2-2・ノランとマノンの家

 木のトンネルを抜けてしばらく草原の道を歩いていると、二人はまた森の中に入った。

 今度の森では、道の周りに星の形をした花がちらほら咲いていて、ルイーズはノランに聞いてみた。

「おじいちゃん、この道の周りに咲いている星の形をした花は何?」

「ん? あぁこれか。これはスターフラワーという花じゃ。この花はどの季節にも咲いている花でな。まれに金色の花を咲かせることがある花なんじゃ」

 そう言うと、ノランはスターフラワーを一輪取ってルイーズにくれた。

「わぁ~可愛い。ありがとうおじいちゃん」

「どういたしまして」

 それから少し歩いていると木の橋が架かった川が出てきた。

 橋を渡っている途中、ルイーズは橋から川を覗いた。

 川は太陽に照らされてキラキラ光りながら流れ、風はそよそよと周りの木の香りを運びながらルイーズの髪を揺らした。

 ルイーズは目を閉じ、川の流れる音や、風の音、森の匂いを感じてみると、まるで今までの嫌なことも全て忘れていくような、とても穏やかな気持ちになった。


 橋を渡ってすぐ、森が開けると目の前には色々な花や野菜、ハーブが沢山植えられた広い庭と、大きな古い石造りの邸宅が出てきた。

「わぁ大きなお家。それにお庭も素敵」

 ルイーズが庭を眺めていると、ノランが庭の入口にある少し曲がった木の看板の横で、ニッコリしながら立っていた。

 ルイーズがその看板に書かれている言葉を読んでみると、その看板には、


【ノラン&マノンとルイーズ】


とルイーズの名前も書いてあった。

「これがおじいちゃん達の家なのね。私の名前も書いてくれたんだ」

「わしの自慢の家じゃ。それにお前が泊まりに来ると連絡をくれた時、すぐに名前を書いておいたんじゃ」

「ありがとう、おじいちゃん」

 ルイーズが改めてノランにお礼を言ったちょうどその時、玄関のドアが開きマノンが出てきた。

 マノンはセミロングの黒髪に、指にベルナルド家の家紋である家の絵の中心にハートがあり、その中にベルの絵が書かれているマークが入った指輪をはめていた。服装は花柄のワンピースにレースのついたエプロンを着ている。

「ルイーズ!」

 マノンが大きな声でルイーズの名前を呼ぶと、ルイーズは走ってマノンのところまで行き、マノンに抱きついた。

「おばあちゃん!」

「ルイーズ! あぁ、本当におめでとう。ずっとこの日が来るのをノランと二人で待っていたのよ。疲れたでしょ、さぁ中へ入って」

「うん」

 マノンにぎゅっと抱きしめられた後、ルイーズは玄関に入った。


 玄関へ入ると、絨毯の敷かれた少し広めの玄関ホールが目の前に広がっていた。

 古い邸宅なので少し暗いのを想像したけれど、全然そんなことはなく、玄関ホールは明るくて、絨毯もアイボリー色の花柄模様の絨毯だった。

「広い玄関ホール。絨毯も花柄で可愛い」

「そうでしょ。赤い絨毯は私あんまり好きじゃないのよ。さぁ、あなたのお部屋へ案内するわ」

 玄関ドアから真正面にある、少しギシギシという階段を三階まで上がり、踊り場を左に曲がった一番奥の部屋まで行くと、ドアの前に


【ルイーズの部屋】


と書かれたネームプレートがかかっていた。

「ここよ」

 マノンがドアを開けた。

 すると、壁はアイボリーの色をしていて、家具など部屋全体は可愛らしい花柄の部屋で、ルイーズ専用のトイレとお風呂まで付いていた。

「とてもかわいい部屋。ありがとう、おじいちゃんおばあちゃん。あと荷物もありがとう」

 ルイーズがお礼を言うと、ノランとマノンはそろって

「どういたしまして」

と返事をして、ルイーズに部屋が片付いたら、一階のリビングへおいでと声とかけてから下の階へ降りて行った。

 荷物を中に入れると、部屋のドアを閉めた。

 今日から約一週間ここがルイーズの部屋。ルイーズは一通り部屋を調べると、深呼吸して、

「よし」

と気合を入れると、手に持っていたスターフラワーとバラの花をサイドテーブルに置き、トランクを開けて、クローゼットに持ってきた洋服などを直し、化粧台に化粧品を並べた。

 それからベッドの横にあるサイドテーブルにスマートフォンを置くと、トランクを床に広げたままベッドに横たわり、思いっきり体を伸ばした。

「ん~、このベッドふわふわで気持ちいい」

 そのまま枕に顔をうずめてしばらくすると、ルイーズはパッと起き上がり、窓の側までやって来た。

「家の周りが木に囲まれているから、人の目なんて気にせず暮らせるのね。素敵」

 ルイーズは思いっきり自然の美味しい空気を吸い込むと、部屋に付いている自分専用の、トイレとお風呂場だけ軽く見た後、下で待つ、ノランとマノンのもとへ急いだ。


 一階まで降りると、二人の待つリビングの部屋へ入った。

 リビングは、窓には白いレースのカーテンが風に靡かれ、ソファーは花柄の二人掛けのソファーが三つあり、そのソファーは暖炉の前にあるソファーテーブルを囲っていた。大きな窓からは広いテラスが見えている。

「お待たせ」

 ルイーズが二人の方に近づくと、ソファーテーブルにはランチのサンドイッチが三人分並んでいた。

「美味しそう」

「そうでしょ。ところで片づけは終わった?」

 ルイーズはマノンの隣の席に座った。

「まぁ大体ね。そのうち散らかってくると思うわ」

「好きに使っていいわよ。さぁ食べましょう、あなたお願い」

 ノランとマノンは、家紋の入った指輪をつけた手を上にして胸に手を重ねておいた。

「ルイーズは指輪を付けていないから、どちらの手が上でも構わんよ。胸の上に手を重ねてごらん」

 ルイーズはノランに言われるがまま、胸の上で手を重ねた。

「これでいいの?」

「あぁそれでいい。目をつぶったらわしが、光宙之命美神こうちゅうのめいみしん様に感謝をと言うので、その後皆で、今日もありがとうございます、と言うんじゃよ」

「わかった。これが裏の世界流の食事前の挨拶なのね」

 ノランとマノンはニッコリ微笑んだ。

「そうじゃ。では目をつぶって、光宙之命美神こうちゅうのめいみしん様に感謝を……今日もありがとうございます」

 言われた通り、ルイーズも二人に合わせて言うと、マノンが手をパチンと鳴らした。

「さぁ、いただきましょう」

 マノンの言葉をきっかけに、三人はランチを食べ始めた。

 今日のランチはサンドイッチ。バケットにレタスとサーモン、クリームチーズなどが入っているサンドイッチで、ルイーズが大好きなサンドイッチだと知っていてマノンが用意してくれた。

 ルイーズはランチを食べながら、家の大まかな配置をノランとマノンから聞いた。

 一階はキッチン&ダイニングとリビングに、広いテラスと応接室。二階はノランとマノンの部屋と二人の展示室に書庫で、この書庫は二階の書庫と三階の書庫が吹き抜けで繋がっている。そして残りの三階はルイーズの部屋とお客用の部屋が何部屋かあり、屋根裏部屋は物置になっている。

「とっても広いのね。今日この後、家の探検にでもいこうかしら」

 ノランは声を出して笑った。

「ははは、行っといで。わしの自慢の家じゃからな。ゆっくり見ておいで」

「うん」


 ランチを食べ終わった後、ルイーズはランチの時に言った通り、ランチに使った食器をマノンと片づけた後に家の探検に出かけた。

「とりあえず一階からよね」

 リビングは見たので、今いるキッチン&ダイニングルームを見ることにした。

 キッチンはキャビネットなどがピンク色で、ワークトップが白の大理石の大きなキッチンに、キッチンと同じ組み合わせのカウンター。 

 カウンターの上には籠が置いてあり、その中にはあふれんばかりの赤いリンゴが入っていた。

 ダイニングルームの方に移動すると、真ん中には白いテーブルクロスがかけられている大きな八人掛けのダイニングテーブルが置いてあり、小柄なシャンデリアがダイニングテーブルの上から下がっていた。部屋の隅の方には、ガラスケースに綺麗なティーカップが並べられていて、ルイーズはガラスケースへ近寄った。

「綺麗なティーカップ。あっ、これは表の世界の有名なティーカップだわ。おばあちゃんの趣味ね、きっと」

 それからルイーズは、キッチンにあるドアから外の広いテラスへと移動すると、テラスには白いガーデニング用テーブルセットが置いてあった。そのテラスからは美しい森が見え、温かい陽の光が射しこんでいて、のんびりするにはピッタリの場所だった。

 応接室はいたって普通の応接室だったので、次に二階へ移動した。

「二階は確かおじいちゃんとおばあちゃんの部屋と書庫に、確か展示室だったわね。でも展示室ってどんな部屋だろう?」

 展示室を覗いてみると、そこには沢山の観光地のお土産と思われる品々が飾ってあり、壁には思い出の写真が数多くかけられていた。

 ノランとマノンの部屋を覗いてみると、壁に所々ドライフラワーや写真がかかっていて、ベッドは二人がゆっくりと寝られるくらい大きなベッドが置いてあった。暖炉の側にはふかふかのロッキングチェアがあって、その上に編み掛けの編み物と毛糸が入った籠が置いてあった。

 次に書庫を覗いた。とっても広い書庫は、二階の書庫と三階の書庫が吹き抜けで繋がっていて、上から下まで所狭しと本が並んでいて、まるで小さな図書館のようだった。二階の方には本のほかに、ノラン専用の机と、誰でも使える丸テーブルがあった。

「すごい本の量ね。私にも読める本があるのかしら」

 数冊本を取ってパラパラと覗いた後、三階は自分の部屋と客間だけなので、最後に庭へとやって来た。

 お庭は色々なお花や野菜、ハーブなどが植えられている素敵なお庭だった。ルイーズにはどこに何が植えてあるのか分からないが、それがかえって美しさを際立てており、きっとマノンはすべて把握しているに違いないとルイーズは思った。

 

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