら興奮するフェリシア。お前、さてはアレだろ、貴婦人ならぬ貴腐人ってヤツだろ……

 異国ではボーイ達がラブするのを好む、妙齢を過ぎた女性をそう呼ぶらしい。いや、この場合見た目は女児だから腐女児か?

 腐女児の中に貴腐人を宿す悪役令嬢である。もう訳が分からないよ……


「ま、話はだいたい分かった。んじゃ、フェリシアはこの国の外れにスローライフ送るにうってつけの田舎があるからそっちへ引っ越しね。あ、大丈夫、最近田舎のスローライフに憧れる人が多いから、結構環境はしっかりしてるよ。田舎の古民家とか古い屋敷とかリフォーム出来て、しかも地方にも活気が出て辺境側も助かってるんだよね」


「えっ」

「えっ」


「えっ、田舎でスローライフで合ってるんだよね?」


「……合ってます」


「じゃ、手続きしとくからよろしくね」


 そう言いながらルーカス陛下は去って行った。流石、この国最強で仕事の出来る男は違う……

 いきなり来てスピード解決する様に俺と女児は呆然とした。


 悪役令嬢の皆さーーん!! あちらに何でも解決してくれる出来る男がいますよーー!! 頼むからこっちに来ないであっちに行ってよーー!!

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