・第八夜

 わいわいとした活気が、電灯の下の空気を震わせていた。窓の外は夜だが、室内の空気は真っ盛りに熱い。大学に設えられた多用途な大部屋の内の一つのスペースが多数の機器とホリゾント幕で区切られ、カメラやそれ以外の様々な大道具小道具模型着ぐるみでごった返していた。そう、つまりこれは、大学の特撮研究会サークルによる、自主製作特撮映画の撮影であった。


 おおい、それこっちに持ってきてくれ。ワイヤーセットしたよー。この出来映えどう思う? 上々! こっちは? まあこんなもんじゃない? あ、壊れた! 修理してくれー! じゃあついでにだけどさあ……ちょっと弄ってみない? 電飾点灯、よし! 開閉ギミック、よし! 準備OK! よーい、スタート! あっあっあっ、カットカットカット! うわ、大変な事に……こりゃ暫く積み直しに取っ組まないとダメだなあ。音は出来てる? ヘッドホン貸して。うんうん、いいんじゃない?


 様々な声ががやがやと響き渡る。コンピューターも使っているが、伝統的な特撮への愛からか、やはり小道具が多い。身の回りの品からプラモデルの部品まで様々な物を組み合わせ塗装を施す事で元が何だったのかを分からなくした飛行機や銃等の様々なガジェット。電飾やモーターなど仕込まれた仕掛けや操演の吊り糸。


 そして、やはり特撮と言えば怪獣の着ぐるみだ。


 ウレタン、ゴム、プラスチック、テープ、塗料、電飾、モーター、ジェル、ビニール、針金、竹ひご、手に入る範囲の存在で如何に良く作るか。如何に生物感を出しつつ生理的嫌悪感を煽るだけの怪物にせぬバランスを取るか。ちゃんと動ける範囲に留めるか。そして何よりデザインだ。折角撮るんだから、怪獣への理想を込めた素晴らしいものにしたい。各々の好みが競い合い、熱心に磨き上げられている。


 更に、勿論……折角作ったそういうものを、拙い演技で台無しにしてしまってはいけない。演劇部の助けを借りながら、皆必死に練習をする。


「ああ、良いのう。懐かしいわい。ふふ、実際の昔はこんなに予算は無かったが」


 そんな風景を隅に置かれた古い椅子に腰掛けた老人が眺めていた。顧問の教授か何かだろうか。否、その傍らには、場の雰囲気に合わせ特撮ヒーロー風スーツを纏ったドリムリーパー。


「まだまだたっぷり、時間はあるわ」


 珍しく、起こそうとはしない。夜がまだ浅いのか、あるいは。


「そうか。それはよい。じゃがまあ、流石に完成した映像を見るまでは相当時間がかかりそうだのう」


 まあ別に良いわ、作っておる時が楽しいものじゃ、と、老人は笑った。


 そうね、と、ドリムリーパーも笑って。


 より良き思い出、最後の夢を、心置きなく心赴くまま心ゆくまで、最期まで老人は見た。ドリムリーパーが、次の目覚めまた生まれる時に連れていくまで。

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