もうこんなことやめてちょうだいっ!?


「せ、正当な嫡男は僕だっ!!」

「あなたが使えないから、僕が当主になるんですよ」

「セディー? どうしてそんな酷いことを言うの? お父様にそんな意地悪なことを言わないで?」

「本当に、頭が悪い人ですね。なにも判っていないなら、大人しく黙っていてください。それくらいなら、あなたにもできるでしょ」


「セディーっ!? なんでそんなこと言うのっ? あなたは優しい子でしょっ!? お義父様と、お義母様……なの? お義父様とお義母様が、セディーにそう言えって命令したのねっ? セディーが逆らえないからって、なんて酷いことをさせるのっ!! 大丈夫よ、セディー。お父様とお母様があなたを守ってあげるから、そんな酷い命令なんて聞かなくていいの、ねえ? そうでしょ? エドガー様」


 甲高い声に涙が混じり、父へと泣き付く母。


「いい加減にしてください。僕はあなたの、そうやって他人に責任転嫁して悲劇のヒロイン振るところがずっと嫌いだった。気持ち悪いんですよ。あなた、一体幾つなんですか? 幼児ならかく、中年になっても泣き喚けば周りが言うことを聞いてくれると思っているその思考も、全く理解できない。見苦しい」


「っ!?」

「セディックっ!? メラリアになんてことを言うんだっ!! 謝れっ!?」


「率直な事実ですが? あなたも、そうやって得意げにヒロインを庇うヒーロー面が気持ち悪いんですよ。お祖父様とおばあ様があなた達のその安っぽい茶番に付き合ってあげていたのは、単に大人の怒鳴り合いを子供僕達に見せまいとしていただけです。そんなに演劇がしたいのでしたら、さっさと除籍届にサインをして舞台俳優にでもなったらどうです?」

「セディックぅっ!!!!」


 と、顔を真っ赤にさせた父がセディーに掴み掛かろうとしたので、すっと剣を突き付ける。


「ネイトっ!?」


 耳障りな甲高い悲鳴。


「っ!? なんの真似だネイサンっ!?」


 憎々しげな低い声で睨み付ける父だった男。


「セディーの護衛ですが? 誰かさん達に騎士学校へ通わせてもらったお陰で、警護の真似事くらいはできるようになりましたからね。そのわたしに、暴力で敵うとでも?」

「っ、親にこんなことしてっ、剣を向けてもいいと思っているのかっ!?」

「ついさっき、あなたに除籍されましたからね。わたし達はもう他人です」


 まぁ、厳密には除籍届の書類審査が通って国に認められてから初めて、他人になるんだけど。


 自分から進んでサインをした時点で、もう他人だと言ってもいいだろう。


 一応、剣はまだ鞘からは抜いてないし。


「もうこんなことやめてちょうだいっ!? お願いだからっ!? あなた達は優しい子でしょっ!! お父様に謝ってっ!! 今ならまだ許してあげるから!」

「……話にならない。いい加減、黙れ」


 冷えた低い声と、怒りを湛えて底光りするブラウンが母へと向けられる。


「!」

「あなた達に選択権があるとでも? 僕も本当は、ここまではしたくなかったんですが・・・訴えてもいいんですよ? あなた達二人を。殺人未遂で」

「は?」

「なにを、言っているの? セディー? そんな恐ろしいことなんて、わたくしとエドガー様がするはずないでしょう? な、なにかの間違いよっ!」


「まだ判りませんか・・・ネイトと、その乳母に対する殺人未遂ですよ。今から十二年程前。ネイトが六歳の頃のこと。ピクニックだと言って花畑に出掛けて、ネイトと乳母の二人を置き去りにしましたよね?」


「それ、は……ちょっと忘れてしまっただけじゃない。ネイトも見付かって、ちゃんと無事に帰って来たでしょ? そんな、殺人未遂だなんて大袈裟なこと言わないでちょうだい」


「大袈裟? 通常の親なら、小さな子供の姿が数時間見えない時点で大騒ぎして探すのが普通なんですよ。それを、あなた達はっ・・・僕が幾らネイトを探してと頼んでも聞きやしなかった! 挙げ句、ネイトを保護したのは、ネイトの姿が見えなくなってから半日も経ってから。それに、あなたは帰って来たネイトを無理矢理馬車から引き摺り出して殴りましたよね?」


「っ……」

「『こんな騒ぎを起こして楽しいか?』と、そんなことを言って」

「それは、エドガー様も気が動転して……」

「そんなワケないでしょう! いなくなっていた子供が帰って来て、喜ぶどころか暴言を吐く! 帰って来た子が、具合を悪くして寝込んでいるのに見舞いにも行かないで笑って過ごす! そんなのは父親でも母親でもないっ!!」

「セディー、落ち着いて」


 激昂するセディーに声を掛けると、


「っ・・・ごめん、ネイト」


 ふぅ、と怒りを逃がすように大きく息を吐くセディー。


「子供がいなくなっても慌てない。置き去りにした可能性を示唆したのに、その場所まで行って探そうともしない。偶々ネイトと乳母が無事だったからいいようなものを。そうじゃなければ、夜盗や野生動物に襲われていたかもしれない。誘拐されていたかもしれない。事故に遭っていたかもしれない。また、帰って来て体調を崩して発熱したのに医者すら呼ばない。これ、世間から見たら明確に疑われますよ? ハウウェル子爵夫妻は計画的にネイト次男を殺そうとした、と」


「え?」

「っ・・・」


 ぽかんとした顔の母。ぐっと唇を噛み締める父。


「当時の使用人達からの証言を取って、資料にしてあります。出掛けた場所、時間。当時の周辺の治安状況。ネイトの姿が見えなくなった期間。僕がネイトを探してほしいと頼んだこと。あなた達が笑って、一切取り合わなかったこと。僕の頼みで、ネイトの捜索をさせたこと。帰って来たネイトを殴ったこと。ネイトの具合が悪くなっても放置したこと。見舞いどころか、医者も呼ばなかったこと。挙げ句、ネイトの乳母を解雇したこと。あなた達がネイトのことをどう思っているように見えていたのか。その全てを詳細に記して、弁護士に渡しています。訴えたら、絶対にネイトが勝ちますよ? 幾ら腕利きの弁護士を雇おうが、これだけの証拠が揃っていれば有罪は確定」


 まぁ、この人達に腕利きの弁護士を雇えるだけのコネがあるとも思えないけどね?


「なので、罪人になるか、除籍届にサインをするか、今ここで選ばせてあげます」

「っ!! ネイサン! セディックに言ってやめさせろっ!?」

「そうよ、ネイト。あなたは優しい子だもの。そんなことしないわよね?」


__________



 腐ったお花畑が爛漫中。(笑)


 そして、セディーがこそこそ動いていたやつですね。おとんとおかんにバレないよう、キッチリと証拠固めをしてました。

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