第32話 時限爆弾ですわね
パーティーが終わり、私は部屋に戻りました。
いやー、はい、疲れましたわ。皆様に感謝を述べて送り出したらもうこんな時間。私は日中不本意ながら寝ていたので、私以外の方々のほうが疲れているに決まってますけども。
ちなみに送り出した際、レックス様は柔らかく微笑んで「またね」と言っていました。もちろん睨みつけて差し上げましたわ。「覚悟しておいて下さいませ」と言ったら首を傾げておりましたが。
それにしても‥パーティーが終わるギリギリまでマティアス殿下とレックス様がお父様と何やら真剣にお話していたんですの。あれ、何を話していたのかしら‥?
「うっ、うっ、本当に、お目覚めになられて良かったです、ううっ」
アンナが号泣です。まさかアンナが私のために泣いてくれるようになるとは思っていませんでしたわ。
目覚めなければ責任を負わされるから、といった理由ではないのがわかります。多分心から、心配してくれていたんでしょう。
「本当心配かけたわね」
「うぅうぅうぅ」
「擦ったら腫れるわ!ほら、このハンカチ使って!」
そんな私たちに構うことなく、スーザンはせっせと私のドレスを脱がせています。本当こんなときにもクールなんだから‥。でもスーザンの顔にも疲れが見えていて、相当心配してくれたんだろうなぁと思いました。
日付が変わってまた朝が来ました。
昨日の大騒ぎが嘘のようでしたが、今日は今日で信じられないことが起きました。
「わざわざお見舞いだなんてありがとうございます、ペリング伯爵」
「いえ、当然のことです。昨日はどうしても仕事を抜け出せず、顔を出せずに申し訳ありません」
「そんな、謝らないでください!それに私は本当に眠っていただけなので体に異常は起きていませんし」
まさかグレン・ペリング伯爵がわざわざ心配してきてくださるなんて~!きゃー。やっぱりイケメンだわ。マティアス殿下もレックス様もイケメンだけど‥何ていうのかしら?ペリング伯爵は見ていると落ち着くのよ。まぁお兄様と同じで5歳年上なせいかもしれないけれど。
私とペリング伯爵はお茶をしながら会話を交わしていました。最近のことやお兄様のことなどをお話した後、ペリング伯爵が口に出したのはあの話題でした。
「そういえば、また誰かが悪戯に流した噂を耳にしました」
「あ‥」
すいません。噂を流したのは私です。
「絶えず様々なゴシップが流れているので、きっとすぐに別な話題に掻き消されて落ち着くと思います。あまり思い詰めないでくださいね」
大人だわー‥。爪の垢煎じてレックス様に飲ませたいわ‥。
「‥‥ありがとうございます」
ペリング伯爵は小さくクスッと微笑んで下さいました。
博学なイメージもあるし、建設的な意見を下さるペリング伯爵‥。ついでにちょっと聞いてみようかしら‥?
「ペリング伯爵、質問してもよろしいですか?」
「はい、なんでしょう」
「‥その、惚れ薬を見たことがありますか‥?」
私が尋ねると、ペリング伯爵は目を見開いていました。
あまりにも唐突だったかしらーー?
「‥‥あー、見たことはないけど話に聞いたことなら‥」
きゃー!早くも有力な手掛かりですわ!!
「く、詳しく教えてくださいますか?!」
「‥‥はい。えーっ、と。‥‥男女感の‥その、欲求を強める薬としても売られていたりするそうですね。‥媚薬、というべきでしょうか」
「媚薬」
「ええ。恐らく興奮を高めることによって、媚薬の効果だけではなく恋愛感情を引き起こさせることもできるのかと。まぁ一時の錯覚というべきですかね」
‥‥なんてことですの。これは悪戯に使っていい薬なんかじゃないわ!それに、一時の錯覚って‥。私はあの社交パーティーの時からずっとレックス様のことを考えてしまうのよ‥?知らぬ間に何度も何度も飲まされていたのかしら?‥いや、そんな筈ないわ。いくらなんでも不自然すぎるもの。
それなら‥
「‥一時ではなく、効果が長く続く種類のものもあったりするのでしょうか‥‥?」
「‥え、えーっと‥そこまでは、すみません。分からないです。(アレクサンドラ嬢、凄く興味津々だな‥。惚れ薬を使いたい相手がいるのか‥?)」
「そ、そうですよね。奇妙な質問をしてしまいすみません」
くぅぅ。初めてクラリッサ嬢の力を借りたい気持ちになったわ!
クラリッサ嬢ならきっと何か情報を掴んでそうだもの‥でももう彼女は二度とここへは来れないでしょうし‥今度ベッキー夫人(B)にでも尋ねてみようかしら。
「いえ。何かわかったことがあればお伝えしますね。(惚れ薬なんて何が起こるかわからない危険なもの、侯爵家のご令嬢が欲するなんて危ないよなぁ‥。彼女の兄に伝えるにしても、実の兄にこんなこと知られたくないだろうし‥。ギル(兄)はそもそも知ってても関与しなさそうだ。他に彼女の身近で、器用に立ち回れる人ーーー、あ、レックスがいるじゃないか。レックスにサラッと伝えておけば、危なくないように見張ってくれるかもしれないな。アレクサンドラ嬢の義理の兄になるわけだし。よし、そうしよう)」
私は知らなかった。この時のペリング伯爵との会話が、とんでもない時限爆弾と化したことを‥
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