僕、ネイトに嫌われたら生きてけない~!


 ネイトの待つ馬車へと向かった。


「遅くなってごめん、ネイト!」


 と、馬車の扉を開けると・・・


「んむ?」


 ネイトは、むぐむぐとお菓子を食べていた。僕を見てごっくんと、


「お帰りー」


 お菓子を飲み込んで口を開く。


 あれ? なんかこう、思ってたよりも普通な感じだ。ネイトはもっと、ショックを受けているかもっ!? って、心配したんだけど・・・


「えっと、ただいま? そのお菓子、どうしたの?」

「ん? 持って来たおやつ。なんか疲れたなーと思って。食べる? 疲れたときは甘い物でしょ」


 いつものネイトよりも、甘めなチョイスのお菓子。普通の顔をしているけど、疲れたというのは本当なのかもしれない。


「そっか、そうだよねぇ……うん、ありがと」


 ゆっくり走る馬車の中。ネイトの差し出したお菓子を食べながら、ぽつぽつと話をする。


「ごめんね? 嫌な思い、いっぱいさせたよね? 意地悪なことも言っちゃったし・・・」


 少し自己嫌悪をしながら、ネイトに謝る。


「わたしより、セディーの方が大丈夫?」

「え?」

「セディーが怒ってるとこ、あんまり見たことないから。それに、セディーの方がわたしよりもあの二人のこと嫌いでしょ。無理、してない?」


 と、心配そうに覗き込むペリドット。


「わたしよりも嫌な思い、いっぱいしてたのはセディーの方でしょ?」

「っ……ネイト~っ!? 僕、ネイトに嫌われたら生きてけない~!」


 なんだか感極まって思わずネイトに抱き付くと、


「ん、大丈夫大丈夫。セディーがわたしのこと大好きなのはちゃんとわかってるから」


 よしよしという風にぽんぽんと背中が撫でられる。


「ね、ネイトにあんな意地悪なことを言って、嫌われたらっ……どうしようって……」

「嫌わないよ。わたしは、セディーのことは絶対嫌いにならない。でも・・・」

「で、でもってなにっ!?」

「や、わたしに嫌われたら生きてけないっていうのは、ちょっと大袈裟じゃない?」


 ネイトの言葉にふるふると首を振る。


 僕は、ネイトがいたから、あんな人達と暮らしていても腐らずにいることができた。


 夜。一人不安で過ごしていた暗い部屋に、ひょっこりと小さいネイトが現れて――――


 僕のことを、「にぃに」って呼んでくれたとき、どれだけ嬉しかったことか。


 小さくて温かい指で、手で、僕の手を握ってくれたことが、「あそぼ」って言われて、求められることをどんなに喜んだことか。


 体調を崩して寝込んでいるときに、「いたいのいたいのとんでけ」と言って一生懸命看病してくれたことが、どんなに心強かったことか・・・


 ネイトの存在が、どれだけ僕の救いになっていたのかを、ネイトは全然わかっていない。


 本当に本当に、ネイトがいたから僕は・・・こうして生きてられる。あの二人にも後ろ暗いことをせずに、踏み留まれた。


「愛してるよ、ネイト」

「セディー……そういうのは、ケイトさんに言ってあげなよ」


 少し呆れの混じる声。


「……なんでそこでケイトさん?」

「あのね、ケイトさんは婚約者でしょ。セディーの」

「それは、そうだけど……」

「それに、好きでしょ? セディーは。ケイトさんのこと」

「へ? 僕、が・・・ケイトさんのことを、好、き?」

「? 好きだから、婚約を申し込んだんじゃないの? それとも、無自覚?」

「? なにが?」

「ああ、気付いてないんだ。セディー、ケイトさんだけには警戒してないんだよ」

「警戒?」

「うん。笑顔が自然なんだよね、ケイトさんとリヒャルト君の相手をしているときには。うちで、お祖父様とおばあ様と話してるときと変わらない表情って言うか・・・むしろ、慈しむような顔? してるし」

「は? 慈しむ? 僕が? ケイトさんを? リヒャルト君じゃなくって?」

「ん~……リヒャルト君とケイトさん、両方に」

「ちょっ、え? は? え? 僕が?」

「なんだ、本当に無自覚だったんだ」

「いや、え? ケイトさん、は・・・」


 どんなに周囲の馬鹿共に喧嘩を吹っ掛けられても、酷いことを言われても、嫌な思いをしていたとしても、ずっと真っ直ぐで、凛としている姿がネイトと似てるなぁって思ったりはしたけ、ど・・・っ!?


 もしかして、僕、どこかネイトと似た姿のケイトさんのこと・・・


 いつの間にか好きになってたっ!?!?


 と、ちょっと頭がパニックになっている間にハウウェル侯爵家うちに着いて・・・


 ぱたんと倒れた。


 あの二人に引導を渡したことへのストレスだろうって、お祖父様とおばあ様は言ってたけど・・・


 知恵熱なのかも? って、自分で思った。


 翌早朝。ネイトは心配そうな顔をして、学園寮へ向かったそうだ。


 ・・・ちょっとだけ、ケイトさんと顔を合わせるのが気まずいような、気恥ずかしいような・・・


 どうしようっ!?


 ど、どんな顔してケイトさんと会えばいいのっ!?


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰



 セディーのデレです。( *´艸`)


 前回とのギャップ……(笑)


 次は、視点変更。需要があるのか不明なメラリア(おかん)視点となります。

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