3-3・休みの最終日

 一週間の休みも、とうとう最後の日になった。

 ルイーズの今日の予定は、ティメオと夕方まで裏の世界で一緒に遊び、それから表の世界へ帰る予定。

 朝食を取った後、ルイーズは荷物をまとめると、ティメオとの待ち合わせ場所である、エギスマールの噴水広場へと急いだ。

「ティメオ」

 ルイーズは噴水の側で待っているティメオに手を振った。

「ルイーズ、おはよう。荷物はもういいのか?」

「うん、朝まとめ終わったよ。で、今日はどうするの?」

「今日はさ、この二人用箒のカスタマイズをしようと思っているんだ。これからもルイーズとは、一緒に色々な場所へ遊びに行きたいからさ、ちゃんと二人が乗りやすいようにしたくて」

 ティメオは手に持っていた、ルイーズとティメオの二人用箒を摩った。

「うん、それいいね。カスタマイズすれば、これからも色んなところへドンドン遊びに行けるものね。でもカスタマイズってどうやってするの?」

「箒屋でするんだよ。箒はさ、箒職人さんじゃないと作れないんだ。さっ、行こう」

 二人はエギスマールで唯一の箒屋へと向かい、店内へと足を踏み入れた。

「わぁ、凄い!」

 ルイーズは目を輝かせながら上を見上げた。

 箒屋の店内は三階まで吹き抜けになっていて、壁は綺麗な青空と雲の絵が描かれていた。高いところまで、色々な種類の箒や箒のアクセサリーの見本などが浮かんでいて、下から見れば、色々な箒が気持ちよさそうに空を飛んでいるように見えた。

「箒ってこんなに種類があるのね」

 ティメオがカウンターに置いてある冊子の一冊を取った。

「この中から、今日はサドルをカスタマイズしようと思っているんだ。これがサドルの冊子だよ」

 ティメオが冊子を開くと、二人は一緒にサドルの冊子を見始めた。

「沢山サドルの種類がある。色も選べるのね」

「まぁね。背もたれが付いたサドルだろ。競技用に、お子様用とか色々ある。特注で箒に付けるオリジナルのアクセサリーも作れたりするよ」

「へぇー、オリジナルも作れるんだ。どうしようか? 沢山あって迷っちゃうね」

 ティメオとルイーズはしばらくの間、二人で冊子とにらめっこしていたが、何個か候補を上げた。

 一つ目は、背もたれの高さを自分好みに変えられる、背もたれ付きのサドル。

 二つ目は、長時間乗っていてもお尻が痛くならないように工夫されたサドル。

 三つ目は、二人乗り専用のサドルで、二人を専用のベルトでしっかりと結び、そのベルトをサドルに付けるもの。

「どれもいいね」

「そうだな」

 二人がまだ迷っていると、店の人が笑顔で声をかけてきた。

「この三つで迷ってるの?」

 ティメオは店の人に相談してみた。

「はい、そうなんです。彼女がまだ箒に乗るのが怖いので、このベルトも捨てがたいんですけど、二人で遠乗りしたときの為に、このお尻が痛くならないものも気になるんです」

「背もたれも悪くないんですけど、どちらかというと、この二つで迷ってる感じなんです」

 ルイーズも説明すると、店の人は二人にちょっと待っているようにと言い、店の奥へと引っ込んだ。


 しばらくして、店の奥から先ほどの店員とともに、箒職人が出てきた。

「いらっしゃい、話は聞いたよ。そしたらさ、俺からの提案。このお尻の痛くならないやつと、ベルトの二つを合体させたサドルにしてみたらどうだい?」

 箒職人の提案に、ティメオは笑顔になった。

「そんな凄いのが出来るんですか?」

「あぁ、出来るとも。この俺の腕を信じな」

 ニッコリと箒職人が力こぶを二人に作って見せた。

 ルイーズとティメオは二人で少し話をし、これから先も乗り続けるものなので、少しくらいお金が高くても、良いものを買おうということになった。

「はい。是非それでお願いします」

 ルイーズがお願いすると、箒職人は待ってましたと言わんばかりの表情になった。

「そうこなくっちゃな。料金は前払いで。あと箒はしばらく預かるけどいいかい?」

「はい、構いません」

 ティメオは言われた額のラーウを出すと、予約表にサインをした。

「確かに。箒は今日から一か月後くらいに取りにおいで」

「はい、お願いします」

 二人が注文を終えて箒屋から出ると、箒屋で随分と悩んでいたせいか、時間はもうお昼頃になっていた。

 そこで、ティメオの提案で二人は、前からティメオの行きたかったカフェへランチをしに行った。

 このカフェは、エギスマールで人気のあるカフェ。ここはパスタが美味しいと評判が良いらしく、若い女性やカップルが沢山食事をしていた。

 パスタランチを二人とも注文。ルイーズはジェノベーゼ、ティメオはボロネーゼにし、パスタのほかにパンとサラダがついてきた。

ジェノベーゼは、爽やかなバジルの香りと濃厚なソースなのにサッパリとしている。ボロネーゼはたっぷりと入ったお肉とチーズが味わい深い濃厚さを引き出しており、二つともため息が出るほどとても美味しかった。

「美味しい! ティメオはこのお店来たことがあるの?」

 ルイーズが聞くと、ティメオは首を横に振った。

「いや、俺も初めて入った。以前から気になっていたんだけど、ここって、なかなか男一人じゃ入りにくいだろ? だからなかなか食べに来られなかったんだ」

 そう言うと、ティメオはサラダを食べた。

「じゃあこれから、色々ティメオが行きたかったお店とか一緒に行こう。私も色々なお店に行きたいし」

「あぁ。俺、まだまだ行きたいところあるからさ、今度どこへ行くか、次までに考えとくよ」

「うん、楽しみにしてる。そういえば、箒のお金半分出すよ」

 ルイーズはそう言うと、財布を出そうと鞄を開いた。しかし、ティメオは首を横に振った。

「大丈夫、気にしなくていいよ」

「そう? ありがとう」

 申し訳なさを感じつつ、ルイーズは鞄を閉めた。

「それとさっきの箒屋さんで思ったんだけど、熟練の技って、裏の世界も表の世界も違いはないんだって思ったよ。どちらも凄いことに変わりはないんだって」

「そうだな。魔法でもそうじゃなくても、各々の技術力が大事な事に変わりない。それは箒でもパンでも」

「うん」

 そうして二人は楽しくランチを食べると、その後もブラブラとエギスマールを散歩した。


 夕方、ティメオがルイーズを木のカフェまで送ってくれた。

 木のカフェでは先に、ノランとマノンがルイーズの荷物を持って見送りに来ていて、表の世界からエマがルイーズの迎えに来ていた。

 ルイーズはエマにティメオを紹介した。

「お母さん、こちらはティメオ・ルーホンさん。私に種族判定用紙を使ってくれた人よ」

「あぁ、あなたが……。その節は娘が本当にお世話になりました。ルイーズの母のエマ・デュボアです」

「初めまして。ティメオ・ルーホンです」

 二人の挨拶が終わると、ルイーズはティメオを見た。

「ティメオ、一か月後の箒が出来上がる日。一緒に取りに行かない?」

「もちろん。ここに朝十時くらいでどう?」

「わかった。じゃあ一か月後」

「あぁ、一か月後な」

 ルイーズはティメオと握手をすると、ノランからトランクを受け取った。

「じゃあそろそろ帰るね」

 ルイーズとエマは階段の下へと移動した。

「おじいちゃんおばあちゃん、またすぐに遊びに来るから。モナリコもティメオも本当にありがとう。じゃあまたね」

「待っとるからのう」

 ルイーズはみんなに手を振ると、荷物を持ってエマと共に、表の世界の自宅へと帰って行った。

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