第3話 迷路ー不安
『闇』なんとも抽象的な表現だろう。この質問をされることは、実質2回目だが質問の糸が全く読み取れない。
ただ、答るだけなら簡単である。
「何を言っているか分からない。そもそもあんた不法侵入だよ。そんな奴に言う必要はない」
そう言って僕は、近くある非常用のベルを押す。警報がなり、警備会社が飛んでくる。それで終わり。
しかし、描いた未来は訪れることなく、何も起こらない。僕は、何度もボタンを押したが結果は変わらなかった。
「何をした?」
怪しい素振りは何も見られなかった。僕は男に聞く。
「まぁ、説明しても分からないと思います。簡単に言うと君に助けは来ないという事です」
サラッと言うとそのままこちらを見てくる。質問の答えは?そう聞いているのがわかる。
「何を期待しているか分からないけど僕にそんな闇に当てはまるものがあるとは思えない。別に暴れている訳ではないしね」
本心で答えた。そう思ったが、言葉の所々は揺れていた。きっと動揺が残っているからに決まっている。
「そして僕は今、とてもあなたを警戒している。昨夜の記憶を消したのは、あなたですよね。あなたは、何者だ?」
僕は立ち上がると男を鋭く見る。正確に言うと怒っているように見せて、その様子を観察した。隙があれば攻撃も視野に入れている。
「確かに、私とあなたには信頼関係はありません。では、私はあなたの質問に答えましょう。そうですね、まずは自己紹介から私は……、リベル。この世でただ一つの『自由なもの』です」
「自由なもの……」
思わずその懐疑的な言葉を呟く。
「なんだそれは?」
「言葉通りですよ。私は何にも縛られない、囚われない。そして何にでもなれるのです」
酔狂なのか。誰かがそんなことを言っていたらそんな目で見ていただろう。身近にいたら距離を置くかもしれない。だが、リベルには確固たる自信と雰囲気があるように見える。
「そんなやつがいる訳がない」
嘘に決まっているとそう思ったからこそ僕は、その存在を否定した。
「この世には法があり、社会があり、自然の摂理がある。どんなものにも縛られない自由とは無理だと思う」
本当の自由なんてない。俺の言葉は的を得ているはず。たが、リベルはピクリともしない。まるで自分が本当の事しか言ってないと主張するように。
「さすがだ。そうですね。人ならばまず無理でしょう。では、ある程度会話もしましたし、今度は君が答える番です。君の心の闇はなんですか?」
「残念だが、もう一度言うが、そんなものはない」
はっきりともう一度言う。リベルはため息をつくと、
「そうですか。おまけですよ、もう少し話しましょう。今回私があなたの昨夜の記憶を奪ったのは、あなたの普段を見る為です。
今日見た限り、私から見ても君は賢い、運動神経もいい、他にも十分過ぎるほどの恩恵を貰った人物であるだろうことは疑いようがありません。そんな君の歪み、闇はとても興味があるのですが」
「何を根拠に……」
そんなもので何が分かるのか。それは積み立ててきたもの、俺の努力でしかない。
(本当にそうなのか?)
そんな声が聞こえる。この声の持ち主は僕だ。
(親にそうするように唆された、そこに本当に自分の意思があったのか?俺は人ではなく道具ではないのか)
言葉の波が突如襲いかかってくる。リベルが何かしたのか?いや、これは本心……
僕が何も言わずに黙っているとリベルは、人差し指の関節を口元に当て、思案する素振りをする。
「こういうのは、自分からが大切ですからね……」
小声で何やらボソボソと言っているが、何を言っているかまでは聞き取れない。
「決めました。あまり手荒な真似はしたくないのですが仕方ありません」
そう言ってリベルは、顔を上げ足を前に踏み込む。僕は逃げる場所も無く警戒心を上げながら止まっているとそのままぶつかる寸前まで近寄ってきた。
リベルは、僕よりは20センチは高いだろうその背丈から僕を見下ろすと
「今日は、ここでお暇しましょう。次に会う時はあなたの『核』で。明日のテストは満点です。安心して眠ってください」
パチン僕の目の前でリベルは、指を鳴らす。すると突如抗えない眠気が襲い、僕は床に手をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます