第6話 ドレイク

6.ドレイク


 翌日、宿にシュベルツ海賊団のヨーゼフとマリーネがやってきた。

 この二人は姉弟らしい。


 マリーネは、昨日のお礼を言うと、要件を告げた。


「今日の19時に地図の場所に来て欲しいのです。重要人物に会ってもらいます」

「分かった。礼金は?」

「それは、お任せします。欲深い人なので、それなりの……」

「カネの心配はいらない」と言うと、二人は帰っていった。


「お頭!?」

「すまん、ここで稼いだカネを、幾らか使わせてもらうよ」

「心配しなさんな」と、エマリーが言ってくれた。助かる。

「私も、ついて行った方がええのと違う? 相手は『一人で来い』とは、言わなかったし」


 確かにそうだ。

 護衛も用意しておいた方が良いか?

「エマリー、頼む。護衛はいらない。誠意を見せる」と見栄を切ることにしたのだ。



***


 陽が沈み、約束の時間がやってきた。


 この陽が沈むということは、日傘の仕込みサーベルを持つことは不自然ということか!?


 船内なら、海賊風のズボンでも良い、山なら乗馬をしに来たので、ズボンはありえるが、今回は街中だ。


 スカートにせめてドロワーズだろう。

 武装も出来なければ、動きも悪い。

 コルセットは外したいが、どうしたものか?


 色々と悩んだあげく、普通にご婦人の姿で行くことにした。

 それが、凶と出るか吉と出るか?


 マリーネに案内してもらい、約束の場所に行くと、シュベルツと副キャプテンのハインリヒ、そして、もう一人、男がいた。


 すると、シュベルツが立ち上がり、紹介した。

「紹介しよう! こちらはドレイクさんだ」


 ド、ド、ドレイク?

 マジ?



「は、はじめまして、“The key to the future”号の副キャプテンのエマリーです」

「同じくキャプテンのキーナ・コスペルです。以後、お見知り置きを」


「おぉ、私は、フランシス・ドレイクだ。よろしく頼むよ」


 ここで、シュベルツから説明があった。

「提督(サー)には、オレから話しておいた。

 ダブルスタンダードの件は、罰金で済むようにしてもらえる。今回の殺人については、敵のスパイということで、スパイは殺されてもおとがめ無しだ。

 むしろ、よく捕まえてくれたと言うことだ」


 なに!? “よく捕まえた”だと?

 シュベルツは、あの樽の中に入れた海兵は、私の手柄として説明したのか?


 あの場に樽を持ってきてくれなかったら、私は、もう一人の海兵を殺して、お尋ね者になっていたと思う。


 しかし、ここで口を挟むのは、シュベルツの思いや考えを無にしてしまいかねない。

 ジッと堪える。


「キーナ君、敵国のスパイは捕虜として有り難い。まあ、君の件は任せてもらおうか」と、ドレイクが言ったので、私は、エマリーの方を向き、頷いたところ。

 エマリーも頷き、袋から礼金を取り出した。

「こちらは、ドレイク様の取り分です。こちらは、シュベルツ様の取り分です。お納め下さい」と、エマリーが礼金の入った袋を渡している。


 すると、シュベルツが、

「いや、これはサーが!」と、言うと自分の礼金をドレイクに渡してしまった。

 なぜ?


「サー! オレはキーナに仲間を助けられた。そのために、今回は動いている。礼をするのは、オレの方だ。

 これは、受け取るわけにはいかない」


「おいおい、黒船屋よ。お前が受け取らないのなら、儂だけ受け取るのは、カッコ悪いではないか!

 しかも、綺麗なお嬢さん達の前でだぞ」


 二人が揉めだして、私達は、どうしたものか?

 置いてきぼりなんだけど!


「では、このカネは、しばらくは、サーが預かっておいてくれ」と、シュベルツは言った。



 男は見栄っ張りで困るんだよ。



 次回の女海賊団は、シュベルツの夢を知ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る