第16話 アリーの知らない水面下


 あれ‥?結局、私ほとんどジュリアと一緒にいたんじゃないかしら‥。と帰りの馬車の中でふと思いました。え、あれ?‥ペリング伯爵とお近付きになれていないわ‥。


「アリー‥楽しかったね」


 目尻が垂れすぎよ、ジュリア。そんな蕩けてどうするのよ。


「‥‥ま、まぁ悪くなかったわね」


 そう。悪くなかったわ。行きの馬車では苛々していたのに、帰りはなんだか満たされているような気がするわ。まぁ、あれね。素晴らしい絵画を見たからね!!それにしても何か忘れている気がするわ‥。


「‥‥あっ!!」


「‥どうしたの?アリー」


「レックス様‥‥チッ!」


「え?」


 行きの馬車の中で、レックス様にサラッと一発やり返すって目標を立てていたのに!!!あぁっ、なんてことなの!!普通にさよならしてきちゃったじゃないの!


 ジュリアが目を瞬かせています。けれど、あんたの婚約者に仕返ししたかっただけよとも言えません。


「な、なんでもないわ」


「そう‥。アリー、何か、もし‥」


「え?」


「何か困っていることがあったら‥その、相談してね?」


 ‥何を言っているのかわからないわ!困っていることですって?!突然どうしたのかしら!!まるで聖母のような柔らかな笑みを浮かべているジュリアに、私は首を横に振りました。


「大丈夫ですわ。何も困ってませんもの」


 何か困っていた時にジュリアに頼ったら多分ぽわぽわが爆発してもっと面倒なことになりそうですし。


「そう‥」


 ジュリアは眉を下げて小さく笑っていました。

一体突然どうしたのでしょう‥。


 屋敷に戻り、今日のことを振り返ります。

あー、楽しい一日だったなぁ‥。



 次の日、私は父に呼び出されました。多忙な父から呼び出されるなんて何かあったんでしょうか。父の部屋に着くと父はソファに腰を掛けて何やら書類に目を通していました。


「お父様、お呼びですか」


「ああ、アリー。今日も綺麗だね」


 思春期になっても父のご挨拶は変わりません。母とジュリアと私にいちいち「綺麗だね」と言ってきます。まぁ‥紳士なのでしょう。


 どうぞ座ってと言われたのでソファに腰を掛け、私は父が話を切り出すのを待ちました。


「‥‥その、ジュリアがレックス卿と婚約しただろう」


 はっ!!!なんと!!その話なのね!お父様からその話を振ってくれるなんて!いつか機会があったらその話をしたいと思っていたのよ。まぁ別に昨日の美術館ダブルデートでは特にレックス様の腹黒さは感じなかったけれど。

 お父様の中でのレックス様の印象を少しでも悪くしておけば、いつか婚約破棄のチャンスが訪れた時に有利よね!!


「レックス様のお話ですか?!」


「え、あ、いや、その‥そろそろお前の‥」


「え?違うのですか‥」


 なーんだ。


「ど、どうしたんだアリー。まさか‥その、」


「?なんですの?」


「いや。なんでもない‥」


「そういえば、お父様は何のお話がしたかったんですの?」


 そう言いながらも父が手にする書類を見て察しました。あ、私にも縁談が来たのかしら?はー、お相手はどこの誰でしょう‥‥。婚約者が決まる前にイケメンにキュンキュンしたかったのに‥。(昨日そのチャンスだったのに!)


「あ、いや、いいんだ。うん。また今度にしよう」


「え‥?」


 確かに縁談のお話のようでしたのに‥どうしたのかしら。

ジュリアも、お父様もなんだか変だわ‥。




*その頃のジュリア


 アリー‥自分では気付いていないけど、昔から好きになる人にはツンツンするんだよね‥。初恋の庭師のジョンにもツンツンしてたもの‥。スーザンは同志って感じだからツンツンしていないけど‥。

 ムキになる、恥ずかしい、照れる、乱される‥これがアリーの「好き!」に繋がりやすいというか‥。

 心が正常でいられる相手には、多分ときめかないと思う‥。ペリング伯爵にはツンツンしてないから、ペリング伯爵のことはあくまでも目の保養的な感じなんじゃないかな‥。だから、それでいうと‥たぶんアリーが心を乱されるのはレックス様だと思うの。社交パーティーのあとからレックス様にプンプンしてるみたいだし‥

 庭師のジョンに恋をしたときも、最初はプンプンしてたのにあとから凄くキュンキュンしてたし‥

 私もレックス様も政略結婚だって割り切っているし‥お互いまだ何の情もない。婚約相手が私からアリーに変わるなら、公爵家もうちも損はないわ‥。アリーが苦しい思いをするのだけは嫌なの‥。アリーはレックス様のこと好きになるのかなぁ?

 いいなぁレックス様‥私もアリーに好かれたいなぁ‥。あとでお父様に、婚約のこと相談してみよう‥



*その頃の父


 なんだ!アリー‥!もしやレックス卿に気があるのか?

この間の社交パーティーのあとレックス卿に腹を立てていたと使用人から聞いたし‥!

昔、庭師のジョンに恋をしてた時もそうだったんだよなぁ‥。アリーは怒ると容赦なく冷静に仕返しができるやつだが、心が乱されてツンツンしてしまう相手には冷静になれないんだよな。そしてツンツンしてたくせにキュンキュンしてデレデレするんだよなぁー‥

あー、仲の良い姉妹なのに、婚約者のことで揉めてほしくないなぁー、どうしたものか‥。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る