・第七夜

「これは……流石の私も、初めてね……」


 私、ドリムリーパーの呟きが文章になる・・・・・。どういう事かというと、普通夢の中で音として認識される声が、たちまち文章となるのだ。


 どころか、ここには文章しかない・・・・・・全ての感覚が文章として認識される。つまりどういう事かというと、床を見ようと意識すると【床がある】という文章が認識される。天井を見ようとすると【天井がある】という文章が認識される。


 五感と五感で認識される現実全てが文章に変化しているのだ。つまり今の私、ドリムリーパーという存在もまた文章と化している。これを読む貴方の目の前にある文章がそのまま私の今の姿なのだ。故に容姿や服装に関する描写は省略。今の私は文章なのだから、これが私の姿という事になる。そしてこの場にいるのは私だけでは無い。


「そう、これが私の認識、私の世界」


 実際には意識して発生した言葉だけではなく私の思考や私が何者かまで等しく地の文となっている。故にそれが今目の前にいる……全てが文章になってる夢で目の前にいると言って良いか分からないが。何しろお互い認識としては只管文章に目を通している状態なのだ……ともあれ、今私と共にこの夢に存在している、この夢を見ている女の子にもそれが伝わる。そしてその子の事情も全て伝わってくる。


「普段と変わらない……つまらない夢」


 この夢だけではなく、この子は現実世界でも全ての認識がこのようになる特異な体質の持ち主である事。文字を覚えた後の後天的な負傷による脳へのダメージでこうなった事、だから自分の姿ももう分からない事、故に病院暮らしである事。


「つまらないから、もう終わらせてくれない?」


 全てが文章で記される故に全て分かる為か、少女は明晰夢としてこれを認識し、そして更にドリムリーパーの存在にも気づいていた。故にそう言って。


 だがそれがドリムリーパーのやる気に点火した!


「ええ、いいわよ。けど……ちょおっと思い切りやるけど構わないわよね?」


 え?と、少女が初めて驚いた。ドリムリーパーはその武器たる鎌【明日の朝】を、背負うが如く限界ギリギリまで思い切り振りかぶる。それは夢一つ終わらせるには過剰な力。


「夢がつまらないと言われちゃ、夢の住人の名折れ。私は夢を終わらせる者、夢の終わりを作る事だって出来る……この夢を終わらせて、他の夢を見せてあげるわ!」


 鎌が、振り抜かれた。文字が裂ける。そして、その向こうに。


「ああ……!あれ、あれは……昔、本当に見た・・……綺麗……!」


 少女の簡単は言葉にならなかった。言葉に囚われた少女だから、言葉にならないことこそが救いであり幸いだった。夢の終わり間際、切り裂かれた文字の夢の向こうに、一瞬青空の夢が見えていた。

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