第4話 漁村組合の職員ですわ
4 漁村組合の職員ですわ
「海の臭(にお)いがする」とマリーネという女が言った。
よし、ここで、考えた案の“漁村組合”で誤魔化そう。
「そりゃそうですよ。私達は、ドイツの漁村組合の職員なのですわ」
「ええ、そうなのですか。ですと、魚には詳しいのですね」
魚と船の話になると、ボロは出まい。
毎日、取り扱っているのだから、きっと、ボロなど出るはずもない。
すると、
「どこの漁村ですか?」と、聞かれた。
「ええっと、」なんて答えたら良いのだ。そこまで考えていなかった。
今まで、エマリーの胸に収容されていたイリーゼが、
「そぉんなこと、どうでも良いじゃないですかぁ。飲みなさいよ」と、酔っ払い口調で、参戦してきた。
私は、
「あぁ、こりゃ酷い。かなり酔っているじゃない」と言うと、これは逃げるチャンスだ。
ここで、撤収する。
「もう、この娘は駄目ですわ。今日はこれでお暇させてくださいまし」と言うと、一礼して、支払いを済ませ、
「みんな、今日は帰りますよ」というと、一斉に店を出た。
そのあとは、逃げるように、宿へ一目散だ。
残されたシュベルツ達は、
「おい!」とシュベルツが言うと、ハインリッヒとマリーネの2人が、頷き、クルー達に指示を出していた。
「キャプテン、あの酔っ払いの娘と、貴族の女に尾行を付けました」
「わかった。よろしく頼む」
自分たちに尾行が張り付いているなどつゆ知らず、急いで宿に帰った私たち。
急いで帰ったため、酔いが、さらに回るわ!
その日は、すぐ寝ることにした。
***
そして、翌日。
船の見張り以外は、買い物の続きだ。
街に出掛けると、なんと怪しい奴が私達を見ているのが分かった。
『なに奴だ?』
私は、仲間達に目配せをした。
海賊をしていると、この様なことも、しばしばあるので、対処法を幾つも考えておかなくてはいけない。
まず、私が囮になる。
私が買い物をしているふりをして、時間を稼ぐ、仲間が先行して、そこを私が通過すると、尾行している相手もこちらの仲間の横を通過する訳だ。
それを繰り返していると、相手の規模や実力が分かる。
そして、仲間の合図で人通りの少ない一本道で、挟撃を仕掛ける。
数的有利な際に、有効なやり方だ。
というより、我々は、対処出来ない少人数では動かないのだ。
では、そろそろ、挟撃をするぞ!
そして、私は通りの角を曲がり、人気の無い路地に入った。
手に持っている、傘を畳むと、中からは仕込まれているサーベルを抜き出す。いわゆる、仕込み杖ならぬ、仕込み傘だ。
そして、しっかり敵を挟んだら、仲間が合図を送る。
その合図は、敵目がけて、石をぶつけるのだ。
それは、本気も本気で、それなりの大きさの石を各人が投石を行う。
それを、頭部目がけて全力で投げつけるのだ。
そして、道端の石をバカにする勿れである!
これほど優れ、工夫次第で武器になる代物はない。
例えば、重ねたソックスに入れると、振り回せる。これが如何に強力な武器になることか!
カンフー映画でヌンチャクが流行ったが、ヌンチャクは如何にも武器に見えるが、石とソックスは、普通、武器に見えないうえ、しかも、石は捨てることが出来る。
捨てても目立たない。
ので、逮捕されても「武器等ありませんよ」としらばっくれるのだな。
さて、正面からは仕込みサーベルの私が、後ろからは大柄のイライザが突っ込んでいった。相手は男二人だったが、頭に石を食らわないよう、頭を低く抱えていたため、いとも簡単に手足を斬ることが出来た。
脛の内側を斬ったため、通常の歩行は難しいだろう。
こういう時は、遠慮はしてはダメだ。徹底的に恐怖と敗北感を与えないと、相手は吐かない。
そして、
「どこの者だ?」など、私は言わない。
無言でひたすら、斬りつけられることは、恐怖を植え付けるのに最良なのだ。
そして、ひたすら凶人の様に斬りまくる。
質問などするから、答えれば許してもらえると思う。しかし、何も聞かれなければ……
私は、サーベルで全身あちこちを突き、持ち物を見つける。
それを、まず奪う。
財布があった。
サーベルでポケットを切って、財布を串刺しにして奪った。
そして、お財布の中身を頂戴すると、中にはスペインの紙幣とコインが入っていた。
イングランドに来て、何故、スペインの紙幣にコインが入っているのだ?
まあ、身分証明になるものなど、有ったりはせんだろうが、こいつはスペイン海軍の者だろうな。
我々が、スペインとイングランドに仮名を使って、私掠船登録をしているのを、調べていたのか。 目的はなんだ? 単なる罰金か? それともそれ以上の刑に処するつもりなのか?
まあ、海賊は基本、死刑だわな。
「こいつはスペイン海軍だ。証拠になるものを探せ。なければ殺せ」
「お頭、白昼堂々と人殺しはできませんよ」
「かまわん」
むろん、脅しだ。
どの程度の覚悟で来ているか試したのだが、一向に話すつもりはなさそうだ。
たが、恐怖が顔に、にじみ出ている。
もちろん、イギリス海軍に渡せば、それなりの処罰を受けるだろうが、我々の悪行も話されてしまいかねないと言うか、話すだろう。
やはり、ここは殺すか!?
「いや、殺してしまっても、ここは敵国なのだ。海軍に渡せば問題はない」
この時代、敵国の兵士の命の価値など、安かったのだ。
すると、樽を抱えた大男が数人やってきた。
次回の女海賊団は、樽と大男の正体は?
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