・第二夜

 怪しい奴が多い……!


 地下街で相手を尾行しながら、僕はそう思った。


 死神めいた骨張った老人。魔女の如き老婆。死霊じみた青白い顔の男。ひとかどの組織の長と思しき様々な威厳在る声の男達。


 そんな中を潜り抜け、これまた如何にもあくの濃い空く当然とした印象を与える顔立ちの……〈使者〉と呼ばれる男を僕は追っていた。〈使者〉はファラオのようでもあり悪魔のようでもあり忍びの者のようでもあった。様々な印象を持ち、測りがたい独特な雰囲気を持っている為、尾行すつけるのに苦労する。


 〈使者〉は悪党らしい雰囲気だと言ったが、同時に何処か親しみを感じる風もある。ぬけぬけとして、のうのうとして、どこかコミカルでノスタルジックな印象。


 それはこの地下街の他の人間達も同じだ。どこかで見たような懐かしさを感じる。そして、そもそも地下街全体もそうだ。


 ……綺麗だとは言いがたい。全体的に古めかしく、建築も商店の品物も昔のものばかりで、相応する程度にはくすんでいる。だが不潔という程では無く、どこか懐かしい風情を漂わせていた。


 そう、くすみ具合と建築の古さも併せて、子供の頃に見た昔のTV番組の映像めいた、実際にはあまりそういう場所を歩いた事が無いにも関わらず幼い日の記憶として根付いた昭和の町並みのような。


 思えば、街の人間もそんな風な見覚えがあるような? ……っと!?


「残念ながら、ここまでよ」


 角を曲がった〈使者〉を追う僕に、まるで映像を編集したように唐突に立ちはだかった、これまでの街の住人達と違って見た事も無い、美しいが不思議な女性。シャボン玉のような七色の髪、時計の意匠を帯びた装束、【今回は】と何故か思うが、時計柄のスカーフを巻いたスーツ姿。そして手には、小さく折りたたまれた骨色の何か。


「ここから先へ行かせる訳には行かないわ」

「冗談じゃない、まだまだ……!」


 阻止しようとする女を僕は拒絶した。この冒険を、僕は楽しんでいる。この町並みもこの街の連中も、実に不思議な懐かしさでわくわくする。だからまだだと……


「貴方の為に言ってるのよ……自分の体を意識しなさい」

 

 渋面でそう言われ、えっと思うと、あ、下腹部に、この感覚は……!?


「早く起きなさい!漏らすわよ!」

「うわぁっ!?」


 目を覚ましてトイレに駆け込んだ。危ない、漏らす所だった。助かった……名残惜しかったけどありがとう……あれ、誰だっけか……?

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