第5章
5-1・エマファミリー
あれからルイーズは、時々ティメオと共にボラックのフフのところへ遊びに行きつつ、裏の世界で生活していく為、母の名前で出す家族の店の開店準備に追われていた。
たまにティメオやエンゾ達一家も手伝いに来てくれ、やっと店を開店させることが出来たのは、謎の男との事件から月日が過ぎた、翌年の花の咲き乱れる春の事だった。
この春の季節のエギスマールは特に綺麗で、エギスマールの花壇には、裏の世界特有の色とりどりの色や形をした花が咲き乱れ、甘い花の香りに包まれている。色んなところから春のエギスマールへ観光客が遊びに来ていて、いつも静かなエギスマールが、今の季節はとても賑わっていた。
ルイーズは朝、エギスマールの祈りの場で表と裏両方の平和を祈ると、人々の間をすり抜けて、駆け足でお店へと準備をしに戻った。
店の名前は【エマファミリー】と名付けた。
店は、裁縫の力を持つ母のエマがオーダーメイドの服やぬいぐるみ、農業の力を持つ祖母のマノンが育てた野菜や花を売るお店で、ルイーズはお店の受付を担当している。
ルイーズは商店街まで戻って来ると、ドアのベルをカランコロンと鳴らしながら店へと入った。
エマファミリーは、エギスマール商店街の端っこの方にあるお店で、全体的にナチュラルな外装と内装をしているお店だった。
「ただいま」
「おかえり」
マノンが入口の横にある商品棚へ、今日獲れたばかりの野菜を籠から移しているところだった。
「置いたままでいいって言ってるのに。ありがとうおばあちゃん」
「これくらい平気よ。私もまだまだ若い方なんだから。天女の最高齢は確か……二百だったかしらね、まだ半分もいってないわ」
「二百⁉ じゃあ私なんかもっとまだまだね」
「そうよ。私達は天女のなかじゃあまだ若い方よ」
「フフフっ、そうね」
二人で可笑しくなり思わず笑いだしながら、ルイーズはすぐにマノンの手伝いを始めた。
「これでどう?」
野菜や花を棚へ移し終わったルイーズは、マノンに聞いた。
「そうね。こんな感じでいいと思うわ」
「おばあちゃんの野菜や花は人気なの。薬屋のゾエさんなんか毎日買いにくるんだから」
「あら、そうなの?」
ルイーズは嬉しそうに頷いた。
「そうなの。で、私とお話してから帰るのが日課なのよ」
「ふふっ。それは楽しそうね。今度そのおしゃべり会へ混ぜてもらわなくちゃね」
二人がワイワイ話をしていると、二階から父のトムが降りてきた。
トムはまだ、なかなか裏の世界の人々に受け入れられるのに時間がかかっていた。けれど、今の自分に出来る事をしようと、マノンに畑の事を教わっていて、毎朝取れたての野菜や花を店に届けに来ていた。
「お義母さん、そろそろ」
「そうね。じゃあお店よろしくね、ルイーズ」
マノンはそう言うと、トムと一緒に自宅へと戻って行った。
ルイーズは急いで掃除を済ませると、野菜などに被せている布を取った。飾っているお花などは、すでにマノンがお世話をしているので、ルイーズは開店時間になると、お店の札をオープンへとひっくり返した。
商店街のお店は、夜中に開くお店以外、九時から五時まで店を開けるのが決まり。休みの日はそれぞれ自由に決められるため、週に一日しか開かない店もある。
皆同じ時間に開くため、札をひっくり返すのも皆同じ時間。なので、商店街では朝九時になったら自然と、朝の元気な挨拶の声が響くようになった。
「おはようございます!」
ルイーズも元気よく挨拶をすると、だんだん仲良くなってきた他の店の子と手を振り合い、受付へと戻った。
裏の世界へ来てから、人々との触れ合いがとても多くなったと、ルイーズは実感していた。みんな温かくて、こんなにも毎日楽しい日々は初めてだった。
オープンして十分も立たないうちに、薬屋のゾエが店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「やぁルイーズ。おはよう」
「おはようございます」
ゾエは毎日、薬に使う花や野菜を少し買っていく。ゾエ曰く、マノンの花や野菜はとてもすごく良く効くらしく、今日も少し購入すると、いつものようにルイーズとおしゃべりをしてから、手を振って楽しそうに店を出ていった。
花の美しい季節の為、午前中は花を買いに来るお客さんが多かった。バタバタしているとあっという間にお昼になり、先に昼休憩を済ませたエマが交代しにやってきた。
「交代するわ。サンドイッチが置いてあるから」
「わかった」
ルイーズは二階の休憩室に上がると、商店街の風景を眺めながら、マノンお手製のサンドイッチを食べた。
休憩時間が終わり受付に戻ると、だいぶお客さんの流れが落ち着いてきていたので、椅子に座って、コッソリ保護の力の練習をしながらお客を待った。
ルイーズは何度も心で念じながら、受付に置いてあるぬいぐるみに結界が張れないか試した。
「ん~もうちょっと上手く張れるようになりたいなぁ」
夕方。閉店ギリギリになってから、今日は珍しく、吸血鬼の一家がオーダーメイドの予約に来た。
ルイーズはひとまず、札をひっくり返して店を閉めると、エマと共に吸血鬼の一家から、注文の内容を聞いて打ち合わせをした。
吸血鬼の一家は二十枚近くのオリジナルマークの入ったマントを注文。出来次第、連絡を入れるということになり、吸血鬼の一家は手を振って夜のエギスマールへと消えていき、吸血鬼の一家を見送ったエマとルイーズは、やっと今日の業務を終えた。
「今日はちょっと忙しかったね。大丈夫お母さん?」
ルイーズはエマの肩を揉んだ。
「ありがとう。でも今日から忙しくなるわね。頑張らなくっちゃ。あら、トムじゃない」
エマが店の方へ歩いてくるトムに声をかけた。
「お疲れ様。今終わったとこ?」
「そうなの。沢山の注文が入ったから、頑張らなくっちゃ。ねぇ、ルイーズ」
エマはルイーズの肩を抱いた。
「うん」
三人は店の中へ入ると、急いで閉店準備を始め、片づけが終わると、店を出て鍵を閉めた。
「さぁ、帰ろうか。お義父さんもさっき帰ってきたよ」
トムがエマと手を繋いだ。
「そう、今日は仕事だったのかしら」
今度はエマがルイーズと手を繋ぐと、人通りの少ない商店街を三人で並んで歩き始めた。
「おじいちゃん、今日はエンゾさんや知り合いと遊びに行くって言ってたよ」
「そうなの⁉」
何も聞かされていなかったエマは驚いた。
「うん。確か、隣の裏地区にとても美味しいレストランがあって、そこに行くって。ワインも有名だから、お土産買ってくるってさ。そう言えば、おじいちゃん達も箒に乗って行くの?」
エマは首を横に振った。
「いいえ。瞬間移動していくのよ。お父さんは現上級
ノランは現役は退いたものの、今でも時々助っ人に駆けつける元上級
「そうなんだ。なんか、
「ほんと、いつ見ても尊敬するわ」
エマがため息をついたちょうどその時、突然どこからかルイーズを呼ぶ声が聞こえた。
ルイーズが声のする方を見ると、ティメオがこちらへと走ってきた。
「ルイーズ! よかった間に合って。おじさん、おばさん、こんばんは」
「あらティメオ。こんばんは」
「やぁ、こんばんは」
二人は笑顔でティメオに挨拶を返した。
「今少しいいかな」
「うん」
「実は今度、一日休みをもらえることになったんだ。それでさ、ボラックにはついこの前行ったし、今度その日に、久しぶりに遠出してアイメルへ遊びに行かないか?」
久しぶりの遠出の誘いに、ルイーズは喜んだ。
「わぁ~行きたい! 行ってきてもいいかな」
ルイーズは両親へ聞くと、二人ともすぐに頷いてくれた。
「行っておいで。受付は父さんが頑張るよ」
トムは力こぶを作って見せ、エマはそんなトムを見て笑いながらトムの力こぶを叩いた。
「フフフっ。大丈夫よ、お父さんはお母さんがサポートするわ」
「おや、信頼してないのかい」
「そうじゃないわ。あなた少し機械音痴なところがあるから言ってるのよ」
「そんなことないぞ」
「あら、最後までスマホを使いこなせなかったのはどこの誰でしたっけ? 楽しんでらっしゃい、ルイーズ」
ルイーズは両親にお礼を言うと、ティメオを見た。
「いいそうよ。それでいつ?」
ルイーズはティメオと話をして、日にちと待ち合わせ場所を決めた。
「じゃあそういうことで。俺はこれで、お休みなさい」
「おやすみ」
ルイーズ達が手を振ると、ティメオは一礼してから、走って去って行き、ルイーズはティメオの姿が見えなくなるまで見送り続けた。
ルイーズ達三人は、せっかく裏の世界へ引っ越してきたからには、いつか店を休みにして今度どこかへ遊びに行こうと、色んな候補地の話をしながら家路についた。沢山のワインを買って嬉しそうに待っているノランの元へ。
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