4-3・次の日

 次の日。二人は箒を取りに行ったあと、モナリコの様子を見に、木のカフェへと来ていた。

 モナリコはすっかり元気になっていて、いつものようにカフェのカウンターに、今日はエンゾと二人で立っていた。

「昨日は色々とありがとうございました」

 ルイーズはモナリコに昨日のお礼を言った。

「いいのよ、ルイーズ。気にしないで、あなたが悪いわけじゃないんだから。ティメオも助けてくれてありがとう」

 モナリコがティメオにお礼を伝えると、エンゾもティメオにお礼を言った。

「わしからも礼を言う。娘やルイーズを守ってくれてありがとう」

「そうだ、今日はルイーズの引っ越し祝いと、昨日ティメオが助けてくれたお礼として、私が二人におごるわ。沢山食べて頂戴」

 モナリコは胸をトンっと叩いた。

「わぁ、ありがとう。でも本当にいいの?」

 申し訳なさそうにするルイーズに、エンゾが胸を張って言った。

「もちろんじゃ。今日はわし特製の紅茶も用意しておるからな」

「はい。そうだなぁ、どうしようかなぁ、モナリコの紅茶もエンゾさんの紅茶もどっちも飲みたい。あとケーキも!」

 嬉しそうに迷っているルイーズを見て、ティメオは笑った。

「はははっ、じゃあ両方頼もう。だけど今はお昼だよ」

「そうよね。じゃあ何かお昼と、デザートにケーキを食べよう」

 二人でメニューを見て色々迷ったものの、タルティーヌというオープンサンドと、そば粉を使ったガレット、そしてケーキと紅茶のケーキセットを注文することにした。

「モナリコの紅茶のケーキセット二つに、タルティーヌとガレットを一つずつ。あと紅茶のおかわりはエンゾさんの紅茶で」

 元気よくルイーズが注文すると、待ってましたと言わんばかりに、エンゾが愉快そうに大きな声で笑った。

「ほっほっほっ。これは腕によりをかけねばならんの。今日のケーキのおススメはサツマイモチーズケーキじゃが、どうする?」

 サツマイモチーズケーキと聞き、ルイーズは凄く喜んだ。

「わぁ、サツマイモチーズケーキ大好き。私はサツマイモチーズケーキにする。ティメオは?」

「俺も同じで」


 しばらくして出てきた料理は、どれもとてもおいしそうだった。

 タルティーヌには生ハムとチーズと季節の野菜がのっていて、ガレットには卵にハムと季節の野菜が入っていた。

 ルイーズはガレットを一口食べた。生地は薄くてパリッと香ばしく、中の卵とハムと季節の野菜の優しい味が、口の中で香ばしいガレットと混ざりあって、ちょうどいい美味しさになる。

「もっと早くランチにもこればよかった。とっても美味しい」

 初めて木のカフェでランチをしたルイーズは、今までランチをしなかった事をとても後悔した。

 ルイーズの感想を聞いた後、ティメオはタルティーヌを一口食べた。

 タルティーヌは、使っているパパンパン自体がとても美味しく、その上に乗っている生ハムやチーズや季節の野菜の美味しさを、より一層引き立てている。

「これも美味しい。俺もここで初めて食事したけど、確かにもっと早くランチとかもすればよかったよ」

 美味しそうに食べる二人を見て、モナリコとエンゾはニッコリと笑った。

 その後も二人は美味しい紅茶とケーキを食べながら、今日取ってきた箒の話や、ルイーズが初めて来た日の事など、モナリコやエンゾとおしゃべりして過ごした。


 木のカフェを出ると、二人は早速取ってきた箒に乗ってボラックへと飛んだ。

 箒はとても乗り心地がよかった。長時間箒に乗っていてもお尻は痛くならないし、ベルトをつけているので、とても安心感があった。

 ボラックに到着すると、果物を購入してから湖まで歩いた。

「フフに何て言おう」

 ルイーズは、ストレートにフフにボラックの魔女の事を話していいものかと悩んでいた。

「そうだなぁ……やっぱり、誤魔化すよりちゃんと話してあげた方がいいんじゃないか。最初はショックが大きいかもしれないけど、その分、俺たちが代わりに果物を届けてあげたらいいんだし」

「……そうだよね」

 二人は湖まで来ると果物を岸辺に置き、湖の底に向かってフフの名前を呼んだ。

「フフ! 私、ルイーズよ!」

「フフ! ティメオだ! 遊びに来たぞ!」

 湖の底まで届いたのか、少し心配しながら待っていると、段々何かが近づいてくるのが見えた。

「何か来る」

 ルイーズは目を凝らして見てみると、ちゃんと見えなかった黒い点はどんどん大きくなり、しだいにフフの姿がハッキリと見えるようになった。

「フフだわ。フフ!」

 ルイーズはティメオにフフのいるあたりを教えると、二人で手を振った。

『ルイーズ、ティメオ!』

 フフも嬉しそうに手を振り返しながら、二人のいる場所へとたどり着いた。

『来てくれて嬉しいわ。また会えるって、私信じて待ってたの!』

 フフは嬉しそうに水の中でクルクルと回った。

「フフ嬉しそうに水の中でクルクル回ってるわ。私もティメオも会いたかったのよ」

「あぁ、いつかまたフフに会いに来ようって話してたんだ」

「うん、そうなの。でも、今日はちょっと悲しいお話があってきたの」

 ルイーズが優しく話すと、嬉しそうにしていたフフは動くのをやめた。

『悲しいお話?』

「えぇ。話していいかしら?」

『いいわ。聞かせて』

 ルイーズとティメオは、二人でボラックの魔女の事を細かく話した。

 話を聞いたフフは、しばらくショックを受けていた。顔を伏せ、心優しき魔女が可哀そうだと泣いていたので、ルイーズが水の中に手を入れ、フフをさすってしばらく慰めていた。


 しばらくして、ルイーズはそっとフフに声をかけた。

「大丈夫?」

 ルイーズが聞くと、フフは涙を拭い、二人を見上げた。

『もう大丈夫。ありがとう、教えてくれて。私、魔女のおば様が戻って来るのを待つわ。きっと元気に戻って来るって信じてる』

 ニッコリと笑って見せたフフの言葉を、ルイーズがティメオに伝えた。

「あぁ、俺たちも信じてる。なぁ、ルイーズ」

「うん。私達、これからも時々会いに来るわ。果物を持って、ね。今日も持ってきたのよ、はい」

 ルイーズは果物を見せた。

『わぁ、ありがとう。実は妹も、ルイーズ達にお礼が言いたいって会いたがっているの。今度連れてきていい?』

「もちろんよ」

『よかった。きっとそれ聞いたら、妹凄く喜ぶわ』

「今度、フフが妹さんを連れてくるって。私達に会いたがってるみたい」

 ルイーズがティメオに伝えると、ティメオも喜んだ。

「あぁ、楽しみ待ってるよ」

『うん。そうだ、ねぇルイーズ。私、ティメオと握手出来るかな? 見えなくても、何とかここにいるって伝えたいの』

 フフはそう言うと、水をピチャピチャして、ティメオに自分がここにいると教えた。

 ルイーズは少し考えてから、ティメオにフフの相談を伝えた。

「握手か、出来るのなら、俺もフフとしたいな」

「じゃあやってみよう」

 ティメオは落ちないように気をつけながら、手を水の中にいれ、フフがそっとティメオに自分の手を重ねてみた。

 すると、見えはしないものの、何か小さい小人のような手が、自分の手に重なっているのがティメオにもわかった。

 ティメオはニッコリと笑った。

「あぁ、わかる、分かるよフフ」

『ほんと! やった』

 フフはティメオと握手をすると、そっとティメオの手にスリスリと頬を寄せた。

 ティメオは今フフがどういう状況かルイーズに教えてもらいながら、やっとフフと正面から会えたようでとっても嬉しかった。

 それからもしばらくの時間、ルイーズ達の楽しそうな笑い声が溢れ、笑い声を聞いて楽しそうな秋風が、ルイーズ達を優しく撫でていった。

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