第33話 苛立ち*レックス視点


 俺は数日前から少し苛ついている。

アレクサンドラ嬢が惚れ薬に興味を持っているらしい。一体どういうつもりかわからないけど、グレンが言うには随分と真剣だったそうだ。


 何のために?‥と思うけど、誰かを惚れさせる為なんだろう。アレクサンドラ嬢は俺たちが婚約に関して裏で動き出してることを知らない。

 ノーランド侯爵にはもうあのパーティーの際に、マティアス殿下と共に話は通してる。だけどアレクサンドラ嬢は、もうじき俺がジュリアさんと婚約を解消して、あろうことかアレクサンドラ嬢を口説き出すということを知らないんだ。


 つまりアレクサンドラ嬢は今のところ絶賛フリーなわけで、いつかきてしまう政略結婚の前に何処かの男と淡い恋でも楽しみたいのかもしれない。


 これは俺の持論でしかないけど、政略結婚が求められる貴族にとって、愛だの恋だのの感情は要らないと思ってる。政略結婚相手にその気持ちを抱けるなら幸せなことだけどね。

 他の相手に抱いてしまえばどろどろと許されない逢瀬を続けることになる。本命のことを愛人として扱わなくてはならないなんてお互い精神が擦り減るだけだろ。


 だからその点、俺はすごく恵まれたと思う。ノーランド侯爵に話はつけてるから物理的にも彼女を手に入れられるし、じっくり口説いていけば心を開いてくれるんじゃないかな。つまり俺は、政略結婚の相手を全力で愛せるという幸運の持ち主なわけ。


 でもアレクサンドラ嬢にとっては現時点での俺の立ち位置はジュリアさんの婚約者。それ以外の何者でもない。いまアレクサンドラ嬢に、惚れ薬を使いたいと思うほどの男がいるのなら、それは俺にとって何としても邪魔に入ってやりたいわけで。


 薬を使ってやりたいと思うほどに既にその男に惚れ込んでるのだとしたら、結婚後にもその男との関係が続くかもしれないじゃないか。


 それに、あのアレクサンドラ嬢が自ら積極的にアクションを起こそうとしていることにも腹が立つ。誰なんだ、相手の男は。


 惚れ薬なんてピンキリだ。本当に効果があるものもあれば、名ばかりのものだって沢山ある。効果が強すぎて理性が飛ぶものもあるかもしれないし、相手の男に飲ませたら何をされるか分からないんだ。



 ああ、イライラする。



 惚れ薬を探しているのなら止めないと。相手の男との関係も断ち切らせないと。今の時点で、俺にそんな資格ないかもしれないけど。


 ちょうど今日は王宮で国王と直接話をするんだ。ノーランド侯爵とマティアス殿下、それと俺と俺の父。もちろん婚約の話をする為にね。


 国王に謁見する前に、ノーランド侯爵に話しかけた。


「急で申し訳ないですが、今日の夜にアレクサンドラ嬢と少しお話させて頂いてもよろしいですか?」


「え?あ、あぁ、もちろんですよ」


 ノーランド侯爵はジュリアさんとの婚約を解消させてアレクサンドラ嬢と婚約したいと言った時も喜んでくれてたし、非常に協力的で親しみやすい人だ。


 今日アレクサンドラ嬢に会える。それだけで胸が躍る。

だけど惚れ薬のことを思い返せば、直ぐに苛立ってしまう。


 なんて切り出そうか。

アレクサンドラ嬢は俺の婚約者になるんだから、他の男に惚れ薬を使わないでくれって??


 現時点で婚約者になることを伝えたら、思いっきり拒否されそうな気もする。‥‥はぁ、‥相手の男、許すまじ‥。

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