第4話 すんなりだらけ



 そういうわけで、なぜかすんなりと決まってしまった婚約。


 結婚の約束に従って、家と家とのお付き合いが始まった。


 貴族の婚姻は平民同士のそれとは違うため、交流を持ち、血筋を保つために、家族や親せきと何度もやり取りをしなければならない。


 だから、婚約者となった彼以外の人とも、話をする事になったのだが。


「うちの息子をよろしくお願いします」

「噂はやはり噂だったな、家族思いの良い子じゃないか。君のご両親とも楽しい話ができたよ」

「おにいさまをよろしくお願いしますわ! ほんとうはわたくしが、おにいさまのお嫁さんになりたかったんですけども! 特別にあなたにゆずってあげましてよ。かんしゃしてくださいな」


 ご両親も、親戚の人達も、みな友好的に接してくれたのだ(いとこのお嬢さんだけは、ちょっと好敵手枠に収まっているが)。


 良い事はそれだけではない。

 その頃からなぜだか、身の回りの不幸がだいぶ減っていった事だ。


 人死にが出るわけでもないし、怪我をする人がいるわけでもない。

 病気になる人もいなくなっていた。


 首をかしげていると、婚約者である彼が昔話をしてきた。


 それは、二人っきりになった時のことだ。


 彼の屋敷にお邪魔した際に嵐がやってきて帰れなくなってしまったため、一晩じっくりと話しをする時間ができたのだ。


「実は、昔とあるご令嬢と一緒に遊んでいた事があってね」


 それは、彼が物心ついてすぐの事だったらしい。


「けれど、そのご令嬢と一緒にいる人達が次々と怪我をしてしまって、皆が泣いてるんだ。当時はすごく不思議に思っていたよ」


 懐かしそうな顔をして彼が話すのは、私の過去にまつわる事でもあったようだ。


 私はつい最近彼の存在を意識しはじめたというのに、彼はずっと前から私の存在を意識していたらしい。


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