6-2・ルルファイ

 翌朝、三人は家の前に張ってある、結界の前に立っていた。

 裏の世界にも電話はある。しかし表の世界のような携帯電話はないので、どうやってレオを呼んだらいいのかと、頭を悩ませていた。

 ルイーズに関しては、結界すら通れないようになっている。

 ティメオがエギスマールの祈りの場に行って呼んでこようかと言ってくれたけど、ルイーズは一度、結界を触ってみたくて仕方がなかった。

「私、結界を触ってみたい」

 ルイーズの突然の言葉に、ティメオとサラは目を丸くした。

「えぇ⁉ びりびりっとくることはないと思うけど、触るの?」

 サラはルイーズの肩に手を置いた。

「大丈夫かな……」

 ティメオは結界を睨みつけていた。

「石投げてみるからさ。それに叔父さんすっ飛んでくるかも」

「まぁ確かに……やってみるか」

 渋渋ティメオ達が頷いたので、ルイーズは念のため、石を結界に投げてみた。

 けれど電気が走るような事はなさそうなので、思い切って結界を触ってみた。

 すると、ノランとレオが他の上級命美めいみ使いを数名連れて、すぐに瞬間移動してきた。

「ルイーズ大丈夫か!」

 まさかこんなにも人が移動してくるとは思っていなかったので、三人は驚いた。

 レオはルイーズを見て、異常がないことをすぐに理解した。

「なんだ、ヒューゴが来たんじゃなかったのか」

「驚かせてごめん。でも緊急って言えば緊急なんだよ?」

「どんな?」

「家の図書室にあった上級命美めいみ使い名鑑でね、ヒューゴのプロフィールシートを見つけたの」

 ルイーズはそう言ってプロフィールシートを差し出した。

 ノランが驚きながらそれを受け取った。

「本当にヒューゴのプロフィールシートじゃ。これをどこで?」

 レオや上級命美めいみ使い達も驚きながらプロフィールシートを覗き込んでいた。

 ティメオは昨日の図書室での事を詳しく説明した。 


 ノランは説明を聞き、少し考えてから口を開いた。

「わしは一回、本部へ行ってこようと思う。レオは三人に付き添ってルルファイへ行ってくれ。他の者は引き続きヒューゴの捜索。レオ、何かあればすぐに呼ぶんじゃ。よいな」

「あぁ」

 ノランは真剣な表情のまま、瞬間移動して行ってしまった。

 いつになく真剣な表情のノランを見て、ルイーズは少し心配になった。

「叔父さん、おじいちゃん大丈夫かな?」

「ルイーズ達の説明を聞いて、何か心当たりでもあるのかもしれないな。今は親父に任すしかない。俺たちはルルファイへ急ごう」

「そうだね」

 ティメオとサラも頷くと、三人はレオと共に、ルルファイへと瞬間移動した。


 裏の世界・カリメア裏地区。そこに裏の世界で一番大きな街・ルルファイがあった。

 長方形の形をしたルルファイは、とても立派な城壁に、四方にそれぞれ一つずつ大きな門があった。

 街の真ん中に祈りの場があり、街はそこを中心に栄えている。

 裏の世界で一番大きな街の為、ルルファイは裏の世界の流行の先端でもあり、街には多くのルルファイの市民の他、遊びに来る観光客もいて、とても賑やかだった。

 裏の世界の電力である、アミルーカの花という電気花が裏の世界で一番多くあるからか、街には常にアミルーカの花の控えめで優しい香りが漂う。

 夜にしか動けない種族たちは、アミルーカの花の明るさは大丈夫なため、昼夜問わず色んな色で照らされていることから、

別名【カラフルで眠らない街】

として有名な街だった。


 ルイーズ達四人は、街の中心にある祈りの場から北東にある、大昔より吸血鬼の種族たちが住んでいる、吸血鬼町へと瞬間移動してきた。

 陽の光が苦手な吸血鬼向けに、道沿いには赤いアミルーカの花のみが明かりを灯し、昼間から薄暗く、雰囲気は怪しくてお化け屋敷のよう。

 大昔より住んでいるため、どこの館も大きくて黒く、数軒、吸血鬼専用の店や飲食店があるが、雰囲気のせいか他の種族たちは近づかなかった。

「初めて来た、吸血鬼町」

 ティメオがつぶやいた。

「ティメオも初めてなの? まるでお化け屋敷の雰囲気ね……」

 お化け屋敷の苦手なルイーズは、怖くて周りをキョロキョロ見回していた。

 サラはルイーズのことに気が付き、すぐにルイーズの手を握った。

「大丈夫ルイーズ?」

「たっ、多分……」

「裏の世界に住んでいる者でも、吸血鬼の住む島や町は、あまり出入りしないんだよ」

「そうなんだ」

 ルイーズはサラの腕にしがみついた。

 昼前に来たため、夜行性の吸血鬼が歩いているはずもなかった。

 レオはため息をついた。

「俺が一緒にいながら、こんな凡ミスをするとは……っているじゃないか、一人」

 女性の吸血鬼が吸血鬼専用の傘を差しながら歩いているのを見つけると、レオは急いでその女性のもとへと走った。


 吸血鬼とは、人の血を吸う陽の光が苦手な種族。

 裏の世界では協定により人の血を吸うことを禁止されていて、その代わり魔法使いたちが血と同じ味や色や成分のドリンクを作っていた。もう何百年以上も協定により人の血を吸っていないため、今ではほとんどの吸血鬼が人から直接血を飲んだことがない。

 肌が白く、目が赤くて牙がある。

 ちなみにマントは正装。陽は苦手だが灰になることはなく、陽が登ると体が拒絶反応を起こして体の調子が悪くなったり、発作が起こるため、日中は眠くなるらしい。   

昼間はどこにいても眠くなるのは室内にいても同じで、陽の光を避けるための大事な習性でもある。

 運動神経が抜群で、足は駿足で腕力は人間以上だった。

 女性が差している傘は吸血鬼専用の傘で、差している範囲は陽の光を避けられるという、どうしても昼間に用事のある吸血鬼のための傘だった。


 三人もレオについて行くと、まさか吸血鬼町に他の種族がいるとはおもっていなかったのか、女性は驚いた表情でレオを見た。

「こんにちは。命美めいみ使いの者ですが」

 レオはそう言うと、手首に入っている、命美めいみ使いの印を見せた。

「少しお時間よろしいですか?」

「はぁ……はい、何でしょう?」

「百年以上前に、この吸血鬼町の近くにヒューゴという男が住んでいたはずなんですが、ご存知でしょうか?」

 聞かれた女性は少し考えた。

「ヒューゴ……覚えてるわ。命美めいみ使いになったあのヒューゴでしょ? 彼がどうかしたの?」

「実はちょっと事件にかかわっていまして、彼の事を調べています。彼は吸血鬼とのハーフですよね」

 吸血鬼の女性は頷いた。

「そうよ。魔法使いだから、お母様と一緒に吸血鬼町の近くに住んでいたけど、ヒューゴには同じ吸血鬼の血を感じていた。だから町の皆はヒューゴと仲が良かったわね」

 四人は顔を見合わせた。

「同じ血を感じるというのは、ヒューゴがハーフだからではなく?」

「いえ、そう言うのではなく、私達は皆、ヒューゴが魔法使いであるのと同時に、吸血鬼でもあると思っていた。だから百年前に魔法が使えなくなったと聞いた時は、みんな吸血鬼の血が濃くなったのだと、もっぱら町での噂だったわ。小さな町だから、広まるのは早いのよ」

 吸血鬼の女性はそう言うと苦笑した。

「そう言えば、ヒューゴは百年前に表の世界で起きていた戦争を、とても嫌っていたわね」

「そうなんですか?」

「えぇ、あなた達は知らないのね。ヒューゴだけでなく、裏の世界に住む者は皆、表の世界の戦争を嫌っていた。命美星めいみせいを傷つけるあの戦争を」

「ヒューゴの父親は今もルルファイに?」

「いえ、ヒューゴのお父様は吸血鬼島へと引っ越されたわ。そろそろお暇してもよろしいでしょうか?」

 流石に傘を差しても限界だったのか、女性はつらそうにしていた。

 レオは頭を下げた。

「申し訳ありません。色々とありがとうございました。家までお送りしましょう」

 レオは三人にここにいるように言うと、女性を家まで瞬間移動で送って行った。


 少しして、レオが戻ってきた。

「結構喋ってくれたな。もともと話が好きらしくて、ヒューゴの印象も悪くなかったから、喋ってくれたらしい。でもあと数名話を聞きたいな」

 ルイーズ達四人は、夜まで当時ヒューゴが住んでいた辺りにも調査へと行った。

しかしこの辺りには魔法使いが多く住んでいて、流石にヒューゴのことを知るものはいなかった。

 夜になり、吸血鬼町へと戻ってきた。

 数名に話を聞いて回ったが、やはり昼間に聞いた女性と同じ意見ばかりだった。

 とりあえず四人は一旦、家へと帰ることにして、瞬間移動して行った。

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