第2話 ジェドは悪役令嬢と冒険する



 イザベラは思い出した。


 ここは……前世の自分が大好きだった乙女ゲーム『プリティ・フェアリー・逆ハーレム学院〜聖女とイケメン騎士たちは必ず恋をする』の世界である事を。


 そして、この姿は主人公の聖女の邪魔をし、どのルートでも断罪されてしまう悪役令嬢・イザベラそのものだった。


「このまま、もうすぐ現れる聖女を待ってるなんて、そんなの嫌! こうなったら、公爵家の子息でイケメン騎士団長のジェド様の力を借りて――」


「ストップ、分かりましたからもう話を止めて下さい」



 頼むから……目の前を歩いていて急に思い出して急に早口で語り出すのさ、本当に怖いからやめて欲しい……



 ――――――――――――――――――――――――



 この国の公爵家の子息……あ、いや身分の紹介はご令嬢が丁寧にしてくれてたので割愛するとして

 ジェド・クランバルは悪役令嬢呼び寄せ体質であった。


 身分のせいなのか容姿のせいなのか分からないが、もっと女性に優しいイケメンも財力のあるヤツも沢山居るはずなのに……何故かよく悪役令嬢に頼られる。

 もしや、国中の女がみんな転生してきた悪役令嬢なんじゃ……とも思ったが、騎士団の仲間に聞いても他にそんな令嬢に出会ったヤツは居なかった。俺だけなのだ。


 最近では「犬も歩けば棒に当たる」とかいう異国の教訓から『漆黒の冒険者(棒犬者)』とかいう絶妙にダサいあだ名で呼ばれていた。

 いや、犬が当たる棒は思いがけない幸運じゃないのか?

 あと我、騎士団長ぞ?


 公爵家に近付きたい御令嬢の妄言かと疑ったりもしたのだが、恐ろしい事に出会う悪役令嬢の話全てが本当に起きるのだ。

 未来から巻き戻って来たなどという話はまだ辛うじてわかるが、乙女ゲームとかいうヤツは全然分からなかった。最初、何を言ってるのか全く入って来なくて「何て……?」って3回位聞き直した。

 だが、マジで来たのだ。悪役令嬢の言っていたように異世界からその乙女ゲームだかの主人公が。マジで来た。

 あの時の悪役令嬢の『ほれ見たことか!』という顔がめちゃくちゃ怖かったです。流石悪役令嬢。凄みが違う。

 疑ってごめんなさいと土下座した。異国の最上級謝罪である。

 もちろん疑った謝罪も兼ねて、その件についてはちゃんと誠心誠意尽くし、解決した。

 更に怖いのが、そのゲームの展開通りに人が変わってしまう事だ。

 悪役令嬢の婚約者が友人だった時もあった。

 急に記憶を取り戻した悪役令嬢が「数年後に聖女が現れて不当に婚約破棄され処刑される!」とか言い始めた時は引いた。

 いや、友人そんなヤツじゃないし、悪役令嬢の話聞いても全然引いてないし、むしろ「そんな不確かな記憶より俺を信じろ」とか言いながらめっちゃラブラブしてたから今回は大丈夫だろうと思った。

 ――が、そんな事は無かった。数年後、友人が聖女を抱きしめて悪役令嬢を断罪している姿を見て引いた。

 え? お前そんなヤツじゃなかったよね? てか、話一緒に聞いてたよね? 人変わりすぎて怖いんだが……めちゃくちゃいいヤツだった友人を変えた聖女こわい。

 悪役令嬢の話マジだって再確認してまた土下座した。公爵家の威信にかけてなんとかしますので許して、サーセンっした。


 と、いう訳で悪役令嬢が記憶を取り戻したが最後、主人公やら聖女やらはちゃんとやってくるし、断罪もされるのだ。


 頼むから悪役令嬢の皆さん、記憶を取り戻さないで。



 そんな事をぼんやり考えながら廊下を歩いていたら目の前にいた悪役令嬢・イザベラに当たりました。


「漆黒の冒険者様……どうか私を助けて下さい」



 何とかしますのでそのふたつ名で呼ぶのやめて……

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