ぅう・・・ヴァンのバカ~っ!?!?


「マスター。テオドール・クレシェンド神父はどうでしたか?」


 神父と直接は対面をしていないヴァンが聞く。


「いい人みたいだよ~? い~っぱいキャンディくれたしー?」


 フィンの頭の中には、食べ物をくれる人イコールいい人という図式があるようだ。


 ヴァンは舌打ちを堪え、


「・・・マスター。餌付けされてどうするのですか? 貴方は」


 呆れ顔でフィンを見下ろす。


「餌付けー? ・・・あれって餌付けだったの?」


 フィンはきょとんと首を傾げる。


「お菓子を貰って機嫌を良くし、自分のことをペラペラと喋る。これのどこが餌付けでないと? 餌付けでないなら、買収になりますか?」

「え~っ!? 買収されてたのボクっ!」

「・・・全く、むやみやたらと他人から食べ物を貰うのはよしてください。みっともないとは思わないのですか? 貴方は」

「全~然。だってボク、子供だしー」

「万が一、誘拐されたらどうするつもりですか?」

「そんなの決まってるでしょ? ボクが誘拐されたら、絶対ヴァンが助けてくれる! でしょ?」


 にっこりと満面の笑みで断言。


「・・・・・・ええ。そうですね。大変嫌でいやで仕方ありませんが、契約期間・・・・中であれば、仕方なく助けに行きますよ。ええ。不本意極まりなくても、助けると思います。仕方なく・・・」


 溜息混じりに何度も、「仕方なく」と強調するヴァン。


「ヴァン~っ!? 君はっ・・・そんなにボクのこと嫌いだったの~~っ!?!?」

「ノーコメントとさせて頂きます。そんなどうでもいいことはかく、あの神父。どうにも面倒そうなのですが?」

「どうでもいいくないよっ!!」


 喚くフィンを黙殺するヴァンのめた瞳。


「サファイア様へ、なにかあってからでは遅いと思うのですが?」

「ぅう・・・ヴァンのバカ~っ!?!?」


 キッとヴァンを睨み付けると、フィンは部屋を走り去ってしまった。


 遅れてバタン! と、ドアが乱暴に閉まる音。


「おそらく、追い掛けてほしいのでしょうが……面倒くさ……ではなくて、マスターの為にも、甘やかすのはよくないですからね。……うん。放っておきましょう」


 ・・・どうせ、この城を直ぐに出て行けるワケでもないのだから・・・


 しとしとと降りしきる雨を見やると、ヴァンはおもむろに窓を開けた。


 雨の雫混じりの風がふわりと部屋へ吹き込み、サラリと淡い色のハニーブロンドをなびかせる。


「・・・雨雲には、早く退いてもらわないと困るのよね・・・」


 黒い雨雲を見上げ、低い声が呟いた。


※※※※※※※※※※※※※※※


 部屋を飛び出したフィンは、一人とぼとぼと城内を歩いていた。


「ヴァンのバカぁ……なんで追い掛けて来ないのぉ」


 いじけて呟くが、無論返って来る言葉は無い。余計に虚しくなるだけだ。


 あちこちをうろうろ、ふらふら、ぐるぐる。階段を上ったり下ったり。


 目的も無く城内を彷徨さまよい歩く。


 誰かにヴァンのことを聞かれるのが嫌だったので、人の気配がする度にこそこそと隠れながら。


 そんなことを繰り返しているうちに・・・


「ここどこぉ・・・?」


 案の定、迷子になった。


「暗いし・・・」


 雨を連れて来た厚い雲のせいで、城内は薄暗い。


 フィンはそのお陰で人をやり過ごしていたが、いつの間にか迷い込んだここは、灯りが必要な程に暗い場所だ。


 どんな道順でここへ来たのかも、全く覚えていない。なので当然、帰り道もわからない。


 そしてなにより、自分を追い掛けても来ないヴァンのところへ戻るのはしゃくだった。


 だからフィンは、暗い廊下を進むことにした。

 転ばないよう、壁に手を置いて慎重に進む。


 しばらく壁伝いに進んでいると、


「あ、行き止まり?」


 手が壁に触れた。これ以上は進めない。が、ペタペタ壁に触っていると、


「?」


 壁の材質が変わった。石材から木材へと。


「もしかして、ドア?」


 なら、取っ手がある筈だ。フィンがそう思った途端、カチャリとドアが内側から開いた。


「え?」


 そして、フィンは――――

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