1ー3・真実
家に帰ると、真っ直ぐに両親のいるリビングダイニングへ行った。
母のエマは夕食の準備、父のトムはテレビを見ながらワインを飲んでいて、ルイーズが部屋のドアを閉めると、父がルイーズの方を見た。
「お帰りルイーズ」
「ただいま。あのさ……ちょっと聞きたいことがあるんだけど、お母さんもちょっといい?」
帰ってきて早々、改まった言い方をしたルイーズに両親は顔を見合わせた。
エマがトムの隣のソファーに座ると、ルイーズは一回深呼吸をした後、空いているソファーの場所に座り両親の方を向いた。
「あのね……お母さん達は知ってるかどうかわからないんだけど、今日コンステレーション・パッサージュにあるモナリコさんって方のお店に行ってきたの。私は普通のお店だと思って入ったんだけど、実は少し変わったお店だったのよ。例えば魔法使いとか、そういう普通の人じゃない人達しか入れないお店だったみたいで、私が何も知らないで店に入っていたら、カフェにいたお客の男性がわざわざ種族を調べてくれたの。そしたら私、天女だって結果が出たんだけど、これがその時の用紙よ。これを見せればわかるって言われて……」
ルイーズは恐る恐るティメオのくれた種族判定用紙を両親に差し出し、エマは種族判定用紙を受け取ると、大変驚いたようだった。
「ルイーズこれ……種族判定用紙じゃない。モナリコの店が見えたの?」
見えたという実感がなかったルイーズは、少し考えてから話した。
「見えたっていうか見つけたって感じかな。一か月くらい前に、お母さんに頼まれた本を図書館へ返しに行ったでしょ? その時に、パッサージュの西口から東口方面へ歩いていたら、すごく不思議な雰囲気のお店を見つけたの。前からこんなお店あったかなぁ~って思って店の前に立っていたら、モナリコさんに声をかけられてね。それで初めてモナリコさんのカフェに行ったの」
「一か月前! あなた何でそれを早く言わなかったの!」
エマはそう言うとルイーズの隣へと座り直し、ルイーズの両手をガシッと掴んだ。
「えっ、だってまさかモナリコさんのお店が、普通の人には見えなくて入れないお店だなんて思ってもみなかったし、そのこと今日初めて聞いたんだもの。それでお母さん、お母さんもその……天女なの?」
エマの顔色を窺うようにルイーズが聞くと、エマは頷いた。
「えぇ、そうなの。私の母方の女性は代々天女の種族なの……でもまさかあなたも天女だったなんて……」
エマが急に下を向いたので、ルイーズはエマがショックを受けているのではと慌てた。
「お、お母さん……?」
ルイーズがエマの肩に手を置こうと思ったそのとき、エマがいきなりルイーズを抱きしめてきた。
「わっ」
「やったわ! あぁこの日をずっと夢見ていたのよ、私。あなた、なかなか天女に覚醒しないから、私てっきりあなたは普通の人間なんだって思って……」
エマが大喜びしたのもつかの間、今度は嬉しさのあまり涙ぐみ始めたので、ルイーズは自分やエマが天女であることを、やっと信じることが出来た。
「じゃあ、私が天女だってことやっぱり本当なんだ」
「本当よ。嘘じゃないわ」
「そっか……そうなんだ」
ルイーズもエマを抱きしめ返すと、トムも嬉しそうに話した。
「きっと今覚醒することが、ルイーズにとってのタイミングだったんだね」
「タイミング?」
「あぁ。人にはそれぞれ人生のタイミングっていうものがあるんだ。そのタイミングに早いも遅いもないんだよ」
「うん、ありがとう。お父さん」
ルイーズはエマから離れると、気になっていたもう一つの質問をすることにした。
「そう言えば、モナリコさんが天女の説明の時に、表の世界とか裏の世界とかって言っていたんだけど、それって何の事?」
ルイーズの質問に、トムが手に持っていたワイングラスをソファーテーブルに置くと答えてくれた。
「この
「要するにパラレルワールドってこと?」
今一つ理解が出来ないルイーズは、自分の中で一番分かりやすい言葉を出した。しかしトムは首を横に振った。
「いや、そうじゃないんだ。パラレルワールドは過去のとある分岐から別れた世界の事だろ?
「どうして?」
「裏の世界には昔、神様達やその使いの者たちしか住んでいなかったと言われている。しかし、表の世界で普通の人たちによる別種族への迫害が多く、それを見かねた神様達が裏の世界に保護したそうだ。それに普通の人が裏の世界があることを知れば、なんとしてでも裏の世界へ入ろうとするだろう。そして入ってきたらきっと、裏の世界を我が物顔でめちゃくちゃにしたり、自然を破壊したりするに違いない。だから神様達は普通の人には裏の世界の入口が見えないように、そして教えないようにしたんだ」
「そうなのね。でもお父さんは普通の人でしょ? どうしてそこまで裏の世界のことを知っているの?」
だいぶ理解ができたルイーズだったが、ではなぜ、教えてもらえないはずの普通の人であるトムがこのことを知っているのか、疑問に思いまた質問をした。
するとその質問にはエマが答えてくれた。
「それはね、トムがしゃべらないって誓ってくれたからよ。私が表の世界に遊びに来た時にトムと出会ったの。それから交際を経て結婚することになったんだけど、それにはとある誓いが必要だったのよ。トムが裏の世界の事を知る権利をもらい、トムも自分以外の人にはしゃべらないという誓い。トムは誓ってくれたので、私たちは結婚することが出来たわ」
「なるほど、それでお父さんも裏の世界のことを知っているのね。じゃあもし、しゃべってしまったらどうなるの?」
「その時は、神様達やその使いの者たちが、裏の世界の記憶を消すことになっているわ。私達が結婚したことも」
「えぇ⁉ じゃあそうなると私はどうなるの?」
ルイーズは不安そうにトムを見た。
「大丈夫ルイーズは消えないよ。もしそうなってしまったら、僕の裏の世界に関するすべての記憶が消されてしまうだけ。絶対に喋らないけどね」
トムが自信満々に答えたのでルイーズは安堵した。
それからルイーズはふとモナリコの言葉を思い出した。
「そうだ、今思い出したんだけど、お店のモナリコさんがまたお母さんと一緒に遊びに来てって言ってたよ」
「わかったわ、ありがとう。だけど先に、今回モナリコにはとってもお世話になったから、お礼の電話をしなくっちゃね」
エマはそう言うと、ソファーの隣にあるサイドテーブルに手を伸ばし、置いてあった電話の受話器を取って早速電話をかけ始めた。
「あっ、もしもしモナリコ?」
『あらエマ、どうしたの?』
「ルイーズから聞いたの。あなたのお店がやっと見えるようになって嬉しいわ」
『ルイーズから話を聞いたのね』
「そうなの。いろいろとありがとう。あなたにはとってもお世話になったわ」
『いいのよ、私とあなたの仲じゃない』
二人の会話を聞いていて、ルイーズは思わずトムを見た。
「ねぇお父さん、お母さんとモナリコさんは知り合いなの?」
グラスの中に入ったワインを飲み干したばかりのトムは、ワイングラスをソファーテーブルに置いてから答えた。
「モナリコはお母さんの親友だよ」
「そうなの⁉」
モナリコからエマとの事を何も聞いていなかったルイーズは、大きな声で驚いた。
「えぇ~!」
その驚いた声があまりにも大きく響いたようで、電話の向こうにいるモナリコにも聞こえた。
『なになに?』
受話器の向こうでモナリコが聞いてきたので、エマは笑いながら答えた。
「いやね、ルイーズが私とあなたが知り合いなのかって聞いてきたから、トムが私とあなたは親友なんだって答えたの。それに驚いたのよ」
『あぁ、私それルイーズに言ってなかったわね』
「ねぇ、それより何で一か月前にルイーズがカフェに来たこと教えてくれなかったの?」
『ルイーズがもうあなたに話していると思ったのよ。あら、ちょっと待って』
受話器の向こうで、カフェのドアが思いっきり開いた音が聞こえたと思ったら、少し話声がした後、いきなりエマの父親で、ルイーズの祖父のノランの声が聞こえてきた。
『もしもし! エマか? ルイーズは!』
あまりにも大きな声だったので、受話器から離れているトムまで、ノランの声が聞こえてきた。
「もしもし、お父さん? ルイーズなら側にいるわ。代わるわね」
エマはルイーズに受話器を渡した。
「もしもし、おじいちゃん?」
『ルイーズか! モナリコから聞いた。天女に覚醒出来たんじゃってな! おめでとう。マノンもおめでとうって伝えてくれって言っとったぞ』
「うん、ありがとう」
凄く嬉しそうなノランの声に、覚醒することがこんなにも大騒ぎするほど喜ばしいことなのかとルイーズは驚いた。
「覚醒することって、おめでたいことなんだ」
『ルイーズのような、特に普通の人とのハーフの子は喜ばしくめでたいことなんじゃ。普通の人間の血も半分入っておるから、普通の人間として生まれてくる子は半分いる。だから覚醒できる方がわしら裏の世界の者にとっては嬉しいことなんじゃ』
「なるほど、そうだったんだね」
『あぁ。それでいつこっちの裏の世界へ遊びにくるんじゃ』
「えっ? えっとちょっと待って」
いきなりのお誘いに、ルイーズは慌ててスマートフォンの中にあるスケジュールを開いて確認した。
「もしもし。来月に一週間ほど休みを取って、そっちへ遊びに行くのはどう?」
『それで構わん! マノンにも急いで教えてやらなくてはいかんのう』
「私一度でいいから、おじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行ってみたかったの。よろしくね、おじいちゃん」
『あぁ任せておけ』
「うん。おばあちゃんにもすごく楽しみにしてるって伝えておいて」
『わかった』
モナリコとノランとの電話が終わり、やっとルイーズは嬉しさがこみ上げてきた。
「来月に一週間ほど休みを取って、裏の世界のおじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行くことになったわ」
喜ぶルイーズにトムは微笑んだ。
「おじいちゃん凄くうれしそうだったね。ゆっくり楽しんでくるといい」
エマもニッコリと微笑んだ。
「えぇ、とても素晴らしいところよ。羽を伸ばしておいでね」
「うん」
それから三人は、やっと夕食を食べるために、ダイニングテーブルへと移った。
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