第5話 海兵

5.海兵


 私は、スペイン人をサーベルで、メッタ刺しにしていたら、樽を肩に抱えた大きな男達が現れた。


 昨日のシュベルツ海賊団だ。


 サーベルを片手にした私は、漁業組合の職員という堅気の顔でなく、殺気に満ちた海賊の顔だった。


「お嬢さん方、お困りの様ですね」と、言ったのは、キャプテンのシュベルツだった。


 私は、シュベルツの顔を見た。

 すると、他の男達は、『ハッ!?』とした表情をしたのだ。

 実は、後から聞いた話では、私は、かなり、きつい表情だったらしい。

「カタギの顔ではないですよ!」だそうだ。


「シュベルツ! なぜ、ここに?」

「お困りの様だったので、この樽に、スペイン人を入れて、海に捨ててやろうと思ってね」と、シュベルツは笑った。

「ふふふ、そいつは面白い」 


 すると、何処かしらか、シュベルツの後方に、見知らぬ男が剣を抜いて現れた。


「危ない!」と、私は叫ぶと、猛烈に駆けだしていた。


 その剣を持った男が、シュベルツ海賊団のマリーネとかいう女を襲うところを、私がサーベルで喉を串刺しにしていた。

『やってしまったか!』

 これは、即死だな。



「マリーネ、大丈夫か!?」

「キャプテン!」

「どうやら、こいつらは我々も狙っているようだな」と、言うとシュベルツ海賊団は、本当に、この男達を樽に詰めてしまった。


「お嬢さん、ありがとう。うちのクルーが助かったよ」と、シュベルツが丁寧に頭を下げ、礼を言った。

 この海賊らしからぬ行動に、私は驚いたのだ。


「何を、そんなに驚いている?」

「いや、海賊が頭を下げるなんて、思わなかったから」

 すると、シュベルツは、一つ二つ頷いてから、話し始めた。

「仲間は命。オレと共に想いを同じくする同志。その仲間の命を助けることは、オレの命を助けたと同じこと。お嬢さんは命の恩人だ」

「命……

 あっ、“お嬢さん”ってのは、やめてくれ、キーナだ! キーナ・ゴスペルだ」


 シュベルツは言った。

「良いのか? 名乗ってしまって」

「あぁ、仕方が無い。騒動に巻き込んでしまっているし」 

「潔い良いんだな」


 しばらく沈黙したが、私は、彼らに告げた。

「ダブルスタンダードをやったんだ」

 シュベルツ海賊団の連中がこちらを見ている。


「それをスペイン海軍が嗅ぎ付けて、追い掛けて来たんだ。なので、イングランドの海軍に渡すと、ダブルスタンダードがバレるんだ」


 すると、シュベルツは、

「この国の商人は殺したのか?」

「いや、殺しはしてない。物品だけだ」

「なら、なんとかなる。なんとかしてみせる」と、答えた。


 なんとかなる?


「あぁ、奪った物品分の罰金は払うことになるとは思うが、大丈夫か?」

「それは、大丈夫だ。カネならある」

「では、任せてもらおう。連絡先はこの先の宿で良いのか?」

「随分と詳しいのだな」

「怪しかったから調べさせてもらった」


 えっ!

 私達が、買い物をしている間に、すっかり丸裸だ。

 なんか、恥ずかしいな。

 洗濯した下着、見られたか!?



 すると、シュベルツ海賊団は、先程のスペイン海兵と死体を樽に詰めて、持って行ってしまった。


 やはり、海兵は捨てるの?


 次回の女海賊団は、意外な人からお呼びがかかります。誰だ?

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