第6章
6-1・上級命美使い名鑑
ヒューゴが光る巻貝を持ち去った次の日。
裏の世界中の
レオはもちろんのこと、ノランをはじめとする元
そんな
何としてでも爆発を止めたくて、本当は表の世界へ光る巻貝を捜しに行きたくてたまらなかった。けれど、光る巻貝の事は瞬く間に裏の世界中に広まり、裏の世界の新聞やラジオも号外や特別番組を組んだりして報道していたし、事の大きさや周りへの迷惑を考えると、家で大人しくしているほかなかった。
報道は光る巻貝を使うことについての是非が話し合われていて、心配の声がほとんどだと思っていたルイーズは、表の世界に光る巻貝が使われることに反対の意見がある一方、なんと賛成の意見も半分近くあると報道されていることに、驚きと怒りを覚えていた。
「どうして賛成の意見があるの?」
新聞を見ながら怒っていたルイーズは、ノラン達からルイーズの護衛を任されて、側にいたティメオに聞いた。
「裏の世界には、表の世界に対してあまり良く思っていない者たちも多い。昔、表の世界に住んでいて、そこを追い出され、迫害されて裏の世界へ来た種族も多いからね」
ルイーズがため息をついたちょうどその時、ネイサンのお見舞いに行っていたエマとトム、そしてティメオと同じく、ルイーズの護衛を頼まれていたサラが家へと帰ってきた。
ネイサンは重症を負ったものの命に別状はなく、アイメルの病院で治療してもらった後、エギスマールの病院へ転院して、今も入院中だった。
「おかえりなさい。ネイサンおじさんどうだった?」
ルイーズが聞くと、エマは空いているソファーにトムと座ってから答えた。
「怪我もだいぶ治りかけていて、本人もとても元気そうだったわ。あと一週間もしたら家へ帰っていいそうよ」
「えぇ⁉ だっておじさん血だらけだったし、色んなところ骨折したりして重症だったじゃない?」
ルイーズが驚いていると、エマとトムの護衛に付き添っていたサラが、ルイーズの隣に座りながら、ルイーズの手に薬の包み紙を置いて答えた。
「ゾエさんの薬のお陰よ。はい、そのゾエさんから」
「なにこれ?」
「御守りだって。何か身に危険が起きた時、この中の薬を撒けってさ」
「ありがとう。で、これ撒いたらどうなるの?」
「さぁ。撒けと言われただけだからね、どうなるのかは、撒いてみてのお楽しみ」
サラは意地悪な笑みを顔に浮かべながら、薬を突いた。
「ちょっと、中身の分からない薬なんだから、突いてどうするの」
ルイーズは急いで薬をポケットに直すと、アイメルで聞いた時に浮かんだ疑問を聞いてみた。
「そう言えば、ヒューゴは今も上級
「ノランさんたちは何て言ってたの?」
サラが聞き返した。
「二人とも知らないって。でもそれ変じゃない?」
ティメオは腕を組んで頷いた。
「確かに。何かヒューゴが
名鑑と聞き、ルイーズはノランの
「そうか! 家の図書室に何かあるかもしれない。調べに行ってみようか」
「ルイーズそれナイスアイディア!」
サラはルイーズの肩に手を置いた。
エマは行動的な三人を心配そうに見ていた。
「三人とも調べるだけにしてね。何か分かったからって、自分達だけで行動しちゃだめよ」
「わかってる」
ルイーズたち三人は席を立つと、急いで図書室へと向かった。
図書室へと入り、部屋の窓際に置いてある紙の蝶が入ったカゴまで来ると、ルイーズは蝶を一羽手に乗せて囁いた。
「
すると、蝶は二階の一番奥、隅っこの本棚まで飛んで行くと、一番下のとある分厚い本に止まった。
ルイーズはその本を手に取ると、題名を読んだ。
「歴代上級
パラパラとめくってみると、大昔から現在までの、上級
「この本、かなり貴重なんじゃない? まさか本当にあるとは思わなかったわ」
サラが目を丸くしていて、ティメオも驚きながら本を見ていた。
「ノランさんが
「うん、そうみたい」
ルイーズも大きく頷いた。
三人は真ん中のテーブルへと戻ると、最初から順番に、ヒューゴの事が載っていないか丁寧に読んでいった。
分厚い為、時間をかけながら読んだにも関わらず、ヒューゴのプロフィールはなかった。
「載ってない。ヒューゴのヤツ嘘ついてない?」
サラは疲れて首をグルグルと回し、ルイーズも疲れて天井を見上げた。
「何であの時、ヒューゴは上級
数年に一度の割合で、上級
三人はテーブルなどを片づけて広場を作ると、写真を一枚一枚拡大して、時間をかけながら、何かおかしなところはないか見ていき、時間はさらに刻刻と過ぎていった。
途中で休憩や食事を挟みながら、時刻が夜中の十一時を過ぎたころ、やっと百年ほど前の写真へとたどり着いた。
「あと百年か」
流石のティメオも疲れたようで、近くにあった椅子に座り込んでいた。
ルイーズは疲れている二人を見て、残りは明日にしようか迷った。けれど、二人はこのまま頑張ろうと言ってくれたので、次は百年前の集合写真を拡大しようと、三人は手を繋いだ。
ルイーズが先陣を切って本を拡大し、右から順番に写っている上級
すると、端っこに拡大前には写っていなかったヒューゴが、他の者と楽しそうに立っているのをルイーズが見つけた。
「いた!」
ルイーズは大きな声で二人の方を見た。
「え、どこ?」
ティメオとサラは、ルイーズの指さしているところを何度も見た。しかし何も見えなかった。
「ルイーズ、私には見えない。ティメオは?」
サラが聞くと、ティメオも首を横に振った。
「いや、俺にも見えない。何か魔法がかけてあるのかもしれないな。でもルイーズが天女で良かった。天女は古代より神に仕えていて、神に一番近い種族だから、俺達に見えないものが見える。フフの時もそうだったし。なぁルイーズ、確かにここにヒューゴがいるんだな?」
「うん、いるわ」
ルイーズが立っているヒューゴを調べるけれど、写真が動かせるはずもないので、おかしなところは何もなかった。
三人は写真を閉じると、もう一度外から写真を見てみた。しかし拡大しない限り、本のままでは流石にルイーズもヒューゴは見えなかった。
「なぜわざわざこんな仕掛けを? 他にも何か仕掛けがあるかもしれないね」
ルイーズがそう言うと、ティメオもサラも頷いた。
そこで、ここに写っている上級
数名見た後、先ほどヒューゴの隣で楽しそうに立っていた人物の写真を拡大した。
先ほど仕掛けがしてあったので、さらに丁寧に何かおかしなところはないか調べていく。
写真に写っているものは何も動かせないが、サラは何気なく、写真の人物の胸ポケットからチラリと見えている紙を触ってみた。
すると、動かせないと思っていた紙がスッとポケットから抜けた。
「あぁ、仕掛け発見!」
「えっ⁉ サラ凄い。どこでこれを?」
ルイーズに聞かれ、サラはあごで胸ポケットを指した。
「胸ポケットに入ってた。でもまさか抜けるとは思わなかったよ。拡大を取り消して見てみよう」
ルイーズは急いで拡大を取り消すと、その紙を空いているテーブルへ見やすいように置いた。
「ヒューゴのプロフィールだわ。やっぱりヒューゴが言った通り、まだ上級命美使いだったんだ。でも待って……この写真を持っていた人って百年前の人よね」
ヒューゴの写っていた集合写真を開くと、やはり写真には百年前の年号が記載されていた。
三人はとりあえず、ヒューゴのプロフィールシートを読んでみる。
するとヒューゴは今、百三十五歳でカリメア裏地区のルルファイの出身。両親は魔法使いと吸血鬼だということが分かった。
それを知り、ティメオは思わず腕を組んだ。
「えっ、百三十五歳って普通の魔法使いだったら生きてないだろう。でも見た目は三十代のままだったよな……」
ルイーズは何度もプロフィールシートを見返しながら話をした。
「吸血鬼とのハーフだから長生きするの?」
「まずその前に、吸血鬼が別の種族とカップルになること自体が珍しいよね。だから吸血鬼のハーフのことはよくわからないわ。まだ未知な部分も多いから、裏の世界って」
サラはそう言うと、近くにあった椅子に座った。
「そっかぁ。じゃあヒューゴはレアキャラなんだね。そう考えたら分からない以上、長生きしててもおかしくないよね。そう言えば、常連さんに吸血鬼の一族がいるんだけど、同じ吸血鬼の種族同士なら、話したことなくてもわかると言ってたな」
何気ないルイーズの言葉に、ティメオとサラは驚いて三人はここで一旦、話をまとめることにした。
①まず一つ目は、ヒューゴは今も
②二つ目はヒューゴの年齢の事。これに関しては、
「えっ⁉ だったらルルファイの吸血鬼にヒューゴのことを聞けば、何かわかるんじゃない?」
というサラの鶴の一声で、ルルファイの吸血鬼達に話を聞こうということになった。
➂三つ目は、なぜヒューゴは表の世界をあんなにも破壊したがっているのか。これに関しても、ルルファイで何か掴めないのか、話を聞いてみることになった。
今日はもう夜遅いので、明日レオに協力を依頼しようということになり、本日はお開きとなった。
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