6-3・調査報告

 家へ瞬間移動したとき、すでにノランは家のリビングで四人を待っていた。

 四人がソファーへと座ると、ノランが口を開いた。

「どうじゃ、何か分かったか?」

 レオは頷いた。

「数名の吸血鬼に話を聞いた、けど皆同じ意見だった。ヒューゴには種族として、魔法使いの他に、吸血鬼でもあると思っていたそうだ。だからヒューゴが魔法が使えなくなったという話を聞いた時、吸血鬼の血が濃くなったのだと思ったらしい」

「なるほどな。わしが昔の仲間に話を聞くと、どうやら昔、命美めいみ使いで一人、命美神めいみしん様が魔法を使えないように、罰を与えられた者がいると聞いたことがあるそうだ」

 レオはソファーの背もたれにもたれた。

「それがもしヒューゴの事なら、本当は吸血鬼の血が濃くなった故に魔法が使えなくなっただけのヒューゴは、それが命美神めいみしん様からの罰だと思い込んだ、ということか」

「そう言うことになるのう。裏の世界でも、二つの種族を持つ者は滅多にいない。ヒューゴが気づかなくてもおかしくないじゃろう」

 ルイーズは話を聞いて、アイメルでのヒューゴとのことを思い出した。

「ヒューゴをアイメルで追いかけた時、どんなに走っても息切れひとつしなかったわ」

「それはまことか? やはり吸血鬼を持つから、じゃろうな。魔法使いとて、全速力で走れば息は切れるからのう。他には何か聞いたか?」

 ノランはレオに聞いた。

「ヒューゴだけでなく、百年前の当時の裏の世界の者は皆、表の世界の戦争をとても嫌っていたそうだ」

命美めいみ使いの間でも、皆、表の世界の戦争を嫌っていたそうじゃ。プロフィールシートのことを考えると、ヒューゴと同じ考えを持っている者がいて、ヒューゴに協力していた者がいてもおかしくはない」

 今でも、表の世界の破壊に対して、裏の世界で半分は賛成の意見がある。戦争をしていた当時なら、もっとその意見は多かったのではと、ルイーズは思った。

「今でも破壊に対して賛成が多い。当時ならなおさらよね。プロフィールシートのことも考えて、ヒューゴは当時からリーダー的な立ち位置だったんじゃないかな」

 ルイーズの隣に座っていたティメオも頷いた。

「あぁ、そして突然魔法が使えなくなったってことだよね」

 ノランは少し考えると、レオの方を向いた。

「レオ、当時戦争をしていた国を中心に、捜索していった方が良いかもしれんな」

「そうだな。ルイーズ、俺と親父は一旦、この情報を持って本部へと行く。ここで大人なしくしていろよ。ティメオとサラも、悪いけどルイーズのことを頼む」

 ティメオとサラが頷くと、ノランとレオはすぐに瞬間移動して行った。


 光る巻貝の爆発まで残り二日。

 あれからルイーズ達は、相変わらず家にこもる日々を過ごしていて、ノランやレオはあれ以来一度も家に帰って来ることはなかった。

 祈りの場では、サラやティメオが差し入れを持って行けば受け取っては貰えるものの、何も情報は教えてくれず、報道でもどうなっているのか分からないようで、ルイーズ達のところには情報が何も入ってきていなかった。

「ノランやレオは、ちゃんとご飯を食べているのかしら」

 マノンが心配そうにため息をつくと、トムが新聞から目を離した。

「一つくらい見つかれば、報道でも言いそうですけどね。まだ何も言わないということは……」

「まだ一つも見つかっていないってことよね……」

 マノンはまたため息をついた。

 外はとても気持ちよさそうなそよ風の吹く晴れた日で、ルイーズは背伸びをしながら窓の側へと行くと外を見た。

「今日もお天気ね……絶好のお散歩日和だな」

「駄目よ、ルイーズ」

 エマが慌ててルイーズの側へ寄ってきた。

「散歩なんて絶対にダメよ。さっ、ソファーへ戻って。窓の側は危険よ」

「わかってるわ。でも流石に息が詰まる」

 ルルファイへ行って以来、外へと出る事は出来なかった。なので、だんだんストレスが溜まっていくのが分かった。ただ自分の為に側にいてくれるみんなのことを考えると、今はただひたすらに我慢するしかなかった。


 ルイーズがソファーへ戻ろうとしたその時、突然、結界の外側に捜査対象であるはずのヒューゴが瞬間移動してきた。

「ヒューゴ⁉」

 ルイーズが驚くのと同時に、異変に気付いたエマが慌てて、ルイーズを自分の後ろへと隠すと、ヒューゴは楽しそうに笑った。

「やぁルイーズ。退屈そうだね」

「あなたのせいじゃない」

「まぁね。あぁなんだ、ティメオも一緒なの? 君いつもルイーズの側にいるからさぁ、ちょっと鬱陶しくなってきちゃったよ」

 慌ててルイーズの側へ駆け寄ったティメオを見て、ヒューゴは残念そうな顔になった。

 ティメオはヒューゴを睨んだ。

「そっちこそ、いい加減ルイーズのストーカーを辞めたらどうだ?」

「ストーカー⁉ 何で君にそんなこと言われなくちゃいけないのさ。僕はただ、ルイーズを仲間として迎えに来ただけ。大事な役目の為にね」

「大事な役目だと?」

「そうだよ。だから言ったじゃない、必ず迎えに行くって。わざわざ来てあげたんだから、感謝してほしいくらいだね。さぁ、ルイーズ行こう」

 ヒューゴが手を出すと、ルイーズは首を横に振った。

「その前に聞かせて。今、光る巻貝はどこにあるの?」

「光る巻貝なら、僕がまだポケットの中に持ってるよ、ほら」

 ポケットから出された光る巻貝は、この前最後に見た時より光が強くなっている様で、白い色から少し赤みがかった色へと変わっているようだった。

「あと二日だからね。やっと少し赤くなってきたところなんだ。最後の方になると、この光る巻貝は真っ赤になるんだよ、バラのようにね」

 嬉しそうに光る巻貝を撫でるヒューゴに、今度はルイーズが手を差し出した。

「その光る巻貝を渡して。表の世界は爆発させてはいけないのよ」

「どうしてさ。裏の世界で集計したアンケートだって、半分近くの意見は、爆発に賛成だったじゃないか。だったら僕の意見も半分は正しいってことじゃない?」

「それでも爆発させてはいけないわ。表の世界には大勢の人々や生き物たちが住んでいるのよ」

「分かってるよ、それくらい。だから君の力が必要で、僕は君を迎えに来たんじゃないか。君が必要なんだ、ルイーズ。僕を手伝ってよ、ね」

 心細そうにルイーズを見ると、ヒューゴは光る巻貝をポケットにしまった。

「僕もね、表の世界のすべてを壊したいわけじゃない。何の罪もない、表の世界にいる動物達は助けたいんだ。だから動物達に被害が及ばないように助けてほしいんだよ」

「……動物達を? だったら爆発させなかったらいいじゃない」

「無理だよ。だって僕は……普通の人間どもを消し去りたいんだからさ! 〝破壊魔法!〟」

 力強く叫んだかと思った次の瞬間、ヒューゴは杖を結界に向け、魔法で壊し始めた。

 ノラン達があんなにもしっかりとかけた結界が少しずつ壊れ始め、ヒューゴの力の強さをその場にいる全員が感じる。

 けれど、ティメオやサラに迷いはなかった。

「サラ!」

「わかってる!」

 ティメオとサラは窓から飛び出すと、ヒューゴの壊し始めている結界を守るために、魔法で応戦し始めた。

「はははっ。二人ともなかなかやるじゃない。じゃあもうちょっと、力を強くしようかな~」

 ヒューゴはまだ余裕そうに、さらに力を強めた。

 ルイーズは居ても立っても居られず、窓の外へと飛び出し、保護の力を使って、ヒューゴの魔法を押し返しながら、少しずつ、ティメオとサラの元へと移動した。

「私も戦うわ。二人だけに、危険な目には合わせられないもの」

 ルイーズが自分と二人を結界で守りつつ、ティメオとサラがヒューゴに魔法で攻撃を仕掛け、今まで五分五分だった戦いが、少しずつヒューゴの劣勢へと動き始める。

ヒューゴはその光景を見て、とても残念そうな顔になった。

「必ず迎えに行くって言ったけど、これじゃあなかなか捕まりそうにないや。でもこのままじゃあ、無実の動物達が命を落とすことになっちゃうよ? それでもいいの?」

「光る巻貝を爆発させはしない。動物達も、人間たちも、みんな私達が助けるから!」

 三人は力を強め、ヒューゴの攻撃をどんどん押し返した。

「やるね。僕も負けてられないな」

 なぜかヒューゴは楽しそうな顔になり、先ほどよりも力を込めてきた。すると、一気に今度は、ルイーズ達の方が劣勢になった。 

「くっ」

「はははっ、凄いね。とっても楽しいよ。本当はもっと力を出せるんだけどさ。一向にルイーズの気持ちが変わらないみたいだし、計画を変更させることにしようかな。そうだな……」

 ヒューゴは楽しそうに攻撃しつつ、しばらく考えた後、何か閃いたのかルイーズを見た。

「よし決めた。ルイーズ! この光る巻貝を今から表の世界のどこかへと置いて行くけど、ルイーズ達天女にしか見つけられないようにするよ。本当はルイーズだけに見つけさせてもいいんだけどね、それじゃあ可哀そうだし、天女ってことにするよ。まぁ、上の天女は手伝わないし、下に降りている天女はとっても少ないと思うけど。間に合わなかったときは、一応悲しんであげるから、まぁせいぜい頑張って探してみて。あぁ、あともう一つ言い忘れてたんだけど、僕光る巻貝十個持ってたんだ。じゃあね」

 ヒューゴはそう言い残すと、どこかへと瞬間移動して消えていってしまった。

 力を使って戦い続けた三人はその場に座り込んだ。

「はぁ~、数が増えた。捕まえることから興味はそらせたみたいだけど、なんか悪い方向へ行ったわね」

 ルイーズは空を見上げた。

「そうだな。でも天女にしか見つけられないようにって、ルイーズのことといい、なんでそんなに天女にこだわるんだろう」

 ティメオも空を見上げると、サラが隣で芝生にゴロンと寝転んだ。

「さぁね。ただの趣味じゃない? 天女達は綺麗だからさ」

「まさか~」

 三人が思わず笑っていると、瞬間移動してきたノラン達がその姿を見て顔を見合わせた。

「おやおや、異変を感じて急いで戻ってきたんじゃがな」

「おじいちゃん! ヒューゴが来たの! でもついさっき、どっかに消えていったわ。ヒントを置いて」

「ヒントじゃと?」

 三人は立ちあがると、ルイーズはサラにへばりついた芝を払いながら、答えた。

「えぇ。ヒューゴはまだ光る巻貝を持っていて、その光る巻貝は色がすこしずつ、赤色へと変化しているわ。最終的には真っ赤なバラのような色になるそうよ。で、それを今から表の世界へ置きに行くみたいだけど、天女にしか見つけられないように仕掛けるって。あと五個じゃなくて十個持っているそうよ」

「十個じゃと! それは本当か? ということは、我々、命美めいみ使いがどんなに探しても見つからないということか。それは困ったのう」

 ノランとレオは顔を見合わせた。

 ルイーズは払い終わると、ティメオとサラと頷きあい、ノランとレオに言った。

「私が行くわ。必ず見つけて見せる」

「俺とサラもルイーズについて行きます。ルイーズが光る巻貝を見つけた時、それを破壊するために」

 三人の力強い目を見て、ノランは少し考えた後、レオに言った。

「レオ、お前が三人を連れていけ。ルイーズの側には、少しでも魔法使いが多い方がいいじゃろうからな」

「わかった」

 レオが返事をすると、家の中からエマ達が出てきた。

「マノン」

「ノラン、ケガはない?」

「あぁ無事じゃ」

 マノンはノランにそっと抱きついた。

「ノラン、私を表の世界へ連れて行って。私もこれでも天女よ。力になれるわ。そしてエマもよ」

 エマも側で頷いた。

「皆で守りましょう、表の世界を。ねぇ、トム」

「あぁ。これでも表の世界で育った者。少しは力になれると思います」

 トムもそう言うと、ノランはみんなを見回し、そして杖で花火を打ち上げ、どこかへと合図を送った。


少しして、上級命美めいみ使い数名がノランの元へと瞬間移動してきた。

「ノラン様」

「状況が変わった。やつはついさっき、光る巻貝を天女にしか見つけられないように仕掛けたそうじゃ。しかし残り二日しかない。急いで光宙之命美神こうちゅうのめいみしん様に頼んで、他の天女にも協力を要請せよ。天女の側には命美めいみ使いを数名置き、天女の護衛に当たれ!」

「はっ」

 上級命美めいみ使いはノランに一礼をすると、すぐに瞬間移動して行った。

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