めでたしめでたし♪って、感じかなっ☆


 フィンさんとヴァンさんが城へいらした数日間の楽しい日々。


 フィンさんの凄い食欲、それを呆れながら見守るヴァンさん。そして、辛辣なヴァンさんの言葉に騒ぎながらも、どこか楽しげなフィンさんの表情。


 ・・・あれらは全てが夢で、本当のわたくしは未だ暗い地下室で微睡んでいて、太陽の光を浴びたいと願いながら夢を見ているのではないか? 起きたら、全て消えてしまう都合の良い夢なのでは? と、疑うことがあります。


 けれど――――


※※※※※※※※※※※※※※※


「では、失礼致します。丁重なおもてなしに感謝しております。サファイア様」


 ぺこりと頭を下げてサファイアへいとまを告げたヴァンに、遅れて頭を下げるフィン。


「お世話になりました」

「いえ、こちらこそ、大変お世話になりましたわ。本当に、ありがとうございました。・・・フィンさん、ヴァンさんも、本当に行ってしまわれるのですか? もっと、この城へ滞在してくださってもよろしいのですよ?」


 寂しさから切り出したサファイアへ、


「いえ、早々に退散させて頂きます。マスターはこれでも、邪悪な・・・モノ・・とされていますからね。また、教会の人間が来ると厄介なので」


 キッパリとヴァンが断った。


「フィンさんの、どこが邪悪なのですか?」


 フィンは美味しいご飯やお菓子が大好きで、能天気で子供っぽくて、髪と瞳と爪が黒いだけの、可愛らしい普通の男の子にしか見えない。


「神や天使、聖人以外が人知を越えたことを起こすと、異端だと言われるのですよ?」


 窘めるようなヴァンの声。


「そして、その恩恵にあずかった者もまた、異端扱いされるのです。なので、私達はこれで失礼させて頂きます」


 言外に、サファイアの為なのだと。


「ああ、それと、余計なお節介を一つ。サファイア様は、レガットさんのことがお好きですよね?」

「っ!? な、な、なにをっ!? ヴァンさんっ!? わたくしがアウィスのことを、す、す、す、……好きだなんてっ……」


 カッとサファイアの頬が赤く染まる。


「レガットさんも、サファイア様のことがお好きですよね? 両想いなのですから、ご結婚されては如何でしょうか? どうせ、あなた方二人の間には大した障害も無いのですから」

「ヴァン様っ!? な、な、なにを仰るのですかっ!? わたし如きがサファイア様と結婚などと・・・」


 真っ赤になったレガットが、赤くなったサファイアと見詰め合い、更に顔を赤くする。


「レガットさんは執事長とのことですが、しっかりと教育を受けた貴族の子弟でしょう? 身分差や年の差も、あまり気にする必要はないかと。そうじゃないと、太陽の下へ出られるようになった美しいサファイア様を、誰か見知らぬ殿方へ取られてしまいますよ?」

「っ!?」


 白い髪はそのままだが、名前の・・・通り・・に透き通った深い青の瞳と、蒼白ではない血色の良い白磁の肌を手に入れたサファイアは、人外染みた美を持つ女性という印象が薄まり、健康的な美しさがかもし出されている。


人間ひとの一生は短いのですから。両想いなら、さっさとくっ付いた方が幸せな時間を満喫できますよ」

「あ、それじゃあ、ボクからもお祝いしてあげるっ! はい、どうぞ♪」


 と、フィンが差し出したのは、庭園に咲いていたチューリップと薔薇の花束。


「マスター。それ、勝手に摘んだのですか?」

「違うよっ、貰ったのっ!?」


 呆れるようなヴァンの視線に首を振るフィン。


「頂いた物を、くれた方本人へ返すのは失礼ですよ」

「こ、これはこうするのっ!?」


 パチン! と、黒い爪の指先が音を鳴らすと、黄色かった薔薇とチューリップがパッと鮮やかな赤に染まる。


「成る程、マスターにしては気が利いています。赤い薔薇の花言葉は『愛情』で、赤いチューリップの花言葉は『愛の告白』です。この場面では、ピッタリなの花だと言えるでしょう」


 こうしてレガットの退路を断った二人は、


「えへへっ♪もっと誉めてもいいんだよっ?」


 にまにまと、


「いえ、マスターが調子に乗るので嫌です」


 無表情に、


「ひ、ヒドいよ~っ!」


 言い合いながら、


「では、そろそろ邪魔者は立ち去りましょう」


 ぽんと花束をレガットへ渡して城を後にした。


「もうっ・・・それじゃ二人共、頑張ってねっ☆」


 真っ赤になって見詰め合う、お互いに両想いなことがバレバレだった主従を残して・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


「そして二人は結ばれました。めでたしめでたし♪って、感じかなっ☆」

「そうだといいですね」


 城を出て、のんびりと歩く二人。


 カラリと晴れ渡る空の、眩しい日差しの太陽。


「・・・そういえば、思い出しました」


 ヴァンは空を仰いで呟いた。


「なにを思い出したのー? ヴァン」

「黄色い薔薇と黄色いチューリップの、別の花言葉を、今思い出しました」

「どんな花言葉なのー?」


 フィンがヴァンを見上げて聞いた。


 黄色い薔薇は『嫉妬』や『愛情の薄らぎ』そして、黄色いチューリップは『望みなき愛』という花言葉が有名だが、そうではない意味もあった。


「黄色の薔薇は『君の全てが可憐』で、黄色のチューリップには『明るさ』そして『日光』という意味がありましたね。マイナーですけど」


 太陽の光を見ることができなかったサファイアの気持ちか、それを慰めたかったレガットの気持ちか・・・いずれにしても、どちらにもピッタリな気持ちがこもっていたワケだ。


「へぇ・・・面白いねっ☆」

「それで、これからどうしますか? マスター」

「そうだねぇ・・・ジャンヌサファイアの祖母のお願いは叶えたから、適当にふらふらしようか? あ、それと、後でサファイアに手紙を出しておいてね? アルビノの子が生まれたら、ボクを呼んでねってやつ。よろしくねっ☆ヴァニティア・シルフレイア・カラレス」

「わかりました。ホーリー・ヒュー」


 執事姿をした無色の消え行く風の精霊は、子供の姿をした色彩を司るレイヴンへと頷いた。


※※※※※※※※※※※※※※※


『アルビノの子が生まれて、困ったら呼んでね?


 ボクに手紙を書いて、その辺に置いとけば、ボクに届くようになってるから。


 そしたらまた、色を交換しに行くよ。


 それじゃあ、お幸せに。


 フィンより』


 いつの間にか机の上に置かれていたこの手紙と黒い鴉の羽根が、夢ではない証なのでしょう。


 いつかまた、フィンさんとヴァンさんに、お会いできる日が来るでしょうか?

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