人間であるか、確かめなければ。


 吸血鬼の住まう城と聞いて警戒していたのだが・・・食事の内容は、豪華過ぎることを除けば、至って普通だった。特に怪しい食材は無く、大変美味な食事だった。


 フィン君の食欲には驚かされたが、彼が孤児だというなら、そう不思議でもない。


 あんなに豪華な食事は、普通の庶民では食べられないからだ。沢山食べておこうということなのだろう・・・食べ過ぎについては、少々心配ではあるが。


 フィン君が大量に食べていたせいで、テーブルをくるくると皿が行き交っていたが、サファイアが食べていた食事の量は、ほんの少しだった。


 白い髪、青白い肌、名前にそぐわない色の瞳。彼女はとても不健康そうに見えるのに・・・なぜか不思議と美しい。


 吸血鬼の噂のある・・・若く美しい女領主。サファイア・レインディア。


 わたしは、彼女を・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


 テオドール・クレシェンド神父。


 彼個人には、なんの含みも無いが・・・


 この城では、教会の人間だというだけで、十分に問題がある。


 教会は、普通の善良とされる人間には優しい。が、一度普通ではないと判断された者には、恐ろしい程に牙を剥く。


 普通ではない者・・・・・・・を、狩る為に・・・


 そして、その、普通ではない・・・・・・と判断された者を、庇った者までもが、狩りの対象となる。


 だから・・・早く出て行ってほしい。


 サファイア様の、為にも・・・


 願わくば、何事も起きぬよう。


 早く、この雨が止みますように・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


 雨が降る。一時のような激しさは既にないが、しとしとと数時間以上降り続いている。


 日差しが入らないせいか、まだ昼過ぎだというのに夕方のように薄暗く、石造りの城内は空気がひんやりとして肌寒く感じる程だ。


 城の人間は皆親切だ。


 今のところ、怪しい素振りをする者はいないし、首に下げたロザリオの十字架に嫌な顔をする者も誰もいない。


 唯一、神父が嫌いだと断言したのはフィン君のみ。


 それもまあ、あの食い意地と容貌、孤児だという事情を鑑みれば、そう不思議なことでもない。ああいや、教会を嫌いになることは十分に問題ではあるが、彼は少し珍しい容姿をしているだけの普通の子だろう。


 城にいる人間全員を見たワケではないが・・・疑惑の人物は、領主のサファイア。そして、姿を現さない、金髪で美形だという男。


 人間であるか、確かめなければ。


 とりあえず、面識のあるサファイアから。


 しかし彼女は、わたしの身に付けているロザリオを目にしても、祈りの言葉に対しても反応が無かった。


 高位のヴァンパイアには、十字架や聖句も効かないと聞いたことはあるが・・・

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