悪役令嬢なんて知りません!〜悪役令嬢ホイホイの騎士団長は今日も歩けば出会ってしまう

あニキ

第1話 序・騎士団長ジェド


 ――何でこんなに多いのか

 転生したとか、過去の記憶をお持ちとかのご令嬢が……



 公爵家子息であり、皇室騎士団長のジェド・クランバルは頭を抱えていた。


 騎士団長の仕事が大変だからか? それともわがままな若き皇帝に振り回されるから? はたまた公爵家の相続者争いが……とか、そんな事はどれもこれも無く。


 騎士団の皆も優秀で、皇帝は過去類を見ない善政であり民の信頼も厚い。

 おかげでこの国も豊かだし公爵家の争いも無ければ、他の家門の皆さんも少しの反逆心も野心もない。

 悩みは、それら全てと全く関係が無かった。


 いや、強いて関係があるとすれば騎士団長だとか、公爵家だとか、あと何かこの容姿? 黒髪で冷たそうな雰囲気とかが原因かもしれない。

(ちなみに誰かに冷たくした覚えは一切ない。目つきが多少悪いからそう思われるのかもしれない……)

 1人でいる俺の姿を、誰かが面白がって孤高の黒狼とか言い始めたのも原因かもしれない。誰だよそんなふたつ名を広めたの……飯ぐらい1人で食べててもいいじゃん。ぴえん。


 とにかく、何かこう寄せ付けやすい体質と言いますか……

 ん? 幽霊とかでは無いです。霊感ゼロすぎてゴーストに襲われても気付かなかった位ですからね。


 じゃあ何かって?

 にわかには信じがたい話かもしれませんが……実際いるんですよ。


 断罪されて非業の死を遂げてタイムリープした悪役令嬢とか


 乙女ゲームで断罪されて死ぬはずの転生悪役令嬢とか


 何かもうそれらのしがらみや運命に疲れた悪役令嬢とか


 とにかく多い!!


 いや、多いだけなら全然いい。この際いい。


 揃いも揃って何故か俺に助けを求めに来る……



「私と……契約してください」


 いや、1番最初に現れた令嬢は別に良かった。ちゃんと抱えていた問題も解決してあげたし衣食住の補償もした。

 「契約結婚しましょう」とか言われた時は、失礼すぎる所を差し引いても、申し訳ないが全然タイプでは無かったので素直にお断りした。その代わりに気が合いそうなお相手もちゃんとお世話した。

 こんなに最後まで面倒みてあげるタイプの貴族いる?


 色々解決して、保護猫の里親を見つけたような気持ちで令嬢を見送った矢先――目を疑った。耳も疑った。


「私と……契約してください……」


 えっ、何これ? 俺タイムリープしてる?


 いや、よく見ると服とか髪型とかは微妙に違うけど……そのつり目とか、ドリルとか、セリフまでさっきの令嬢と全く一緒だった。デジャヴ。

 まぁ偶然の一致とかあるし……この貴族社会、婚約破棄とか浮気とかで悲しむ令嬢の話とかはよくありますもんね。

 気のせい気のせいと思い、こちらの令嬢も同じようにお世話して見送った。ちゃんとやり遂げるタイプの真面目な自分が恐ろしい……


 ちょっとカッコつけつつニヤニヤしながら振り向くと、そこには――女性が立っていた。


 ん? ちょっと待って、髪型は……ウェーブ! 良かった、ドリルじゃないからセーf――


「騎士団長様、どうか私と契約」


「ストーーーーップ!!! ちょっ、ちょっと一旦待って」


 えっ、何これこわい。

 いやいや、君あれでしょ、絶対悪役令嬢でしょ?


「ジェド様! 何も言わずお聞き下さい! 私は、近い未来、婚約者に断罪されそのまま……」


「それーーーー!!! それさっきやった!! やって終わったから!! 何ならその前もそれだった!! えっ、ちょっと待って!!! 何なのこれーーーーー」


 流石に3回、しかも間髪入れずに押し寄せる悪役令嬢を前に、身分も紳士も礼儀もキャラも……何かもう色々忘れて叫んだのであった。



――ここは……孤高の黒狼こと、漆黒の騎士団長ジェド・クランバルが何故か次々と悪役令嬢にエンカウントする、不思議な世界線である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る