第3話 流行の最先端?馬鹿なんですの?


 今日は社交パーティーがあるのだけど、それはもう屋敷を出る前から大騒動でしたわ。

 私たち姉妹は先日社交会にデビューしたばかりでした。ちなみにデビューの日もジュリアはジャラジャラした鎖のようなネックレスを付けたり、幼児が着るような幼いデザインのドレスを選んだりとそれはもう酷いものでしたわ。ドレスはその場で破いて差し上げました。ネックレスは鎌に巻きつけて鎖鎌にして護衛に渡しましたわ。こちらの方がよっぽど使い道があるってものよ。

 今日は今日で、気が触れたのか目の下に赤い顔料を塗っておりましたのでオイルをぶっかけて差し上げました。Bに影響されていますね。民族化粧引きずってますね。

 デビューの日の幼すぎるドレスを反省してか、今回は燻んだピンクベージュ一色のドレスでございました。首周りにはレースが施されています。ええ、おっしゃる通り、ババシャツです。

 まぁ私が先程「きゃっ、」と驚いたふりをしてジュリアの顔面にオイルをぶちまけた際にババシャツも汚れましたので総着替えです。


「きっとわざとよね」

「本当酷すぎるわ‥」


 ジュリアの侍女たちの声がひそひそと聞こえてきます。

ーー桶にオイルを入れて屋敷内を歩く令嬢がどこにいるんですか。わざとです!!!おかげで腕ぷるぷるです!!


「えーーっと、アンナ?」


 ジュリアの部屋に私のドレスを届けたついでにジュリアの侍女に話しかけました。私の悪口を話していた為か、アンナが肩を震わせております。というかもっと小さな声で話しなさいよ。馬鹿なの?


「は、はい、アレクサンドラお嬢様‥!」


「ちょっとこちらに来ていただける?」


「は、はい!」


 少し焦った様子で近寄ってきたアンナの顔に、赤い顔料を塗ったくってやりました。


「ふごっ?!ふはっ、あ、アレクサンドラお嬢様‥?!」


「あぁ、いい感じよ、アンナ」


「ぁ、あの、これは一体‥」


 びくびくと震え上がっているアンナを、ハンっと鼻で笑います。


「とっても似合ってるわ!

今日の社交パーティ貴女も行くものね!」


「え、あの、そのっ!」


「まさか嫌なの?そんなわけないわよねぇ。お姉様も塗っていたもの」


 にんまりと笑いながらジュリアに視線をやります。

ジュリアに助けを求めているのか、アンナはジュリアを見ておりました。私たちの視線に気付いたジュリアは、アンナの顔を見て頬を緩ませます。


「素敵よ、アンナ」


 ぽわん、と目を細めております。そうです、そういう子なんです。アホなんです。


 アンナの顔が青ざめていた。いや、顔料で赤いのだけども。

侍女たちはジュリアに意地悪をしているわけでも、ましてや恥をかかせてやろうという魂胆も恐らくない。

  完全に溺れきっているのよね、ジュリアに。心も綺麗で真っ直ぐなジュリアは、美少女と名高い。目に入れても痛くない程に可愛いジュリアお嬢様なら、むしろ時代の最先端をいき流行りを作れるはずよ!とでも考えているんじゃないかしら。馬鹿馬鹿しい。


「あ、あの、わ、私には似合わないかと‥!」


 半泣きのアンナを前にしながら、ジュリアに声を掛ける。


「お姉様、お姉様のお顔はお化粧映えがしませんのであまり塗ったくらない方がいいかと、ええ、その紫のシャドウはセンスないですわ」


 今まさにジュリアの肌に塗ったくろうとしていた侍女が肩を震わせる。こうして侍女たちにもガンガン文句を言わないと、みんなジュリアのポワポワ~とした空気感にやられてポワポワしてしまうのよ。


「えーっと?セレナと言ったかしら?」


「は、はい!」


 ジュリアの髪を弄るセレナの指が止まる。


「お姉様は童顔でもないけれど、流石にその髪飾りはババ臭いんじゃないかしら」


 大きなダイヤ型の真っ黒な髪飾り。小さな白いパールで縁取られていて実際は可愛いデザイン。

 だけどそれはもう少し大人になって色気がついてからの方が使いこなせると思いますわ。それに、私が貸して差し上げたドレスは清潔感漂う薄水色のもの。真っ黒な髪飾りは似合いません。ジュリアもだけど、侍女たちも圧倒的にセンスなしですわ。


 結局私の指示のもとマシな姿に仕上がったジュリアは鏡を見て頬を緩めました。


「あ、ありがとう‥アリー‥」


「っ!」


 突然の感謝です。いつもなよなよたじたじしている癖に、パァッと明るい表情を向けてきたのです。


 パァン!と扇子を開いて口元を隠し、ジュリアを見遣りました。


「はぁ、なんとか見れるようになりましたわね。社交の場で恥をかかされるのだけはごめんですから。お姉様が元々センスがずれているのは分かっていましたが侍女の方たちもまぁ酷いものですわね。ふんっ、まぁせいぜい私のお下がりドレスを着て満足してくださいませ」


 あんたたちのせいで疲れたわの意を込めて、思いっきりフンッ!と鼻を鳴らしました。一件落着したのでジュリアの部屋を出ますと、スーザンがポツリと声を落とします。


「アリー様、あのようなドレスをお持ちだったのですね」


「え?あぁ、まぁ」


「ご自身のお顔立ちには水色は似合わないと仰っていたのに」


「‥着たくなる日が来るかもしれないから買っていたのよ!ま、まぁ、役に立ってよかったわ。あのままだったら私が、いや、ノーランド侯爵家が赤っ恥をかいていたもの!それにしてもアンナしれっと部屋から出ていってたわね。あれ顔料落としてるわよね。腹立つわー」



ーーー扇子で顔を隠しながらツカツカと歩いていくアレクサンドラを見て、スーザンは「ジュリア様の為に買っていたのですね」と心の中で囁いているのであった。

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