第3話 邪神が眠っている体
両親の努力で、やっと見つかった専門家。
お払い師なるものに面会させられた私は、これで何か事態が改善するようにと祈る気持ちだったが。
何百人ものお客さんを見てきたという専門家中の専門家は、私を見て真っ青になった。
「ひぃっ!」
しかも不吉な事に、その人は私と出会った瞬間に叫び声をあげて、気絶してしまった。
あわてて、骨折中の両親に起こされるお払い師は、なおも体を震わせる始末。
抱き起されたその人は、私をじっくり見た後にこの世の終わりのような顔で、伝えてきた。
「どうか心して聞くように。このことは、他言無用ですぞ。実は、そのお嬢さんの中には、邪神が眠っておるのです!」
どうやら私の体の中には、かつてこの世界を滅ぼそうとしたものがいたらしい。おとぎ話の中にでてくるような存在、邪神が眠っているとか。
そのせいで周りにいる人間が不幸に陥ってしまうのだという。
追い出す方法はなし。
私達は途方に暮れるしかなかった。
両親には気の毒な結果になってしまった。
私を心配して、わざわざ専門家を探してくれたというのに。
「これ以上私には手に負えません」と専門家にさじをなげられてしまったからだ。
これはもう本格的にお嫁にはいけないな、とそう思った。
それどころか、家にすらいない方がいいかもしれない。
両親の骨折は治ってきているものの、あいかわらず身の回りでは不幸な人死にが出ている。
しかも、どこから広まったのか知らないが「邪神の子」とか言われる始末。「呪われている」とか「近づいたら死ぬ」とかショッキングだが、あながち間違っていないから否定しづらい。
いよいよ嫌われ者の立場も極まってきたかと思えてきた頃。
社交界でとある男性と出会った。
それは柱の陰で悪口を言っている集団を見つけた時の事だ。
「あのご令嬢、人を呪殺する力があるみたいよ」
「まぁ、怖いですわ! 家で藁人形にクギを打ってそうな顔で」
「あら、こっち睨んできたわ。やだこわーい」
けたけたと笑い声をあげる貴族令嬢達。
そんな者達に目を向けていると、近くにいた男性が彼女達に声をあげた。
「馬鹿らしい話だ。人を貶めて何が楽しい? 君達が、麗しいのは見た目だけで中身は醜悪だ。まるで邪神の陽だよ」
さっそうとその場に現れたのは、とある名家のご子息だ。
実際に会った事はないけれど、話にだけは聞いている存在。
普段はこの地域の社交界には姿を現さないはずなのに。
どういう心境の変化だろう。
鋭い目つきをした彼は、噂話に興じるご令嬢に一喝してから、私の元へやってきた。
そして、
「美しいお方、私と婚約していただけませんか?」
と、婚約を申し込んできたのだ。
当然、私は驚いた。
こちらが散々働きかけて、やっとこぎつける事ができるのが「私にとっての婚約の常識」だったから。
それなのに、向こうから婚約の話を出されるとは。
夢にも思っていなかった。
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