第4話 迷路ー揺らぎそして
多分、こんなことをしても僕が救われるわけでもない。では、僕は救われたかったのだろうか?
その答えは、分からない。
ただ、見ているだけ、知ったまま無視することは出来なかった。
これで救われる人がいるのが唯一の希望だ。いや、もしかしたらその考えもおこがましいのかもしれない。
そして今日もまた、僕は罪を重ねる。
聞こえたのは、壁を反響して聞こえる小さな足音。誰がが離れていく。やはりこの時間帯は、警備達にも隙が生じやすい。
僕は、隠れていた通気口から降りる。これは、僕の秘密の仕事。まぁ、誰かに頼まれているわけでもないので趣味かもしれない。
あらかじめカメラとセンサーは、この時間に切れるように細工しておいたので後は時間との勝負。手際良く品を回収し、忘れずに紙をその場に置いておく。
今回はいつもより何故か警備が厳しい感じがしたが問題はない。
用は終わったので、回収品を抱えながら撤収する。こんなものの為に大金をはたくのは到底理解ができないが、騙されて買ってしまったのだから文句は言いづらい。
これを機にこんなことに金を使うのはやめてくれるのを願うのみだ。
しばらく周りに気をつけながら走り続ける。ここまでくれば、大丈夫だ。そう思い、 足を止めた。
ズキッ
心臓に痛みを感じ、鼓動が普段よりも加速していくのが感じる。
「くっ」
思わずよろけて膝をつく。走りすぎたのが原因では無い。まるで自分がおとぎ話の世界にいるような感じ。世界から棄てられた離れる錯覚が襲う。
何度も行ってきたが慣れなることはない。慣れてはならないこの気持ち悪い感覚。犯罪者と言う烙印は、自分には耐えることができないものであった。
選んだのは自分だ。突っ込まなくてもいいものに手を出した代償だ。
だが、僕を追い込んでいく。自死したくなったこともある。振り切るなんてできなかった。
「………!」
耐えきれずに嘔吐する。いつまでこの愚行をするのか分からない。僕の目の前は、扉が敷き詰められているような気分になる。
さっさと帰ろう。そう思い何とか呼吸を落ち着かせながら足を踏み出す。
パチパチ
この場に相応しくない拍手が響く。僕は心臓が跳ねるのを感じながら勢いよく振り向く。その姿は、夜の影によって黒く塗られていた。
「見事な手際、まるで見本市ですよ。しかし驚きました。まさかあなたが盗みなんてことをしてるなんて」
頭に直接響くように歌うような声でそいつは言った。
「ああ、記憶ないんでしたね。うっかりしてました」
パチン。そいつは、指を弾く。
「ぐっぁ」
突如頭に流れ始める情報の量に処理が追いつかず頭を抑えながらもすぐに状況を理解する。
「リベル……!」
執拗いと怒るようにそいつを睨んだ。
「おや、名前を読んでくれましたね。少し仲良くなってきたということでよろしいでしょうか?」
まるで気にならないとばかりに軽く受け流される。
雲がうごめき、隠れていた月が影を落としていく。ハッキリと見えるその姿は、いつも変わっていない。
「あなたとの親交も深まってきましたし、そろそろ教えてください。君のその闇を」
ここまできてもリベルがする質問は同じだった。うるさいと叫び出しそうな気持ちを抑え落ち着かせる。
この状況でそんな事を言っても奴は満足するはずがない。
思考は落ち着いているが、僕は追い込まれていた。これがバラされたらどうなるかも想像できない。
情けない、ここまで追い込まれることはもう一生ないと思っていた。この何もできない感覚は、僕の体を縛っていく。
『闇』それを聞いてこれだと自信を持って答えられる人は、この世に何人いるのだろうか。見た事のあるようでないようなものだ。
つまり、リベルは見えないもの、精神的なことを言っているのだろうことが分かる。
考えるだけでバカげていて意味も分からない。たが、心当たりが出てくるから腹が立ってくる。
どうしてか、自分でも感じるからだ。『闇』とは、この気持ちは、暗くて見えなくてだけど確かにある。
僕が黙っているのが気になったのか、リベルは僕の顔を覗く。
「もしかして本当にわかっていないんですか?」
心配しているような顔をして目を見つめてくる。だが、その顔はいつもと違いどこか悲しそうだった。
そんな慈悲深いようにしないでくれ。調子が狂う。
「こんなことを聞いてあなたに何の得があると言うのですか?そしてあなたは本当は、全て知っているのでは無いのでしょうか?」
なるべく丁寧に聞く。それはこれ以上はやめてくれと懇願でもあった。
「クローゼットがあるとします」
普段の軽い喋り方とは異なる、どこか気品さすらも感じさせる雰囲気をリベルは放っていた。そのまま目をじっと見て僕に語りかける。
「中は暗くて埃も多い。けれどもその中を探すと懐かしさすらもある自分が集めた宝箱がありました。
……下手な表現でしたね。けれど私は、その宝箱の中が見たいのです」
全くもって意味が分からない話。そう結論をつけたかった。何故だろう、僕にはリベルには言ってもいいのではないかと思ってしまった。
そして思い出すこいつは、人の心へも土足へ入る『自由なもの』なんだと。
この『闇』は、弱さとか愚考とかなどの問題では無い。言わば欠落、歪みなのだ。
僕はこれに気づいた時、その自分のそれをすぐに隠した。心の奥底に。はずだった。
「僕は、何が正しいか何が正しくないのかが分からない」
自分が出したとは思えないような今にも泣きそうで弱々しい声。
ハッとした我に返った時にはもう言っていた。溢れ出した声はもう止まらない。
「倫理的とか法的とか、その境界線とか、全てがめちゃくちゃで決めることができない」
言葉をこぼしながら、僕はある事を思い出していた。全てが変わり、そして直ることが無かったあの日々を。
「それがあなたの闇でしたか」
リベルは、静かに言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます