第5話 のらりくらりと*レックス視点
社交パーティーを終えて馬車に乗ると、従者のブライが俺を見るなり溜息を吐いた。何が言いたいのかは分かるけど、主人を見るなり溜息ってなかなか失礼だからね?
「コイントスのこと?」
「‥ええ。あんなに繰り返してはイカサマだとバレバレでしょう‥」
ブライのことを一言で言えば、気品ある糸目、といったところか。幼い頃から常に一緒だったせいか、ブライは俺に躊躇なく発言してくる。
「お開きになった頃、怒りに震えてたね。途中は必死に食らいついてたけど」
真っ赤になって意地になっていたあの姿を思い浮かべてクスッと笑う。
「‥いくらアレクサンドラ嬢が悪女と名高いからといって、あんな風に子供のようなやり方で苛めるのはどうかと‥」
ブライの言葉に思わず片眉を上げた。なんと、そう捉えられていたのか。
「アレクサンドラ嬢は別に悪女ではないだろう」
「えぇ?有名な話ではないですか。人によって態度が全然違いますし。媚びて甘えているかと思いきや、一方では人を傷つける事を平気で言って嘲笑っているとか。‥それに、姉であるジュリア嬢を酷く嫌っていて、かなり虐め抜いているそうですよ」
そう言って、ブライが怪訝そうな顔をしている。
ブライは側近として共にパーティーに参加していたが、少し離れたところで情報収集をさせていた。俺たちがゲームをしていることは分かっていても、細かい会話までは聞こえなかったんだろう。
その代わり、情報収集ではアレクサンドラ嬢の悪口ばかりが聞こえてきたのかもしれない。まぁ彼女は目を見張る様な美人だし、主張の強い金色の髪に、派手な顔付きだ。一方のジュリアさんが清楚なおっとり美人とあれば、人々の注目度も高い。キツめのアレクサンドラ嬢に、気弱なジュリア嬢。遠目から見ればアレクサンドラ嬢がただただ罵っている様にしか見えないからね。
だが、実際は‥
ジュリアさんはアレクサンドラ嬢がいなければ俺とろくに会話もできないし、アレクサンドラ嬢はツンケンしながらも56個もジュリアさんの特徴を答えた。
普通、そこまで答えられないだろう。
「ブライ。表面だけの情報に流されると、本質が見抜けなくなるよ?」
「それはどういう‥」
まぁ別にジュリアさんはイジメられていないよ、とか、アレクサンドラ嬢は別に悪女ではないよ、なんて言って回るつもりもない。
2人とも噂を気にしているようにも見えないし、ましてや誤解を解いてくれだなんて望んでいないだろうし。
まぁ、噂なんて所詮人々のデザートでしかないってこと。心底どうでもいい。
「俺はただ動くのが嫌だっただけ。最低限の交流は済ませていたし、あれ以上動き回るなんて疲れるだけだろ」
「‥‥と、申しますと?」
「ジュリアさんといれば周りもとやかく言わないでしょ。でも彼女、アレクサンドラ嬢といたかったようだし。俺はコイントスだけしてれば、アレクサンドラ嬢がペラペラと話をしてくれる状況を作ったんだよ。俺は微笑んでコイントスするだけで時間を潰せたってこと」
「‥‥はぁ。レックス様は本当‥器用なくせに物臭ですよね‥」
「まぁ今頃アレクサンドラ嬢が腹を立ててるのかと思うと、ふふっ、吹き出しちゃうんだけど」
「‥‥本当‥癖があるというか、黒いというか‥」
「まぁ義理の妹になるわけだし、ある種のスキンシップでしょ」
そう言って俺はまた笑った。
どうせ苛立たせるのなら、ジュリアさんのようなおとなしい女性よりも、アレクサンドラ嬢の方が遣り甲斐はあるよね、うん。
貴族同士の政略結婚なんて当たり前。恋だの愛だの、政略結婚の前では通用しないわけで。それは相手方も同じだし、避けられない。
ノーランド侯爵家は相手として申し分ないし、向こうも同じことを思っているだろう。
昔から何故か様々なことに変に気が付きやすいし、無駄に器用すぎるところがあった。だから人生イージーモードだけど、俺には熱い気持ち的なのが存在しない。
だからまぁのらりくらりと、危ない橋は回避しながらもゆっくり生きている。まぁたまには楽しみたいから、毛を逆立てたペルシャ猫みたいな遊び相手を見つけて少し心が軽やかになっている気がするんだよね。そうそう、未来の義理の妹のこと。
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