第5話 迷路ー世界。見えている者
初めは真っ直ぐに進めた気がする。与えられた全てが僕を育ててくれた。何も難しことも考えずに伸び伸びと僕は前のみを見た。
両親は優しく、時には厳しく僕を育ててくれていた。進むことに夢中できつくても超えて行くことができた。それで両親が褒めてくれた、喜んでくれた。
それだけで十分だった。
しかし知ってしまった。昔から自分の家が周りよりも裕福な事は感じていた。父の事業が成功しているのだと、そう思っていた。あながち間違いではない。たとえそれが、闇商業だとしても。
13の時だった。父の書斎に無断で興味本位に入った。
普段見ることの無い本を見渡しながら一つ手に取った。普通は、そのカバーの裏に文字があったとしても気づかないかもしれない。
だが、僕は……
今思えば子供が見ても落書きにも見えるような暗号だったが、すぐに気付いた。
何か嫌な予感がして、それを拭いたかったのかもしれない。すぐに動き出していた。
父のパソコンを隈無く調べると出てきた資料、それは偽物の骨董品の取引に関する物だった。
決定的だった。そこから調べれば調べるほど実態は浮き彫りになっていく。父の悪行、それに母の手を加わっていること。不良品や偽物を善人に騙して売っていること。
僕の両親像は、崩れ去った。その時の衝撃は、計り知れなかっただろう。まるで目の前の光が一瞬で消えたような、そんな寂しさまで感じた。
この時の僕の正義感は、警察に告発すべきだと言った。これだけの証拠があれば間違いなく逮捕は、免れないだろうと。
しかし、俺の不幸はこれではない。それは、両親の僕に対しての愛は本物だったこと。
一人っ子だった僕は、親の期待を一身に受け育てられた。大切に育ててくれたと思えるくらいの愛情を貰っていた。
僕がここで裏切って突きつけて果たして本当にいいのだろうか。僕は、本心から両親を罰すべきだと言えなかった。
この時、僕の中で意見が割れてしまった。
滑稽だ、嘲笑え。
僕には、一歩でも前に踏み出すことができなくなっていた。
間違っているものが何かを懸命に考えた。 必死に。世界では、何が間違っていて何が正しいのかを。
時間が経っても、何度も一方のみを責め続けてみても、それに答えは出なかった。
僕は、このままではいけない事だけは分かっていた。だから僕は、
「2つのことを同時にすることにした。悪も善も」
僕は、息を吐き出すように弱々しく言った。
「それが盗みという訳ですか」
どこか笑うようにヴァンブは言った。
「そう言うことだ。親が騙して安く買った名品、逆に本物も偽って売った偽物。ちゃんと額まで調べて、まるでなかったことの様にする。小切手を置いてね。ただ、どっちにもダメージは受けるし、最近やたら警戒されてきてる。多分少しずつ勘づかれて始めているね」
もちろん僕は、犯罪者である。だが、その罪を背負うしか僕にはなかった。
ここからどう進むのか。自分には分からない。
「随分と狭くるしいところにいますね。」
リベルは、これまでと変わって突き放すように言った。その言葉に僕は息を飲む。
「お前には何が分かる!僕にはこうすることしかできなかったんだ!」
体中の空気を全て吐くかのように僕は叫んだ。
「少し長い話をしましょう。何、あなたにとってアドバイスになるかもしれませんし、まあ意味のない話になるかも知れません。」
パチン。
リベルは、右手を鳴らした。
目に映っていた景色がぶれた、その瞬間には目の前には何も無くなっている。
いや、違う。建物が無くなったと言った方がいい。顔をあげると月が見えるが、気のせいかいつもより近い。風もさっきよりも強くなった。
「は?」
状況を理解すると間抜けな声がでてしまう。
僕は、宙に浮いていた。
「な、何なんだこれ??」
「言っただろう。俺は自由な者だってな」
リベルは、尖った八重歯を覗かせニヤリと笑う。
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