5-5・光る巻貝の行方
ルイーズとティメオが家へと行くと、ノランは家の書庫でのんびりとロッキングチェアに揺られながら読書をしている最中だった。
「おや、お二人お揃いでどうしたんじゃ?」
「おじいちゃんに見てほしいものがあってきたの」
「ふむ、見てほしいものとな」
本をパタンと閉じると、ノランは二人を手招きした。
ノランの元へと行くと、二人はさっきの事を話した。
「なるほどな。とりあえず見てみるかの」
ノランが杖を一振りして机や椅子を端っこへと避けると、真ん中に小さな広場を作り、ノランにもさっきのアイシーの写真を見てもらった。
二人はノランを貝の家へと連れて行くと、光っている場所を指さした。
「あれなんだけど」
ノランは指で指した先をよく見ようと目を凝らした。
「ふむ……確かに光っとるな。わしの知る限り、光る貝は二人が言っておった通り、光る巻貝しかないじゃろう」
「やっぱりそうなんだ」
「違ってたら良かったのにな」
ルイーズとティメオは顔を見合わせた。
「とりあえず、一度アイシーの命美使いに確認させに行った方がいいじゃろう。二人とも、悪いが少しアイメルまで付き合ってくれるか。アイシーの命美使いにこの写真を見せたいのでの」
ノランが本を閉じて二人を見ると、ルイーズもティメオも深く頷いた。
「では出発じゃ」
ノランはそう言うと、ティメオとルイーズを連れて、急いでアイメルに瞬間移動をした。
あっという間にアイメルの祈りの場内の奥の部屋へとたどり着き、初めて瞬間移動をしたルイーズは、特に気分が悪くなることもなく、あっという間に別の土地へと移動できることに、なんて便利な力なんだろうと思った。
ノランはここにいるように二人に言うと、どこかへと連絡をとりに部屋を出ていった。
しばらく部屋で待っていると、ノランがアイシーの人魚族の
人魚族の男性はルイーズを見つけると、嬉しそうにルイーズの側へとやって来た。
「本当にエマにそっくりだね。初めまして、サラの父親のネイサン・ロベールだ。いつも家族が世話になっているね」
ネイサンはとてもサラに似ていて、サラは父親似だとルイーズは思った。
「初めまして、ルイーズ・デュボアです。私の方こそ、ご家族にはいつもお世話になっています」
ルイーズと握手をすると、ネイサンは次にティメオを見た。
「で、君がサラの幼馴染かい?」
「はい。ティメオ・ルーホンです。初めまして」
「初めまして」
ネイサンが二人とあいさつし終えたころ、フワッと風が吹き、レオが姿を現した。
レオにはアイメルへ来る前に、ノランがアイメルの祈りの場へ来るように連絡を入れてはいたものの、髪はボサボサで葉っぱをつけ、とても疲れ切った顔をしての登場だったので、その場にいた全員が目を丸くした。
「おじさんどうしたの、その髪」
「今の今まで表の世界の動物と追っかけっこしてたんだよ」
ルイーズは髪についている葉っぱを取ると、レオに渡した。
「表の世界の?」
レオは受け取った葉っぱをポケットに突っ込んだ。
「保護してあげないといけない動物がいて、それで追っかけっこだよ。まぁある程度保護したし、あと一匹も残りの奴で捕まえるだろう。ネイサン、久しぶり」
ネイサンを見つけると、レオの疲れた顔に笑顔が浮かんだ。
「レオじゃないか、久しぶり。疲れてそうだな」
「あぁぐったりだよ。それで例の光る貝ってやつは?」
レオが聞くと、ノランが一通り、アイシーの命美使いとネイサン、そしてレオに説明をしてくれた。
ネイサンは話を聞き、すぐにどこの事かわかった。
「貝の家ならまだ今もあるよ。いまだに一回も中は見たことないけど、飼っている奴は悪い奴じゃない。どちらかというとおなしい奴なんだ。ちょっと気弱な感じの」
「そうか。とりあえず確認してもらうかの」
ノランがティメオの持ってきた海の町が載っている本を見せると、レオはとても驚いた。
「この本よくあったな。
レオがパラパラめくると、ネイサンもそれを覗いた。
「本当だ。海の中の町の写真が写っている。いつの間に撮られたんだろう?」
「流石ルーホン家だな。とりあえずその写真を見てみるか」
「そうだね。貝の家なら俺がわかるよ。ノランさん、三人で確認してきますね」
ネイサンはノランにそう言うと、レオが写真を拡大して、アイシーの
すると、戻ってきてレオもすぐに、これは確認した方がいいだろうとノランと同じ意見だったため、アイシーの
二時間ほどたったころ、突然大きな爆発音と共に、大量の水がアイメルへと降ってくる音がした。外からは人々の悲鳴が聞こえ、四人は慌てて外へと飛び出した。
すると、アイメルの町や外にいた者達はずぶ濡れになっていて、ティメオは匂いですぐに水が海水だと気づいた。
「これ海水だ」
アイメルの
砂浜に近づくにつれ、海の中に住む種族たちが、身一つでアイシー方面から歩いて来るのが見えた。皆ショックを受けている様で、泣いている子供達や、ペットを水のボールで包んで連れている者、妊婦や高齢者もいて、アイメルの町はその光景に騒然となった。
ノランはその先頭を歩いている、七十代くらいの、赤いうろこのロングスカートを履いた、人魚族の女性を見つけて大声で名前を呼んだ。
「ロマーヌ!」
「ノラン? あぁノランじゃない!」
ノラン達四人が駆け寄ると、ロマーヌは一緒に歩いてきた者達に声をかけた。
「みんな、このままアイメルの祈りの場へ! ノア、もう大丈夫よ」
ロマーヌは自分に抱き着いて泣いている、十歳くらいの緑色のうろこのズボンを履いた人魚族の男の子を抱きしめた。
「あぁノラン、会えてよかったわ」
ロマーヌはエンゾの妻で、ノアはモナリコの息子だった。ノアは見知ったノランやレオを見ると、さらに泣き出してしまった。
ノランは優しくノアを撫でながらロマーヌに聞いた。
「何があったんじゃ?」
「分からないの。突然祈りの場からサイレンが鳴り始めて、ネイサンが町の者みんなに、急いでアイメルへ逃げるように、って泳いできたの。だから無我夢中で町の者達を引き連れてアイメルへ来たんだけど、後ろから突然爆発が起こって、何人かが確認しに行ったらアイシーが爆発したみたいだって……あぁ、ネイサンは無事かしら……」
ロマーヌは顔を真っ青にしてアイシーの方を見た。
「ネイサンは一緒じゃなかったのか?」
「ネイサンは他の人魚族の男性と、町の者達全員の避難を見届けてからくるって言ってたのよ」
「わかった。ロマーヌはノアと一緒に町の者達と祈りの場へ」
「気を付けてノラン」
ノラン達四人がアイメルの海岸へとたどり着くと、海岸にはすでに、沢山の種族の者が何事かと集まっていて、レオは魔法で集まった者達を砂浜の外へと出し、砂浜から離れるように指示した。
「まさか光る巻貝が? 海の中では爆発しないって……」
ルイーズが心配そうに聞くと、レオはノランを見た。
「俺もそう聞いてる。親父は?」
「わしも一緒じゃ。だがあの爆発音を聞いた限り、今となってはどこまでそれが正解かわからんの」
「そうだな」
しばらくして、海の中からネイサンが、他の人魚族の男性に支えられながら泳いでくるのが見えた。
レオやティメオは急いで駆け寄ると、ネイサンを支えた。
「ネイサン!」
ネイサンはボロボロで、色んな場所を怪我しているのか、あちらこちらから出血していた。
「レオ、町の皆は?」
「あぁ無事だ。さっきロマーヌおばさんに会って、祈りの場へ行くように言ってある。すぐに医者へ行こう」
「すまない」
「親父、ここは俺がいるから、ネイサンを医者へ」
ノランは頷くと、すぐにレオと変わり、ネイサンをアイメルの病院へと瞬間移動で連れて行った。
「あなたはどこも怪我していませんか?」
レオが聞くと、人魚族の男性は頷いた。
「俺は無事です。ありがとうございます」
人魚族の男はレオに頭を下げた。
「何があったか教えてもらえますか?」
「はい。突然サイレンが鳴り、大きくなりすぎた光る巻貝が町にあって、それが今にも爆発しそうだから急いで逃げるようにって、ネイサンが飛び込んできたんです。俺はネイサンと共に、町の者の避難をさせていたんですけど、なんとか町の者を避難させてから貝の家へ行ってみたら、海の上級
人魚族の男性は凄く悔しそうに話した。
「光る巻貝は、海の中でも爆発するんですか?」
「私もそこまでは分かりません。ただ、海の上級
「そうですか。アイシーの町の方々はアイメルの祈りの場にいます。あなたもそちらへ避難してください。ルイーズ、ティメオ、君たちも一緒に祈りの場へ」
「わかった。さぁ、行きましょう」
ルイーズがティメオと人魚族の男性と共に祈りの場へ歩き始めた時、ルイーズは目の端に、謎の男がこちらを見て立っているのに気がついた。
ルイーズがティメオに言おうとすると、謎の男はそれに気づいたのか、すぐにどこかへ歩いて行ってしまい、ルイーズはティメオに教える間もなく、咄嗟に謎の男の後を追った。
必死に謎の男の後ろ姿を追い、だいぶ走った、誰もいないアイメルの町の端で、黒色の波模様が入ったローブを羽織った謎の男が、やっとルイーズの方へ振り返った。
あんなに走って追いかけたのに、謎の男は息一つ切れておらず、ルイーズはぜぇぜぇと肩で息をした。
「苦しそうだねルイーズ。何か用?」
「何か用……じゃないわ。はぁ……あなたあそこで何してたの?」
「別に何もしてないよ。預けてたものを受け取りに来ただけ」
「預けてたもの?」
「これ」
謎の男はポケットから五個の光る巻貝を取り出すと、ルイーズに見せた。
「この光る巻貝たちを、あの貝の家の男に預けてたんだけどさ、あいつ夢中になって大きくしすぎるから、危うく全部爆発に巻き込まれそうだったんだよ。だから慌てて取りにきたんだ。ギリギリ何とかこれだけでも取り寄せられてよかったよ」
謎の男はそう言うと、大切そうに光る巻貝を撫でた。
「それは! やっぱりあなたが絡んでたのね」
「酷い言い方だな~それ。別に僕が爆発させたわけじゃないのに。この光る巻貝はね、海の中では爆発しないって言われているけど、大きくしすぎると、海の中でも爆発しちゃうんだ。だから僕は何度も、あの人魚族の男に育てすぎるなって言ったのに、夢中で大きくしすぎるからあんな事になっちゃったんだよ。だからアイシーを爆発させたのはあの男であって、僕は守ろうとした側だよ」
謎の男は少しも悪気を感じていないようで、楽しそうに光る巻貝をポケットへしまった。
「もともと取引禁止の貝を、貝の家の男性に預けたのはあなたでしょ?」
「渡すときに、取引禁止の貝だけどってあいつにちゃんと言ったよ。それでも受け取ったのはあの男。あの男は自分の意志であれを受け取ったんだよ。わかる? それにルイーズのお陰で犠牲者もでなかったんだし、もうこの話は終わり。それよりもさ――」
突然姿を消したかと思った次の瞬間、謎の男はルイーズの真ん前へと瞬間移動してきて、ルイーズの腕を掴んだ。
「……⁉」
保護の力の結界を張る間もなかったルイーズは、慌てて掴まれた腕を離そうとした。けれど謎の男の力は強く、何とか結界を使って離れようとしたものの、なぜか結界を出すことが出来なかった。
「無駄だよ。僕が今、ルイーズの力を抑えてるからね。ねぇ、結構保護の力も使えるようになったみたいだし、僕と一緒においで。僕の力になってほしいんだ。ね?」
「嫌だと言ったら?」
ルイーズは謎の男を睨むと、思いっきり謎の男を蹴り飛ばして離れ、すぐに光る巻貝に保護の力の結界を張って、ポケットから光る巻貝を取り出して空高く投げて叫んだ。
「ティメオ今よ!」
すると次の瞬間、どこからか閃光が飛んできて、見事に光る巻貝へと命中し、光る巻貝は粉々に砕け散っていった。
「あぁ……僕の巻貝が!」
謎の男が閃光が飛んできた方を睨むと、ティメオが杖を構えながらルイーズの側へと走ってきて、ルイーズを自分の背にかばった。
「またお前か!」
「それはこっちのセリフだ! 大人しく投降しろ」
「なぜ悪いこともしてないのに投降しないといけないのさ」
さっきまでの笑顔は消え、謎の男は怒りに任せて、ティメオへ攻撃を仕掛けた。
ティメオは謎の男の攻撃をはじきながら、ルイーズに叫んだ。
「ルイーズ、保護の力の結界を張って、俺の後ろから離れるな!」
「わかった」
激しい戦闘がしばらく続き、ルイーズも時々、謎の男からの攻撃を結界で弾いていると、レオが瞬間移動して駆けつけてくれた。
「大丈夫か」
レオは謎の男に攻撃をしながらルイーズとティメオに聞いた。
「叔父さん! 私達は大丈夫よ」
「レオさん、あいつが光る巻貝を持っていて、さっき何個かルイーズと破壊しました」
もう残っていないと思っていたレオは驚いて謎の男を見た。
「またお前のしわさか。お前はいったい何がしたい? 何のために裏の世界の者達を利用する?」
「利用ではなく、協力、だよ。僕の成し遂げようとしている事と、彼らの希望がうまいこと一致したから協力しあった。ただそれだけ」
謎の男はそこまで言うと、自分の周りに炎の壁を作った。
「今日は頑張っている君たちへ特別に、ご褒美として、僕の名前を教えてあげる。僕の名前はヒューゴ。もと、いや今も上級
ヒューゴはそう言って瞬間移動しようとした瞬間、何か思い出したのか、さっきとは反対側のポケットを探ると、光る巻貝を数個取り出した。
「一つ言い忘れてた。光る巻貝のことだけどね、あれ、全部で十個あるんだ。君たちが壊したのは五個だから、まだ五個残ってるってこと。まぁでも心配しないで、裏の世界には使わないからさ。さてと、僕は表の世界にでも遊びに行こうっと」
楽しそうに高笑いしながらヒューゴはどこかへと消えていき、その場にはヒューゴの笑い声だけが反響して残った。
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