猫好き狂乱! 大SNS時代

 世はまさに、大SNS時代。そして、猫好きにとって、もっとも忙しい時代といえよう。


 人々は日々のできごと、感嘆、意見、見たもの、食べたものを、気軽に投稿し、シェアし合っている。当然、そのなかには猫画像や猫動画、猫に関するテキストも含まれるのは猫好きならご存知の通り。それも大量だ。これほどまでに見知らぬ猫ちゃんの情報が氾濫し、それに浴するのは、人類史上初のはず。


 ところでわたしが見たい猫ちゃんの姿とは、「なんでもない」ところだ。きゅるんとポーズを取っているのでもなく、おもしろいことをやっているのでもない。そういうのはカレンダーや、「おもしろ動画100連発」的なテレビ番組にまかせておけばよろしい。いや、それはそれで楽しいのだけど……。むしろ、ただ香箱座りをしていたり、ただ寝そべっていたり、ただ歩いていたり、走っていたりを見たい。


 そういった姿は、従来、猫を飼っていないと見られないものだった。


 しかし、いまの時代は違う。手元には、いつでもスマートフォンがある。それさえあれば、指先ひとつで猫の姿を高画質で収め、全世界に向けて公開することができるのだ。そして、それを実行している飼い主さんは大勢いる。


 撮影や投稿が気軽なぶん、流通量は莫大だ。適切なタイムラインさえ構築しておけば、「うちのコがただ扇風機に当たっているだけ~」「見て見て、寝てるところがカワイイ」「おもちゃに飛びつく後ろ姿。ちょっとマニアック(笑)」、はたまた、もはやコメントすら付随しない、日々のありふれた姿が向こうから飛び込んでくる。


 大量に情報が氾濫したとき、問題となるのは、好みの情報をどうやってキャッチするかだ。しかし、いまは冒頭にも書いたように大SNS時代。解析機能は日進月歩。「あら~、このハチワレ猫ちゃんがただ毛ずくろいをしている動画、いいわ~」と眺めていると、Instagramはおすすめ欄が「何気ないハチワレ猫画像をあげていそうなアカウント」で埋まり、TikTokなら「猫が日常の動作をしている『だけ』の動画」がエンドレスで流れ続ける。


 とくにTikTokの「なんとなくこういうのが好き」を見破る力はすごい。猫が寝ているだけの動画を見たら、次は猫が寝そべりながら脚を組みかえているだけの動画が流れる。


「あんよが、かわいいいいいいいい」


となって釘付けだ。この時間泥棒が! そして、画像も動画も、見ても見ても尽きることはない。なぜなら、全世界の飼い主が絶えることなく猫の画像や動画を投稿しているのだから。いま、この瞬間にも。


 猫に限らないけれど、家庭で飼われている動物たちの何気ない姿に心をつかまれるのは、そこに家族としての空気を感じるからだ。猫たちは快適な家のなかでも、いちばん快適な場所でのんびりごろごろし、家族のだんらんのまんなかにいたり、新聞を広げれば紙面に乗っかり、テレビを見ていればその前を横切る。早朝に飼い主を叩き起こしてエサをねだって二度寝をし、好き勝手暮らしている(ように見える)。

 飼い主は、誤飲やケガに気をつけて部屋を整え、猫の要求になるべく応え、「うちの子は早朝の時間帯とみたい。せっかくなので起こされたまま、いっしょにサッカーのヨーロッパ選手権をみています♥」と二度寝中の猫の画像をアップしていたりする。


 投稿写真に映っているのが猫だけであっても、なんとなく、人も猫も幸せそうに見える。とはいえ、人の世は生ぐさい。実際はいろいろなことがあるだろう。けれど、一緒に暮らしている猫の何気ない姿を撮る、すくなくともその瞬間は、撮影した人は幸せを感じているのではないか。


 動物に関しては、謙遜のリミッターが外れる人が多いのもいい。「身内をほめない」といわれる日本人だが、動物、とくに猫に関するSNS投稿においては、「えっ、こんなかわいい子がなんでうちにいるの!? と毎日驚いてしまう」といった驚きさえ表出される。ノロケ全開である。それを読むと、猫と暮らしていない猫好きとしては、「やっぱりこんなかわいい子がいたら、そう思うよなあ、幸せだよなあ、いいなあ」と素直に納得してしまう。このせちがらい世の中で、何かが唯一無二の存在として愛されて、大事にされている。それをのぞき見るのは、単純に楽しいことなのだ。


 というわけで、日本のみならず世界の猫ちゃんアカウントをフォローするうち、猫好きの可処分時間は奪われていく。夜になれば家族で、「今日見たかわいい猫ちゃん画像、動画」を教え合ってまた時間をつかう。そうしているうち、異種族同士、たとえば犬猫が仲よく暮らしているご家庭の動画なんかも流れてくる。犬もかわいく見えてくる。アメリカの農場では、猫が羊にひっついていたりする。あら、羊もかわいいじゃない……。


 統計を見たわけではないけれど、SNSに投稿される画像、動画は猫が多いように思う。少なくとも、日本での飼育数では、猫が犬を100万頭以上抜いている(2020年時点。犬:848万9千頭、猫:964万4千頭。一般社団法人ペットフード協会の資料より)。猫好きにとって、人類史上いちばん多忙な時代といえよう。しかし、こんな悲鳴をあげられるのも、投稿する人の存在あってこそ。

「どこにも足を向けて寝られないよ~」

などと寝言を言いつつ、今日も全世界の飼い主さんに感謝する日々である。

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