第3話 B90の狭間 ―ボインが歩いている―
3 B90の狭間 ―ボインが歩いている―
その場にいる男も女も固まっていた。
海賊に向かって、「私は海賊だ! カネを出せ!」なんて言ったバカは、お前ぐらいだぞ!
イリーゼ!
『アホか! この女は!
エマリー、お前、従姉妹だ。何とかしろよ』
と、私は心の中で叫んでいた。
すると、私の心の声が届いたのか、エマリーがイリーゼを抱きかかえこんで、
「もうイリーゼったら、酔っぱらって!」と、イリーゼの顔をB90のバストの中にしまい込んでしまった。※1
“しまい込む”とは、イリーゼの顔よりエマリーのバストの方が大きいため、そのまま、谷間に収容できる感じだ。
イリーゼは、何やら「ウウウゥー、うんうん」と言っているが、聞き取れない。
ナイスだ! エマリー!
巨乳とは、この様な使い方ができるなんて、私は知らなかったよ。
すごいなぁ。
男達も、エマリーのB90には興味があったのだろう。無いはずが無い。
女の私でも吸い込まれそうな時があるぐらいなのだから。
しばらく、エマリーは、イリーゼの顔を胸に挟んだまま、酒を飲んでいた。
「お兄さん、うらやましいのかい?」なんて、言っているのだから、海賊どもはペースを狂わされた感じだな。
これは、チャンスだ、逃げるぞ!
私は、クルーたちに目配せをし、この場を退散することにした。
「申し訳ございません。うちの娘が酔っぱらってしまって、心配ですので、今日のところは、これで失礼いたしますね」と言い、立ち上がろうとしたところ、
「まあ、良いではないか! お嬢さん」と、いう声がした。
この声の主は、キャプテンのシュベルツだ!
私は、“お嬢さん”と言われて、ちょっといい気になってしまった。
何年ぶりだろうか? “お嬢さん”なんて言われたのは?
いや、別に歳を取っているのではない。常に海の上にいるような生活をしているのだから、これは仕方がないというヤツだ。
うん、仕方がないのだ。
しかし、これでも昔は、“お嬢さん”どころか、“お嬢様”と呼ばれていたのだ。
海賊名は、“キーナ・コスペル”と名乗っているが、本名は“ヴィルヘルミーナ・フォン・ホーエンツォレルン”、ライン川の麓で領主をやっている。
父がいるが、兄弟はいないので、父の後は私が領地を継ぐことになるだろう。
だが、貴族の生活になじめず、自由を求めて大海原に出た。
それは3年前のことだ。
そして、自由を求める連中を集めて、今、海賊をやっている。
いや、私掠船をやっている。訂正する。
「海賊に興味があるようだね」とシュベルツが聞いてきた。
隣の女も覗き込んできた。
なんだ、この金髪のチンチクリンは?
「私はマリーネ。キャプテンの秘書よ」
そうなんだ。秘書なんているんだ。うちでは考えられないな。
やはり、あんな大きな船には、キャプテンの秘書っているのだな。
また、ひとつ勉強になった。
「海賊ですか? いや、商売をしているので、おっかないかなと!? ハイ!」と、返答しておいた。
実際、私掠船も商売だし、うちのエマリーとイリーゼは商売人で、その延長で船に乗り込んでいる。
そして、いつも金勘定をしている。とてもドイツ人には思えん。
この二人には、聖書の言葉を送ってやろう。
「金持ちが天国に行くには、ラクダが針の穴を通るより難しい」と。
(マタイの福音書 第19章より)
「しかし、お嬢さん方。きれいなドレスを着て、別嬪さんだと思うのだけど、臭(くさ)いんだよね。におうんだよ」と、シュベルツが言った後、すぐさまに、
「そうね、海の臭(にお)いが染みついてますねぇ」と、マリーネという女が、私たちが海賊だということを皮肉ったように言った。
次回の女海賊団は、「くさい、くさい」と言われて、ピンチです。
※1 B88といえば、ハウンドドッグの歌。
さらに2センチ大きい90cmだ!
ここまでくると、大胸筋でなく「ボインが歩いてる!」
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