わたくしの子がどうして? なんで?
お勉強は難しくてあんまりできなかったけど、エドガー様が『それでいい』と、『
お義母様のネヴィラ様とお義姉様のフィオレ様は難しいお顔をされて、偶にイジワルをするけど、その度にエドガー様がわたくしを庇ってくれたの。
やっぱりエドガー様は優しくて素敵だわ。
物語のヒロインも、身分差がある場合はお義母様やお義姉様になる方にイジワルをされることはあったから、きっと幸せになるのに必要なことなのね? と、そう思って、わたくしは一生懸命耐えたの。
そして、エドガー様と結婚して――――
なぜかお父様とお兄様達は、あんまり祝福してくれなくて――――
悲しい気持ちになったのだけど、
「身分差があるからもう、簡単にうちに帰って来てはいけないよ」
そう言われて、納得したの。
ああ、わたくしがうちに帰って来れなくなるから、お父様もお兄様達もわたくしとエドガー様の結婚に反対していたのね? と。
寂しいけど、我慢しなきゃ。
そう思って、わたくしはハウウェル侯爵家へ嫁いだの。
ハウウェル侯爵家では、子爵令嬢としては通じた礼儀作法が通用しないと言われてとても困ったわ。
お義母様はわたくしのお母様とは違ってとても厳しくて、わたくしはちっとも気が休まらなかった。お義姉様のフィオレ様は余所へ嫁いで行ったので侯爵家にはもういなかったけれど・・・
お義母様の厳しさを見かねたエドガー様が、お義父様とお義母様とは別居すると言って、今の子爵邸にわたくしを連れて来てくれたの。
二人で暮らして――――しばらくして、子供ができたことがわかったの。
とても嬉しくて、エドガー様にご報告。
エドガー様は喜んでくれて、わたくしも喜んだの。
でも・・・妊娠中があんなに大変だなんて、全く知らなかったわ。
なにをしても気分が悪くなってしまって、お食事もできない。少し気分が良くなって、ごはんが食べられたと思ったら、今さっき食べていた物がいきなり食べられなくなってしまう。
吐いたり、寝込んだりして――――その間は、お義母様も侯爵夫人になるためのお勉強を免除してくれたのだけど。
お腹が大きくなって、身体が重くなって、自由に動けなくなって、お食事も満足にできなくなって、かと思ったら、食欲がコントロールできなくなって、本当に大変だったわ。
お家には帰れなくて、お母様に相談もできなくて、とても心細い思いをしたの。
でも、一番大変だったのは、出産のとき。陣痛がつらいのなんのって。
長い時間、お腹や背中の、あちこちの痛みに苦しんで、ようやく生まれたのは男の子。ぽわぽわの髪の毛に、甘酸っぱいようなミルクの匂い。薄くて柔らかい、もちもちした肌。
可愛い可愛い男の子。
エドガー様と名前を考えて、セディックと名前を付けたの。
セディック……セディーは、たくさん泣く赤ちゃんだった。
真っ赤な顔で、なかなかミルクを飲んでくれない。やっと飲んでくれても、吐き出してしまったりする。荒い息で、苦しそうにしている。夜泣きも酷くて、朝まで寝てくれないこともあった。
ベテランの乳母に来てもらって、ようやくお世話ができるようになった。
それからもよく熱を出して、泣いてはぐったりすることの繰り返し。
おかしいと思ってお医者さんを呼んで診てもらったら、セディーは身体が弱いと言われたの。
わたくしの子がどうして? なんで? そう思ったわ。
セディーが可哀想で可哀想で……
セディーが泣くとわたくしも泣いて過ごして――――
セディーが乳児の頃は、泣き暮らした覚えしかない。
それから、二歳になる頃にはあまり泣かなくなったけれど、身体は相変わらず弱いまま。
そして、セディーが三歳になる前にまた妊娠がわかって――――
大変な思いをして産んだ子は、また男の子だった。
次の子は、綺麗な顔をしていて・・・エドガー様は、なぜかあんまり喜んでくれなかったの。どうして? と、少し不満に思ったのだけど――――
ネイサンと名付けた子は、セディーとは違ってあまり泣かない子で・・・丈夫な子だった。
セディーは相変わらず病弱で、セディーの看病でネイサン……ネイトと一緒にいる時間は少なくなってしまったの。
お義母様は、マナーレッスンを再開して社交に顔を出してはどうかと言っていたけれど・・・そんなのは嫌。セディーやネイトを放ってお茶会に行くだなんて、可哀想だもの。
セディーの看病とネイトのお世話、お義母様のお誘いに疲れていたら・・・
ある日、ネイトを見ていたエドガー様が言ったの。
「生まれたときから思っていたが・・・ネイサンは母上にそっくりな顔をしているな」
と、エドガー様の一言で、ネイトがお義母様に見えて来たの。
セディーが病弱で、一緒にいてあげないと可哀想なのに、社交やマナーレッスンの方を優先させなさいと言うお義母様。わたくしに厳しく当たるお義母様。できないと言っているのに、「次期侯爵夫人がそんなことを言ってはいけません」とわたくしを叱るお義母様。
エドガー様が、ネイトが生まれたときに喜んでくれなかった意味がわかってしまった。
もう、駄目だった。以前のように、ネイトが可愛いとは思えなくなった。
だってネイトの顔を見ると、お義母様の叱る声が聞こえて来るの。
ネイトが健康だったことも、なんだか憎らしく思えて来て――――
わたくしは、ネイトを遠ざけた。
そしたら、お義母様がネイトを連れて行ってしまった。
ネイトとお義母様の顔を見なくて済むと思ったら――――安心できた。
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